「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。
ゲーム始め
小2の半ば(8歳)になってから、長女が急にゲームのマインクラフト(マイクラ)で遊び始めた。
デバイスは、ギガスクール構想によって小1の半ばに学校から一人一台配られた小型ノートパソコンである。2020年9月、コロナの影響で奈良市では前倒しでパソコン貸与が実施された。学校での初めてのパソコンを使った学習がスクラッチとマイクラで遊んでみようというものだった。その日は帰るなり「今日学校で、ゲームで遊べてとても楽しかった!」と興奮した様子で言い、おやつも食べずランドセルからパソコンを取り出た。
デジタルゲームに触れるのはもう少し先にしようという編集かあさんの構想が変更を余儀なくされた瞬間だった。
小学校から貸与されている小型パソコンの画面。
タブレットのようにタッチで操作できる
「検索」を覚える
小1の時は家ではパソコンを出さないことにしていたが、小2になるとそうもいかなくなった。九九の暗唱や音読、鍵盤ハーモニカの演奏などを録音して提出する宿題が出るようになる。
学校で音声入力による検索の仕方を習うと、見たい動画を自分でさがすことができるようになった。
マイクラのゲーム実況を見始めるととまらない。宿題を終えた後、静かだなと思っていると、自分の部屋で動画に見入っている。あっという間に2時間、3時間が経つ。
国語の時間に「鬼ごっこずかん」を作る時に、グーグル検索を教えてもらったのである。検索を使うのも、少し先にしようと思っていたが、長女は「いいこと教えてもらった」とその日もとてもうれしそうだった。
世界観を聞いてみる
パソコンに向かう時間が長くなると、視覚ばかり使って身体感覚は育つのだろうかという心配がもたげてくる。またテレビのようにみなで見るものではないので、何を見たり、したりしているのかが見えにくい。
どんな世界なのか、子ども自身に説明してもらって、ワールドモデルを共有してみようと思い立った。
学校で遊んでいいと言われているのはマインクラフト・アドベンチャーのクリエイティブモードである。ログインするところから一緒に始める。
「まず、キャラクターを選ぶんだ」
最初にキャラクターを選択する。ヒゲのスティーブか金髪のアレックスか
左にキャラクターが動くゲーム画面、右側にブロックを組み合わせてコードを組み立てるワークスペースがある。まずはコードを組み立て、終わったら実行ボタンを押す。キャラクターが動き、ミッションがクリアできたらその場面はクリアとなる。
全体の世界観は「サバイバル」のモドキで、平原などの場所に家を立てたり、作物をつくったりしていく。
左にゲーム画面、右にコードを書くワークスペースがある
ミッションは段階を追って難しくなっていく。
1.羊に近づく
2.木を破壊する
3.羊の毛を刈る
4.木を3本切り倒す
5.壁を作って家を建てる
自動翻訳らしく、時々英語混じりだったり、違和感があったりするが長女は気にしない。この調子で14まで進むと、「おめでとうございます! ここで学んだことを使えば、掘ったり、建てたり、作ったり、好きなことができます。」というメッセージが表示された。
「”目標達成”っていうのが出てくるのがいいんだよね」と長女が言う。
やり方がわからなければ、いつでもチュートリアル動画が見られる。すべて英語だが、日本語の字幕がついている。
まったくゲーム経験のない編集かあさんはこの仕組みにうなってしまった。友達や先生が横にいなくてもゲームを進めていくことができ
る。動画はスキップもできる。
このプログラムは遊ぶためだけのものではなく、プログラミング教育の現場のために開発されたゲームでもあり、ある段階まで到達すると、開発チームによる「あなたはコンピュータサイエンスの基礎を学びました」というコメント動画が再生された。
現実世界を教える
マイクラは空き地での秘密基地づくり、ゲーム実況動画は年上のお兄さん、お姉さんのすごい技を背中越しに見ている感覚に近いものがありそうだ。どちらも遊びのアーキタイプに近くて、「やめなさい」と言ってもやめられない理由がわかる。
とはいえ身体の育ちについては心配な気持ちが残る。前よりも意識して、週末に実家の畑に連れていくことにした。
ジャガイモの植え付けをする。芽が出るのは2週間以上あとだと、おじいちゃん、おばあちゃんに教わる。ニンジンやキャベツを収穫する。
30センチずつ離して種芋を置いていく。小枝がモノサシ
ゲームの話がタブーではなくなったことでいろんな質問が飛び出すようになった。
たとえば「現実世界では、染料ってどうやって作るの?」
木や草の汁が多いことを、かつて藍染工房を見学にいったことを思い出しながら話す。
「黒曜石って、ほんとに固いの? どうやって作るの?」
マイクラではダイヤモンド、鉄などの鉱物資源がたくさん出てくる。
黒曜石といえば縄文時代だ。小学館の漫画『日本の歴史』を開いてみる。録画していたBS-TBSの『関口宏の一番新しい古代史』を一緒に見る。大きな黒曜石を鹿の角でたたき、手のひらサイズの黒曜石ナイフを作る様子が映しだされる。
「固いと思ってたけど、骨でたたいたら割れるんだ。マイクラではダイヤモンドのツルハシでしか壊せないんだよ」
<ほんと>のことを少しでも教えたくなってしまうのは大人の性なのだろうか。
『関口宏の一番新しい古代史』で黒曜石をじっくり見る
言葉が変わる
ゲームのために設定されたワールドモデルが苦手な長男はまったくゲームをしなかった。長女はまったく逆だ。ゲームの世界と【対比】しながら、現実世界のことを教えていくことになるとは予想外だった。
質問だけではない。エンチャントする、モブ、フラグなど、大人が使った事のないゲーム・ジャーゴンが日常に混じり始めた。こっそり検索してもいいけれど、わからない言葉は「それって、どういう意味?」とストレートに聞くことを心掛けている。
こんな国語的ホームエデュケーションが生まれたのも、ギガスクール構想の余波である。
「ホモ・デジタリスの時代」の教え方、学び方はモデル化が始まったばかりだと感じている。
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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