編集かあさんvol.55 愛知で考えたこと〜秘密基地と擬き力

2025/07/04(金)08:00 img
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「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)
たちが、「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。

 

■イシスの学習モデル

 イシス編集学校の学習モデルを地域で実践している人が各地にいる。そのうちの一人、愛知県で寺子屋・豆鉄砲を開いている野村英司さんを訪ねた。
 イシスの学びの仕組みを、リアルな場、特に子どもと大人の垣根をこえて広げていく仕組みを作るにはどうしたらいいのか、ずっと考えている。
 野村さんは2018年の本楼おやこ塾のナビ役の一人をつとめた、「子ども編集学校」プロジェクトの初期からのメンバーである。見学ではなく、寺子屋の生徒になってモデルを体感した。

 

野村さん(右)と

 

一つの丸テーブルを囲む

■生徒になる

 

 丸いテーブルで椅子を並べるのは小5のT君。T君は手にノートを持っている。テーブルの上にはタイマーがある。棚にはかるたやカード、絵の具などのツールや本、そのほかいろいろなものが置かれている。
 まず目を閉じ、全身をスキャンするように、今、自分の体や心がどんな状態かを1分ほどで感じる。
 T君がノートを広げる。寺子屋豆鉄砲では、その日に何をどんな時間配分で行いたいかを生徒自身が考える。
 短い話し合いをへて、この日は、「私は木です」というワークを10分、詩のカードを20分、形声文字カルタを45分、絵の具遊びを20分することになった。ノートにまず日付を書き込み、決めたことを絵のような図にする。

 

大切なツールの一つ、タイマー

 

■言葉を出せる間柄

 

 「私は木です」は、野村さんが続けているインプロビゼーション(即興演劇)を応用したワークである。最初に一人がまず「木」になる。別の人がその周りに何があるのか、ジェスチャーで加える。さらに別の人が新たな要素を加え、シーンを作る。3つの要素から一つを残し、同じ要領で、また新たなシーンを作っていく。【見立て】と【ごっこ遊び】と【物語】を全身で遊ぶ感覚だ。
 他の人のアイデアに触発されて、自分の中からも意外なアイデアが飛び出してくる。夢中になる。最初に決めた時間まで遊んだ後、どんなシーンが生まれたかを逆回しで振り返った。

 次は「詩のカード」。テーブルについて、箱からカードを出す。
 カードには、ある詩の一行目とそれをモチーフにした絵が書かれている。フィーリングでパッと選ぶ。絵から連想したことをつなげて、5分ぐらいで詩を作る。野村さんも詩を作る。作った後、発表しあう。

 

「詩のカード」(くもん出版)


 発表時、うまく書けているかな、といった逡巡がない。野村さんとT君の間に、感じたことを安心して言葉にできる関係ができているということが感じられた。互いに味わい、どこがいいと思ったかを言葉にして交換する。

 

■カルタで汗をかく

 

 「形声文字カルタ」は108枚ある漢字のカルタだ。豆鉄砲では、机をぐるぐる周りながらとるというルールが追加されている。3人交代で読みながら取る。T君が野村さんに僅差で勝利。私は遠く及ばずだった。
 漢字でこんなに汗をかいたのは初めてだった。「むずかしい」は「おもしろい」に通じるのだと改めて感じた。

 

「108形声文字カルタ」太郎次郎社


 最後のワークは絵の具遊び。それぞれ内心でお題を設定して、10分ほどで一枚の絵を描く。その後、見せあい、タイトルの当てあいをした。【自己編集】から【相互編集】への流れが心地よかった。
 1日の締めくくりとして、ノートを広げ、最初に立てた計画の図をみながら、気づいたこと、感じたことを言葉にして残す。私もノートに書き込む。
 その後、T君のお家でニンテンドースイッチ・アソビ大全のオセロや神経衰弱に誘われる。コテンパンに負ける。野村さんは互角に戦っていて、感心する。
 その日は、岡崎市のマイクロホテルに泊まった。

 

