「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。
たくさんの富士山
奈良から新幹線で東京に向かう途上、デッキで富士山の写真を撮ってくると、高2の長男が席を立った。
9/14,15の第84回感門之盟・番期同門祭は、家族連れ歓迎ということだったので子どもたちを誘ってみた。小5の長女は「ホテルに泊まれるなら」、長男は「一人で留守番するよりはおもしろそう」と、一緒に行くことになった。
長男は9月はじめにも関東に行っている。席に戻り、これまで撮ったいろいろな富士山の写真と比較していた。
3人で遠出するのは久しぶりだった。品川についてホテルに荷物を預けようとしたら長蛇の列で、ロッカーを探す。昼ごはんを駅のフードコートですませようとしたら、席が空いていない。慌てているうちに時間となり、ハンバーガーを大急ぎで食べ、タクシーで、会場であるネットワンバレーに駆け込んだ。
青く光る「感門之盟」の文字
白い空間に赤の提灯
これって何?
小学校の全校生徒数と同じぐらいの人数が集まっている。けれど、圧迫感や画一感は皆無だった。
オープニングのあと、2000年から2004年までのクロニクル映像が流れ、現代史が好きな長男が身を乗り出した。
最初のプログラムは守の卒門式。長女に「4ヶ月間、先生役をやりきったお祝いの式」と小声で説明する。
さまざまな本業を持つ師範代が、一人ずつ舞台に立つ。師範が、守のお題38番の指南を全うしたことをねぎらい、讃える。師範代は師範からマイクを受け取り、感じたことをスピーチする。長男は、時折プログラムに目を落としながら聞いている。
1時間ぐらいたつと長女がもじもじしてきた。
軽井沢風越学園の本城慎之介さんが法被姿で、ひときわ迫力のあるスピーチをする。「あの人は、長野県に新しい学校を作った人なんだよ」と小声でプロフィールを補足するように話したりする。
休憩時間となり、一緒に子どものためのスペースへ行く。去年の遠足エディッツで一緒に遊んだ上原悦子さん家のゴウくんが先に来ている。
篠原(鈴木)郁恵さん家のイオリくんや、千夜千冊1816夜に登場するニレさん寺平さん家のユートさんはともに年中組だ。初めましてだが、もうなんとなくなじんでいる。ユートくんに「蝶ネクタイ、かっこいいね」と声をかけると、おめかししてきたことを誇らしそうに話してくれた。
子どもスペースは、感門団員でもある子どもフィールドメンバーが前日に仮留めで設置していた。折り紙、カードゲーム、絵本、お菓子を持ち寄った。
長女は、いいよと言うか言わないかの間に、座って折り紙で遊び始めていた。
お菓子・折り紙・大人・青年・子ども
スェーデン語版『長くつ下のピッピ』
社会の縁側
「まついさーん、まついさーん」
松井さんと話したいと、ゴウくんから呼ばれる。
大きなガラス窓の外に、大井競馬場が見えている。京浜運河沿いに東京モノレールが走っている。電車に詳しいゴウくんが、モノレールのランプの種類や、通過車両の見分け方などを指さしながら話してくれる。
競馬場の手前にあるたくさんの四角い建物は何なんだろうと不思議に思い、尋ねると「馬が住んでるって聞いた」。何頭ぐらいいるんだろう? 景色の見え方が変わった。
左手に京浜運河・東京モノレール。奥は大井競馬場
長男は「自分はちょっと話を聞いてくる」と子どもスペースを去る。
次の休憩の時に戻ってきて、「ネットワンシステムズの社長の話がおもしろかった」と要約してくれた。
会場であるネットワンバレーは2023年にできたばかりであること、設計に「企業にも縁側や床の間のような空間が必要なんだよ」という松岡正剛校長の言葉が影響していることに驚いたという。
この7階ホールは、こういった思想が背景にあって生まれた。また、企業ロゴは漢字の「匠」を元にしている。これは、ネットワンシステムズがIT業界の匠となることをコンセプトにしていること、イシス編集学校のロールに学匠、月匠をはじめとする「匠」が多いことと関連している。
企業の社屋やロゴが、どんなきっかけでできていくのかについてはこれまで考えたことがなかったし、ましてや校長が影響しているというのは想像したことがなかったと話した。
「匠」を象ったネットワンシステムズ株式会社のロゴ
喧嘩するなら
連離連行衆の一人として関わった十六離の退院式は絶対に見たかったので、子どもスペースの目配りは子どもフィールドメンバーにお願いして、かぶりつく勢いで見る。
太田香保総匠が十六離の冒頭の問い「セイゴオ・グノーシスとは何か」を場に共有した。
