蒐譚場・文叢六譚のインナーストーリー【後編】

2019/11/29(金)19:00
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 <編集会議>グループワークの後、各文叢からストーリーテラーとプロモーターが登壇し、新しく生まれた物語を発表した。


 白鯨大地文叢から飛び出した物語は『白蟻』。
 帯は「表:大人のための日常ホラー!?/裏:バブルの終わりに高級住宅を買った家族の物語」。著者名は川江新。江戸川乱歩×星新一である。『大地』から「家族の物語」という要素を継承し、『白鯨』のエイハブ船長の狂気を重ねた。白字に銀字のペンという装丁と白蟻を連想させる点描がモダンホラーの「らしさ」を演出していた。

 

 ニルス吉里吉里文叢の物語は『塹壕のサイバーアスリート』。
 帯は「表:100年前の戦場に迷い込んだ中学生が見たものは/裏:ゲーム好きのあなたに知ってもらいたいこと」、裏表紙に「VRブースのナイチンゲール」と青字で惹句をあしらった。
 スウェーデンの作家・ラーゲルレーヴが教育協会から依頼を受け教科書として書いたという『ニルスのふしぎな旅』の誕生のいきさつをアナロジー。ゲームのしすぎが問題視されるヤングアダルト世代への推薦図書として仕立て、プロモーションも先生向けのメッセージとして磨き上げた点が評価された。

 

 三番手は百日紅ギャツビー文叢の『ボーン・カレンシー』。帯は「表:生き終えたお前の骨がまことの価値だ/裏:恋も正義も革命もすべては価値の転換だ」。赤羽綴師から「生まれるという意味のボーンにも通じて、なかなかおもしろそうですね」というコメントを受け、一同うなづく。物語は、手を離れた瞬間、読み手によって新たな意味づけがなされる。

 

 松岡正剛校長は「どれもよいと思うよ」と目を細めた。3つの新しい物語の芽は、いずれもただの「作り物」ではなく、書き手たちが生み出してきたテキストの大地に根を張り、育っていくポテンシャルを秘めていた。「読む」も「書く」もインタースコアの賜物であり、「型」を共有しておけば、エディティング・モデルの違いを存分に交わすことができる。何より、締切の力は偉大だ。
 「ハラハラしながら、させながら、おもしろかった!」大音美弥子叢衆の掛け値なしの振り返り。物語講座の仕掛けを肌で感じた1時間30分となった。


 ◆蒐譚場・文叢六譚のインナーストーリー【前編】

ニルス吉里吉里文叢『塹壕のサイバーアスリート』

3つの文叢から生まれた3冊の「本」

 

 

  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-10-02

何の前触れもなく突如、虚空に出現する「月人」たち。その姿は涅槃来迎図を思わせるが、その振る舞いは破壊神そのもの。不定期に現れる、この”使徒襲来”に立ち向かうのは28体の宝石たち…。
『虫と歌』『25時のバカンス』などで目利きのマンガ読みたちをうならせた市川春子が王道バトルもの(?)を描いてみたら、とんでもないことになってしまった!
作者自らが手掛けたホログラム装丁があまりにも美しい。写真ではちょっとわかりにくいか。ぜひ現物を手に取ってほしい。
(市川春子『宝石の国』講談社)

川邊透

2025-09-30

♀を巡って壮絶バトルを繰り広げるオンブバッタの♂たち。♀のほうは淡々と、リングのマットに成りきっている。
日を追うごとに活気づく昆虫たちの秋季興行は、今この瞬間にも、あらゆる片隅で無数に決行されている。

若林牧子

2025-09-24

初恋はレモンの味と言われるが、パッションフルーツほど魅惑の芳香と酸味は他にはない(と思っている)。極上の恋の味かも。「情熱」的なフルーツだと思いきや、トケイソウの仲間なのに十字架を背負った果物なのだ。謎めきは果肉の構造にも味わいにも現れる。杏仁豆腐の素を果皮に流し込んで果肉をソース代わりに。激旨だ。