この春、新ロール「花傳式部」を拝命しました。こちらでの連載も装いを新たにお届けしてまいります。
「花目付」というロールについて、私はこれまで読んで字の如くに解釈してきました。
と言っても「お目付役」と読み替えて監視、監察、監督といったシソーラスに連なるのではなく、「目の付けどころ」すなわち「注意のカーソル」としての機能を担おうと考えたのです。
「注意のカーソル」は、常に編集の起点にあります。そこにはただ意が注がれるだけではなく、編集のために発動可能なリソースが焦点され、力点となって編集を起動させ、ひとたび編集が動き出せばインタースコアの突端を示す動点となって編集を運び、やがて編集の先で未知への接点を結んで既知からの橋を渡します。
つまり「注意のカーソル」とは、いわば編集力の降臨する依代であり、そこから編集的社会像を臨む抜き型なのです。
そうだとすると、「注意のカーソル」としての「目付」は組織の凸点に立って秩序の保守に腐心するような上職ではありません。むしろ、場に凹点を穿ち「問」を発破する尖兵なのだと思います。
もちろんこの「花目付=注意のカーソル」説は深谷モデルによるエディティング的解釈ですから、私は多様に存在し得る「花目付モデル」のうちの一バージョンを顕現しようとしたに過ぎません。ロールには「人」が代入されることで多様な現れが表出されることでしょう。39[花]では、新たに花目付ロールを担う中村麻人さんに大きな期待を寄せています。
1)「型」は、「人」が代入されることで多様な現れが表出する。
たとえば、「花目付」という型に「深谷」が変数として代入されることで「深谷モデルの花目付像」が表出する。このとき、変数としての「人」は「情報」という語に置き換え可能である。「型」はそれ自体は不変だが、そこに出入りする情報に対して変化、変容を起こす媒体として機能する。
2)「注意のカーソル」は「自・他」を対発生させる。
あたりまえのことだが、「注意」は単独で起こるものではない。そこに何らかの事物があって、観察者が差し掛かることで「注意」が起こる。
任意の事物は観察者に発見されることで俄かに「情報」として発生し、観察者は任意の事物との遭遇によって「自」と「他」の境界を察知する。
3)「注意のカーソル」は進化する。
ここで言う「進化」は、進歩、進展、発達などの語が含むような価値や量が漸増するニュアンスからは中立であり、編集の様相が遷移するなかでその都度「注意のカーソル」の質や機能が相転移することを示そうとしている。
「注意のカーソル」の進化モデルとしては、さしあたって上に示した「起点 → 焦点 → 力点 → 動点→ 接点」のライフサイクルを想定したい。この5段階のステージングは「問・感・応・答・返」や「英雄マザー」などの型と呼応するだろう。また「編集十二段活用」及び「編集八段錦」を簡略化して説明する代替モデルとしても機能するかも知れない。いずれのモデルも、編集プロセスがフィードバックループを描き、情報が型を通して変化、変容することを予告している。
さて39[花]は24名の入伝生を迎えて、いよいよ今週末の入伝式から7週間の式目演習へと向かいます。入伝生たちは「39」を「咲く」と読み替えて、今、熱心にプレワークに取り組んでいるところです。来週からは花伝所の師範たちも交えて演習模様をお届けしてまいりますので、みなさまどうぞご注目ください。
では、新装のご案内はこのへんで。
書「花傳式部」:松岡正剛
花伝式部抄(39花篇)
::序段:: 咲く花の装い
::第1段:: 方法日本の技と能
::第2段::「エディティング・モデル」考
::第3段:: AI師範代は編集的自由の夢を見るか
::第4段:: スコア、スコア、スコア
::第5段::「わからない」のグラデーション
::第6段:: ネガティブ・ケイパビリティのための編集工学的アプローチ
::第7段:: 美意識としての編集的世界観
::第8段:: 半開きの「わたし」
::第9段::「わたし」をめぐる冒険
深谷もと佳
編集的先達:五十嵐郁雄。自作物語で語り部ライブ、ブラonブラウスの魅せブラ・ブラ。レディー・モトカは破天荒な無頼派にみえて情に厚い。編集工学を体現する世界唯一の美容師。クリパルのヨギーニ。
一度だけ校長の髪をカットしたことがある。たしか、校長が喜寿を迎えた翌日の夕刻だった。 それより随分前に、「こんど僕の髪を切ってよ」と、まるで子どもがおねだりするときのような顔で声を掛けられたとき、私はその言葉を社交辞 […]
<<花伝式部抄::第21段 しかるに、あらゆる情報は凸性を帯びていると言えるでしょう。凸に目を凝らすことは、凸なるものが孕む凹に耳を済ますことに他ならず、凹の蠢きを感知することは凸を懐胎するこ […]
<<花伝式部抄::第20段 さて天道の「虚・実」といふは、大なる時は天地の未開と已開にして、小なる時は一念の未生と已生なり。 各務支考『十論為弁抄』より 現代に生きる私たちの感 […]
花伝式部抄::第20段:: たくさんのわたし・かたくななわたし・なめらかなわたし
<<花伝式部抄::第19段 世の中、タヨウセイ、タヨウセイと囃すけれど、たとえば某ファストファッションの多色展開には「売れなくていい色番」が敢えてラインナップされているのだそうです。定番を引き […]
<<花伝式部抄::第18段 実はこの数ヶ月というもの、仕事場の目の前でビルの解体工事が行われています。そこそこの振動や騒音や粉塵が避けようもなく届いてくるのですが、考えようによっては“特等席” […]