小西明子別当師範代が退院証を手渡すに当たって、校長の形代衣装としてのジャケットを羽織る。背中に書かれた文字が揺れる。
喧嘩するならアナキズム
守るだけなら墨子とプラトン
式が終わって子どもスペースに戻ってきたら、子どもたちはますます元気だった。長女によると小さな衝突や喧嘩もあったらしい。
この広い会場内で、ここは最も内から発露するものがぶつかりあうアナキズム的世界なのだった。
子どもたちの目の高さになって、何があったのか、どんなふうに感じたり考えたりしたのかを聞く。
一区切りしてから、ユート君に「壇上のお母さん、赤い服で素敵だったよ」と話して、スマホで撮った写真を見せてみる。子どもたちには、大人がいろんな顔を持っているということをいつも伝えたいと思っている。ユートくんからは「そうだよ。ママ、かわいいでしょ」という言葉が返ってきた。
十六離のセレモニー
思いがけない言葉やモノ
立ち上がると、大人どうしで話すモードになる。
これまでオンライン上だけで交流していた方と、ここぞとばかりに話す。勢いがつきすぎて、プチ人生相談になり「どんなことも始めるのに遅いということはない」という激励の言葉をいただいたりする。
黒膜衆の松原朋子さんがスマホとマイクを持って回っている。SNSでの発信用に撮影しているとのことなので、多読アレゴリア「よみかき探Qクラブ」のフライヤーを手に、12月よりスタートすることをピーアールする。
またたくまに休憩時間は飛び去り、離の受賞式が始まる。
松岡校長が典離受賞者へと太田総匠に託したのは押し寿司の型だった。別当師範代をはじめとする指導陣には鉋や毛引など大工道具が贈られる。胸の中で、それらの形に乗せられたメッセージは何かを想像する。
秋の日は釣瓶落とし。窓の外には、もう都会の夜景が広がっている。
子どもスペースに戻ると、ゴウ君が「さっき、屋形船が通って行ったよ」。
見せたかったと言われる。
カードゲーム「カンジモンスターズ」の輪に、式での役割を終えた、ユート君のお父さんの寺平さんが加わってくれている。先にルールを知った子どもたちが遊び方やコツを教えていた。
タンキュー株式会社の「カンジモンスターズ」は、松岡正剛校長の『白川静 漢字の世界観』 (平凡社新書)をきっかけに生まれたカードゲーム
インプットが足りないとき
トイレに行ってきた長女は、「きれいさにびっくりした。学校のトイレもあんなのだったらいいのに」と興奮気味に話す。
この場所に慣れ、飽き始めた子どもたちは、ますます動きや声が大きくなっている。制御がききにくくなっているというのもある。動きは、小さくする方が修練が必要なのだ。
子どもの心をまだ持っているらしい長男は、小さい子たちにちょっかいをかけられた時に、不機嫌を隠さなかったらしい。長男自身はケロッとしているが、長女はハラハラし通しで、疲れてきてしまったと訴えた。
そして「ずっと遊びの時間で、学びがないとしんどいかも。授業があって、その間に休み時間があるから、休み時間が貴重なんだってわかった」という発見を口にした。
大人からのインプットが少ない分、その場にあるものを見立てたり、体でぶつかり、競いあう遊びが起こりやすくなる。
折り紙でいくつもの手裏剣をできている。隅っこに置いてあった紙の筒がチャンバラの剣に見立てらる。一本しかないので取り合いになる。
窓の外はすっかり夜に
DAY1の終わりとその後
1日目最後のプログラム、全員での写真撮影の時間になった。
長男は臆せず真ん中に写りに行った。小中時代は集合写真にほとんど写らなかった。場と時間が変わると、子どものふるまいは変わる。
晩御飯は、行こうと思っていたレストランが満員で閉店となっていた。しょんぼりしていると、コンビニで食べられるものを買って部屋ですませようと子どもたちが発案した。東京ローカルのテレビ番組を見ながら、普段よりも2時間遅い晩御飯になった。
窓の外には、品川駅に乗り入れるいくつもの線路と、マイクロソフトとキャノンの大きなビルが光っていた。
*後編 編集かあさんvol.53 社会の縁側で飛び跳ねる【82感門】DAY2はこちら
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松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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