■「子ども編集学校」の姿は
 
 翌日、朝に待ち合わせして、野村さんが以前に塾を開いていた部屋と、これからスクール的な場を構想している里山のお寺へ案内してもらう。
 移動しながら、「子ども編集学校」について話す。 
 そもそもどうして私たちは、「子ども」と「編集」を出あわせたいと思うのか。
  今、イシス編集学校は大人が受講する学校として基本設計されている。
 数日に一度配信される「お題」へ回答すると、師範代が「指南」を返す。「お題」には正解はない。普段、無意識に使っている情報の型に気づき、自覚的に使っていけるようになる仕掛けが埋め込まれている。感覚としては、遊びながら上達していくのに近い。

 

お寺の横の原っぱ

 

 お寺にはハナモモが咲いていた。子どもたちと一緒に小屋作りなど、何かできたらいいのではないかという原っぱは、すっと伸びた竹が美しかった。
 「編集は遊びから始まる」のまっただ中にいる子どもたちには、配信されるお題に回答することやテキストだけのやりとりだけでは、おもしろいと感じられないだろう。
 それよりも、「やりたい」が「できた!」に変わった時に動いた情報の型を見出して、示すところからスタートするのではないか。そのためにはまず、「やりたい」が出せる関係と場を作ることが土台になる。


■秘密基地を持つこと
 
 お寺の後、岡崎市の穴場のアウトドアスポット、くらがり渓谷へ連れて行ってもらう。
 川音が耳に心地よい。大きな岩がゴロゴロしていて、自然の力強さを感じる。水は澄んでいて、時々白い飛沫をあげている。 
 野村さんが幼い頃に夏を過ごした場所で、今でも週末などに時々、リトリートにやってくるという。
 「あそこが僕の場所です」と一つの岩を指差し、近づいて行って、座る。

 

「自分の場所」に座る


 私も座らせてもらった。小学生の頃、空き地に大きな石がいくつも積まれていたところを遊び場にしていたことを思い出す。座り心地や木の影の当たり方で、応接室や台所などに見立てて、ままごと遊びをしていた。大人とは無関係な場所だった。その空き地は2000年ごろに整備されて、無くなってしまった。
 9歳ごろまでに秘密基地を持つことって大切かもしれないという話になる。今はそれが、ゲームの中にしか見つけにくくなっているかもしれない。

■今こそ、話したい

 一泊二日の愛知旅の締めくくりは、 名古屋支所・曼名伽(まんなか)組の小島伸吾さんと小島貴子さんが営んでいるヴァンキコーヒーロースターである。
 満面の笑みで迎えてくださったお二人の横で、足を組んで座る松岡正剛校長の面影が微笑んでいた。
 他にも至る所にアートの「擬」がある。
 コーヒーを選びながら、曼名伽組と関西支所・奇内花伝(きないかでん)組の近況を交換する。
 ヴァンキコーヒーロースターには名古屋に住む人だけでなく、遠くの師範代や千離衆も訪れ、コーヒーを買い、長話していくことがしばしばあると聞く。
 関西にはそういった場所はまだないが、今こそ話したいという思いで、汁講が定期的に開催されるようになりつつある。

 

コーヒー豆を焙煎する曼名伽組組長・小島伸吾さん

 

小島貴子さん(左)は13[守]全禅おしゃま教室師範代。お二人の「擬き力」の秘密についてはこちら

 

 6月2日、新メンバー3人を加え、25人のQ人と書民が集い、多読アレゴリアよみかき探Qクラブの3シーズン目「2025夏」が始まった。各地各人に受け継がれた方法と面影を交わしあい続けることが、イシス編集学校の学習モデルをイシスの外に広げていく源泉になるだろう。



information


◆子ども向け・親子向け・大人向けワークショップや出張授業などに興味がある方はお問い合わせください。

 

◆編集かあさんが運営する多読アレゴリア「よみかき探Qクラブ」活動中です。
 2025秋ラウンジは9月スタート、メンバー募集は8月の予定です。
 まずは情報を受け取りたいという方はエディット・カフェの子どもフィールドラウンジにご登録いたします。(無料)

 

◆子ども編集学校プロジェクトサイト
 https://es.isis.ne.jp/news/project/2757

 お問い合わせ kodomo@eel.co.jp

 

  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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