【感門90】読奏エディストリート――師範が読む#05『初めて語られた科学と生命と言語の秘密』

2026/02/22(日)08:05 img
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[守]では毎期、第一線で活躍するゲストによる特別講義「編集宣言」を開催。今期56[守]のゲストは、カオス理論研究の第一人者・津田一郎さんでした。その津田さんと松岡正剛校長が大いに語らったのが『初めて語られた科学と生命と言語の秘密』(文春新書)です。4人の師範はどんな「秘密」に注目する?


第90回感門之盟「読奏エディストリート」の特別連載5回目。「マーキング」と「ヨミトキ」で奏でる師範の声の重なりをお届けします。

奥本英宏(56[守]番匠)のマーキング&ヨミトキ

津田 ……脳の中の情報編集の仕組みには、旅人が宿から宿へと渡り歩くように、アトラクターからアトラクターへと飛び移るようなプロセスが起こってるのではないか、ということを示した。アトラクターというのは、運動や意味が収束するときの漸近体みたいなものです。(37ページ)

リンゴの連想といえば、赤→ほっぺ→エデンの園と、点を線でつなぐように思考が発展するイメージをもっていた。ところが、脳の中ではリンゴをめぐる無数の漸近的な連想ループが立ち上がり、思考はループを飛び移っていくという。その編集をめぐる世界観の面白さと限りない人間の可能性にワクワクしてくる。
松岡校長が「新しい風を感じた」と語った脳とカオスの掛け合わせ。編集の方法をとりまくイメージが膨らむと、僕たちが認識する世界もまた彩りを増していく。この先には、人生をより豊かにしてくれる、見たことも、聞いたこともない編集の方法が待っている。もっと広く、もっと深く、掛け算の秘密を探っていきたい。(奥本英宏)

石井梨香(56[守]同朋衆)のマーキング&ヨミトキ

津田 ……とくに「情報」を作っていくためには、そこにノイズ的なものや誤差的なものが入っていくことがかなり必要で、それなしには意味をスリップさせることができないくらいです。(214ページ)

「さしかかり」と「なぞらえ」が繰り返し語られる。「ホメオスタシス」はあらかじめ設定されているのではなく、さしかかるたびにつくられたとか、多種類の言語の生成プロセスは、体内の酵素の反応になぞらえることができるのではないかとか。さしかかりで出会う偶有性や伏せられたものと相互編集を起こせば、行き先の可能性は限りない。なぞらえは大きな謎を解く鍵にもなり得る。加えてノイズや誤差が重要ならば、大いに羽目を外し、盛大に遊びたい。(石井梨香)

北原ひでお(55[破]評匠)のマーキング&ヨミトキ

松岡 ……ですからこちらの「美」の出現に立ち会いたいと思うのであれば、根源的非線形性を最初からもった世界観を打ち出していくとともに、その発現の正体が実は「情報」なんだと言い切る覚悟をしておくべきだと思います。(228ページ)

松岡校長と津田一郎さんが僕たちを誘うのは、一見無秩序なモノゴトから生まれる「高次な美しさ」の探求だ。ローレンツのアトラクターと、グールドのピアノの間を行き来しながら、二人は、フラジャイルな吐息こそが世界の在りようを一変させるのだという視点を示す。世界の根源的非線形性に確信を持たなければ、その微かな吐息は、測定の誤差や単なるデタラメに紛れてしまうだろう。それを見失わず、「情報」であると言い切る覚悟こそが、「編集的世界観」だ。僕たちの宿題は、松岡校長から受け取った「編集術」で、情報を科学と言語の間で遍歴させること。そして、その非線形な軌跡から生じる「よく練られた逸脱」で、世界を満ち溢れさせることなのだ。(北原ひでお)

山崎智章(44[花]錬成師範)のマーキング&ヨミトキ

松岡 ……それこそ自己組織化の自己と拘束のかなり深いところの問題だ。しかしね、その「変分的自己」を「自己」と言うには、どう説明しますか。
津田 そこですね。まさに変分をかけるのは他者なんですよ。
松岡 他者!
(361~362ページ)

荘子の「虚己」、ユクスキュルの「抜き型」にも連想が飛ぶ問答。ハーバート・A・サイモンが『システムの科学』で示した、後に「サイモンの蟻」として知られる「蟻の行動の複雑さが主にその環境の複雑さを反映したもの」という考え方にも近い。
編集稽古で師範代は、学衆という他者の回答を眺める自身の視点を一旦引き算し、相手の視点を借りて眺めることで自己の見方に変分をかける。そんな師範代の秘密な方法の一端も垣間見えた。(山﨑智章)

『初めて語られた科学と生命と言語の秘密』松岡正剛×津田一郎著

文春新書/2023年10月刊/1540円(税込)

 

 

■目次
文系センスと理系思考の爆発
第1章 カオスと複雑系の時代で
第2章 「情報」の起源
第3章 編集という方法
第4章 生命の物語を科学する
第5章 脳と情報
第6章 言語の秘密/科学の謎
第7章 「見えないもの」の数学
第8章 「逸れていくもの」への関心
第9章 意識は数式で書けるのか
第10章 集合知と共生の条件
第11章 神とデーモンと変分原理
あとがき1 デーモンとゴーストの対話(松岡正剛)
あとがき2 際をめぐっての対話(津田一郎)

 

出版社情報

アイキャッチ、レイアウト/阿久津健(56[守]師範)

編集/新井陽大(55[破]評匠)、大濱朋子(44[花]花伝師範)、角山祥道(44[花]錬成師範)

 

【感門90】読奏エディストリート――師範が読む [バックナンバー]

#01『多読術』(稲森久純、森本康裕、齋藤成憲)

#02『うたげと孤心』(原田淳子、山下雅弘、牛山惠子)
#03『ことばと身体』(古谷奈々、大濱朋子、得原藍)

#04『ゲーテはすべてを言った』(阿久津健、一倉広美、相部礼子)

#05『初めて語られた科学と生命と言語の秘密』(奥本英宏、石井梨香、北原ひでお、山崎智章)

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    イシス編集学校[当期師範&学林]チーム

    「Pauca sed Matura」の言葉を背負い、守破離花遊の全指導陣が一挙集結する[ISIScore]。感門プランニング、エディットツアー運営、編集知のリバース・エンジニアリング、全てがここで交差する。知を組み立て、知を裏返し、知を書きなおしていく編集分子たちの風姿を垣間見よ。