[週刊花目付#46] さしかかるときの言葉

2022/12/20(火)12:06
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週刊花目付#46

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■2022.12.13(火)

 

 キャンプ場オープン。入伝生は「キャンパー」に、指導陣は「花守衆」にそれぞれ着替え、週末の「指南編集トレーニングキャンプ」への準備が始まる。

 参加者全員が集うセンターラウンジは「そらみつ境」、キャンパーたちのトレーニングラウンジは「あしひき座」「しろたえ座」と名づけられた。38[花]のキーブックに指定されている『面影日本』から枕詞を借りたネーミングだ。面影発生装置の呪力がキャンパーたちの編集的相転移を誘うことを期待したい。

 

 

■2022.12.14(水)

 

 何かがうまく出来たときに、その成果やプロセスを褒めるのは簡単だ。問題は「うまく出来ないときにどんな言葉を掛けるのか?」である。何かがうまく行かないことは誰にとっても身に覚えのあることだろうに、どうして私たちは「さしかかるときの言葉」に迷うのか。

 

 この問題を考えるにつけ、昨日までの学衆が今日の師範代を担うISISシステムはよくよく練られた仕組みだとしみじみ思う。少し先にその道を歩いた者が後続者の案内をする、というわけだ。他者の稽古体験をサポートすることは、自身の稽古体験を深めることにも直結するだろう。

 師範代ロールは人格者や成績優秀者が抜擢されるのではなく、問感応答じようとするココロザシやココロイキによって動機づけられている。

 

 

■2022.12.16(金)

 

 キャンプ前夜。そらみつ境に、個々のめあてを記した「目前心後標」が届けられ、グループワークの組み分けと概要が発表される。

 

 キャンパーのなかには様々な理由で予告された時間帯に参加できない者がいて、パートナーに事情や都合を申告し、別様の参加方法を模索している。イシスではしばしば「時間編集」や「事情編集」と呼ばれるマネージメントである。
 師範代とは「場」をホストするロールなのだから、たとえ不在でも不在なりに在を示すことが求められる。そうした「起こり得る想定外」についてのイメージメントも、キャンパーにとっては大切なワークとなる。

 

 編集稽古は、いわば「在家者のための修道」だ。入門者には多様なバックグラウンドと多彩なラーニングスタイルがある。お題やロールに専心はしても、専念や専任を求めない。むしろ教室の外とインタースコアするポリロールこそが編集力の躍如なのである。言い換えれば、編集状態に身を置こうとするなら「たくさんのわたし」を常態化することが第一歩となる。

 

 

■2022.12.19(月)

 

 昨夜のキャンプファイヤーは、日付が変わる頃に熾火となった

 

 それぞれにワークを振り返り、成果を称えあい、縦横に編集談義を交わすなか、「何故わざわざEditCafeに集うのか?」とオンラインキャンプの意義を問うたキャンパーの発言が目にとまった。

 たしかにEditCafeは、オンライン学習の草分けであるイシス編集学校にとってホームグラウンドであるにも関わらず、2022年に至ってもなお、音声や画像のみならずテキストの装飾すら一切排除した最小限の仕様を貫いている。一方では、伝習座や感門之盟をはじめとする各種編集イベントをzoomへ展いて開催しているというのに、どうして式目演習のクライマックスたる「指南編集トレーニングキャンプ」にはメディアの制約を課したままなのか。

 

 このメディア問答には、様々な視点からの考察と検討が求められるだろう。

 そのうち最も進歩的な立場をとるなら、一刻も早くEditCafeをマルチモーダルなプラットフォームへアップデートし、かつ編集稽古のお題も五感へ解放する方向へ再構成するべきだと主張することだろう。「読字脳」の喪失を憂えるメアリアン・ウルフ(1477夜)でさえ、近年では「バイリテラル脳」の育成を志向し始めている『デジタルで読む脳x紙の本で読む脳』メアリアン・ウルフ/インターシフト、2020年

 反対に、慎重な態度で現状を分析すれば以下のような与件整理がされるだろう。

 

1. 誰もが情報発信の主体となり得ることで培われると期待された「メディアリテラシー」の醸成が、プラットフォームの急速な進展にまるで追いつかず、情報が無為に通過するばかりとなった。


2. これと併行して、大量かつ雑多な情報を取捨選択するハブ機能を持った「インフルエンサー」が登場するのだが、実態は「共感」を装った「評判」ばかりが一人歩きして、コミュニティーが分断される状況を招いている。

 

3. さらに、SNSの爆発的な普及があって、コミュニケーションにおける「アーティキュレイション」が極端な細分化へ向かい、思考(≒編集)が入り込む「間」が失われてきてきる。

 

 いずれの立場をとるにせよ、私たちは思考のためのツールとしての「言葉」をますます磨いていく必要がある。エディターシップは、メディアに応じてメソッドを更新してこそなのである。

 

アイキャッチ:阿久津健

39花 [花伝式部抄]>>

  • 深谷もと佳

    編集的先達:五十嵐郁雄。自作物語で語り部ライブ、ブラonブラウスの魅せブラ・ブラ。レディー・モトカは破天荒な無頼派にみえて情に厚い。編集工学を体現する世界唯一の美容師。クリパルのヨギーニ。

  • 【追悼】松岡校長 「型」をめぐる触知的な対話

    一度だけ校長の髪をカットしたことがある。たしか、校長が喜寿を迎えた翌日の夕刻だった。  それより随分前に、「こんど僕の髪を切ってよ」と、まるで子どもがおねだりするときのような顔で声を掛けられたとき、私はその言葉を社交辞 […]

  • 花伝式部抄_22

    花伝式部抄::第22段::「インタースコアラー」宣言

    <<花伝式部抄::第21段    しかるに、あらゆる情報は凸性を帯びていると言えるでしょう。凸に目を凝らすことは、凸なるものが孕む凹に耳を済ますことに他ならず、凹の蠢きを感知することは凸を懐胎するこ […]

  • 花伝式部抄_21

    花伝式部抄::第21段:: ジェンダーする編集

    <<花伝式部抄::第20段    さて天道の「虚・実」といふは、大なる時は天地の未開と已開にして、小なる時は一念の未生と已生なり。 各務支考『十論為弁抄』より    現代に生きる私たちの感 […]

  • 花伝式部抄_20

    花伝式部抄::第20段:: たくさんのわたし・かたくななわたし・なめらかなわたし

    <<花伝式部抄::第19段    世の中、タヨウセイ、タヨウセイと囃すけれど、たとえば某ファストファッションの多色展開には「売れなくていい色番」が敢えてラインナップされているのだそうです。定番を引き […]

  • 花伝式部抄_19

    花伝式部抄::第19段::「測度感覚」を最大化させる

    <<花伝式部抄::第18段    実はこの数ヶ月というもの、仕事場の目の前でビルの解体工事が行われています。そこそこの振動や騒音や粉塵が避けようもなく届いてくるのですが、考えようによっては“特等席” […]

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025