「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。
最上のたけのこ
軽トラが竹やぶについた。長女が長靴をはき、荷台から飛び降りる。
「たけのこ、出てるかな」
勇んで、少し薄暗い竹やぶの中に入っていく。
竹は見上げるほど高く、地面には乾いた落ち葉が降り積もっている。足の裏に神経を集中させて歩き出す。たけのこは、地面から数センチ出ていると、もう、惜しい。エグ味が増してしまう。ほんの先っぽだけ、さっき出たばかりというのが良い。
最上は、先がまだ枯葉に隠れているものである。「白子(しろこ)」と呼んでいる。見えないので、足の裏で見つける。
歩き回ってふいに硬いものを足の裏に感じた時の喜びには、普段の生活では味わえない純粋さがある。
目と足で探す
足のカメラ・目のカメラ
くまなく踏むことを思うと、広くないと思っていた竹やぶが急に広く見えてくる。なので、たけのこ堀りはできるだけたくさんで行くのがいい。
今日は高2の長男、小5の長女、私、義父、義母の5人しかいないので、「目のカメラ」も使い、少しだけ盛りあがっているところを見定めて踏みに行く。
「あった!」
「先端がちょっと出てるけど、まだ濃い緑じゃないから、さっき出たところかな?」
「掘ってみ」と義父が長男に鍬を渡す。
土の中のたけのこの形を想像しながら、少し離れたところに鍬を入れる。うっかり皮でくるまれているところを鍬で切ってしまうと、食べるところが減ってしまう。
長男は慎重に、少し離れたところから掘り始めた。
少しずつたけのこが姿を見せる
少しずつ土の中からたけのこが見えてくる。みんなが見守る中、最後は根とつながっているところにザクっと鍬を入れ、切り離した。
持ち上げて、1本目の大きさと重さを味わう。
目印をつける
一本とれると気持ちが楽になる。ここからは散らばって探すことになった。
下を見ながら歩く。ほどけるように伸びるシダの形に心を奪われる。ところどころに鹿や兎のフンが落ちている。
「みんな、たけのこ食べに来てるのかな」
たけのこ堀りに欠かせないツールが軍手である。
めいめい軍手を5、6つ持っておき、見つけたら上に置いて目印にする。鍬やシャベルを持っている人を呼びに行き、掘ってもらう。
慣れていないと置いた軍手にもう一度たどりつくのが難しい。竹やぶの中ではすぐに方向を見失う。子どもの姿もすぐに竹にまぎれる。
「お母さん、どこー」
長女が呼ぶ声が聞こえる。
目印の軍手
豊作
一本見つけると、近くに2本、3本と見つかる。7人で4本ほどしか見つけられなかった昨年とは打って変わって、今年は豊作らしい。義母は「ぎょうさん上がっている」と表現する。
長男が、義父と一緒にどんどん掘る。時に傷つけてしまうこともあるが、「いいよ、いいよ」と義父は笑みを絶やさない。
長女が「私も掘ってみる」というので、長男が鍬を渡す。
このあたりがいいと教えられながら、なんとか振り下ろす。2回、3回と掘るうち、だんだん固い土が柔らかくなってくる。土が飛び散る。
「わ、口に入っちゃった」
吐き出して、今度は口を閉じ、さらに掘る。
だんだんたけのこが見えてくる。近づいて細かく掘ろうとすると、
「今度は、目に入った!」
一生懸命涙を出して、砂を目から出そうとする。
掘るのは交代するというので、鍬を受け取って、掘りあげた。
手のひらより大きいものが出てきた
熟達する
出荷用に手入れしている竹やぶではないので、いろいろな形、大きさのたけのこが育っている。曲がっているものは特に掘るのが難しくて、太い根との位置関係を推理して、鍬を入れる必要がある。
1時間ほどたつと、長男が疲れるどころか、どんどんいきいきしてきた。
「だんだん、こう鍬を入れたらいいんだ」というのが見えてきた。効率よく掘れるようになってきた感覚がある、だからたけのこ堀りは楽しいのだという。
あまりにもたくさん上がってきているので、最後の方は私も掘った。
ちょっとでも迷ったら、長男に「ねえ、これってどっちの方向に曲がってる?」と質問することにした。そのほうが失敗も少ないし、早い。
山桜のメトリック
「もう1ヶ所行こう」
軽トラにふたたび乗り、少し離れた竹やぶへまわる。正確には周りのひらけているところでたけのこを探す。竹やぶが、今以上に広がらないようにするためにも、たけのこ堀りは重要な仕事になっている。
「ある!」
日当たりが良いせいか、掘ってみるとこちらの方がサイズが大きいものが出てきた。
竹やぶの端に、一本の山桜がある。昔から、この桜が咲くとたけのこ堀りの時期だという目印になってきたという。今年は雨が多かったせいか、山桜より早くたけのこが出た。
少し出過ぎているものは、掘り出すのをやめて、先端だけを切り落としていく。
たけのこらしいたけのこだが、食べるには遅い
資本主義のすきまで
合計で25本ほど収穫できた。半分をお土産に持たせてもらい、帰路につく。
帰ったら、すぐに茹でる作業が待っている。夕ご飯は簡単に済ませようと、スーパーに寄った。
野菜売り場の一角にたけのこがある。
「一本800円ぐらいするよ」と、車に積んでいるたけのこの山を思い出しながら、長男に言う。
「山で生えるものだけど、けっこう高いんだ」。確かに竹やぶの手入れや掘る手間を考えると、それぐらいになるかなと続けた。
「いつ掘ったものかわからないから、買うかどうかは迷うなあ」
たけのこについては、本当に美味しいものを、お金だけで手に入れるのはむずかしいのかもしれない。今日自分たちが掘ったものも、おすそ分けはできても、値段がつけられる気はしない。
そんなことを話していると、長女が「まあ、ホントは私はたけのこより、お菓子の”たけのこの里”の方が好きなんだけどね」と返してきた。
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松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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