【感門90】読奏エディストリート――師範が読む#08『手の倫理』

2026/02/28(土)08:53 img
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花伝所]のクライマックスは、2日間におよぶエディットカフェ上のキャンプです。今期44[花]では、ハイパー茶会をテーマにプランが練られましたが、この時、客人に選ばれたのが美学者・伊藤亜紗。彼ら花伝生の思いも引き受けつつ、編集工学とも重なる『手の倫理』(講談社選書メチエ)を紹介します。

 

第90回感門之盟「読奏エディストリート」の特別連載8回目。「マーキング」と「ヨミトキ」で奏でる師範の声の重なりをお届けします。

上原悦子(44[花]錬成師範)のマーキング&ヨミトキ

裏を返せば、「目の前にいるこの人には、必ず自分には見えていない側面がある」という前提で人と接する必要があるということでしょう。それは配慮というよりむしろ敬意の問題です。(50ページ)

占いや自己分析が今も昔も人気なのは、みな「わたし」について知りたがっているからだ。「わたし」の取説はどこにも落ちていない。
けれど、占いや自己分析からわかる「わたし」は、パターン化されていて、ちょっとよそよそしい。それなら自分の中に隠れたわたしを発見しに行く方が断然面白い。
編集はそれを可能にする。
師範代は自分にもあなたにも「たくさんのわたし」があることを知っている。いつもの私でないあなたに会いに師範代は今日も教室であなたを待っている。(上原悦子)

阿曽祐子(56[守]番匠)のマーキング&ヨミトキ

安心とは、「相手のせいで自分がひどい目にあう」可能性を意識しないこと、信頼は、「相手のせいで自分がひどい目のあう」可能性を自覚したうえでひどい目にあわない方に賭ける、ということです。(93ページ)

安心と信頼とを分けるのは、不確実性の有無。GPSの見守り機能で子どもの行先を常に把握するか、迷子になるかもしれなくとも玄関で背中を押すか。制御し支配するか、不確実性を越えた先に生まれでるものを信じるか。言いかえると、相手を自分の地に引き込むのか、あるいは、相手とともに新たな地を生みだすのか。自覚せぬままに日々迎えているたくさんの分岐点、私は、どちらを選んでいるのだろう? 編集は冒険からはじまる。リスクをとらずに可能性が拓くはずはない。会社帰り、旅先で出会った人のおススメ本を手に入れた。(阿曽祐子)

新井陽大(55[破]評匠)のマーキング&ヨミトキ

「ロープが神経線維」というのは面白い表現です。感情という、本来であれば表情や声、あるいは言葉を介してでないと分からないはずのものが、ロープを介することでダイレクトに伝わってくる。(160ページ)

目の見えないランナーと伴走者のためのコミュニティ「バンバンクラブ」は、目の見える人にも人気だという。その理由は、ランナーふたりをつなぐ「ロープ」を通じた感覚の共鳴(シンクロ)にある。何の変哲もない一本の紐が、間身体的な「神経線維」と化す。なにかを意図して伝えずとも、連想や息遣いまで勝手に伝わってしまう。生きたメディアとしてのロープ。
相手の顔も素性もよく知らぬまま、テキストを介して交し合っているだけで、ときにリアル以上にリアルに、互いの人柄がありありと浮かびあがってくる。そんなイシスの教室もまた、本書にあやかっていえば、「お題が神経線維」になるエディトリアルな場かもしれない。(新井陽大)

『手の倫理』伊藤亜紗著

講談社選書メチエ/2020年10月刊/1980円(税込)

 

 

■目次

第1章 倫理
第2章 触覚
第3章 信頼
第4章 コミュニケーション
第5章 共鳴
第6章 不埒な手

 

出版社情報

アイキャッチ、レイアウト/阿久津健(56[守]師範)

編集/新井陽大(55[破]評匠)、大濱朋子(44[花]花伝師範)、角山祥道(44[花]錬成師範)

 

【感門90】読奏エディストリート――師範が読む [バックナンバー]

#01『多読術』(稲森久純、森本康裕、齋藤成憲)

#02『うたげと孤心』(原田淳子、山下雅弘、牛山惠子)
#03『ことばと身体』(古谷奈々、大濱朋子、得原藍)

#04『ゲーテはすべてを言った』(阿久津健、一倉広美、相部礼子)

#05『初めて語られた科学と生命と言語の秘密』(奥本英宏、石井梨香、北原ひでお、山崎智章)

#06『異界を旅する能』(林朝恵、福澤美穂子、森川絢子)

#07『百書繚乱』(白川雅敏、村井宏志、小林奈緒)

#08『手の倫理』(上原悦子、阿曽祐子、新井陽大)

  • ISIS core project

    イシス編集学校[当期師範&学林]チーム

    「Pauca sed Matura」の言葉を背負い、守破離花遊の全指導陣が一挙集結する[ISIScore]。感門プランニング、エディットツアー運営、編集知のリバース・エンジニアリング、全てがここで交差する。知を組み立て、知を裏返し、知を書きなおしていく編集分子たちの風姿を垣間見よ。