巣の入口に集結して、何やら相談中のニホンミツバチたち。言葉はなくても、ダンスや触れ合いやそれに基づく現場探索の積み重ねによって、短時間で最良の意思決定に辿り着く。人間はどこで間違ってしまったのだろう。
回答を手放せない。そんな思いを抱いたことのある50[守]学衆は多いだろう。001番のコップのお題の回答を送信するときも迷いはあったはずだ。それでいい。その回答に対し、指南を届けることに一つの躊躇もない師範代もいないのだから。
年末年始に繰り広げられた番選ボードレール(通称:番ボー)で、みちのく吉里吉里教室のKはこう呟いた。
何度もやりとりする仕組みの訳がわかってきました笑
もう時間ないですが、参加すること降りないことを決めて出してみます!
編集学校の稽古では「仮留め」が推奨される。番ボーでも、回答と指南のラリーを繰り返すことで徐々に「型」の理解が深まり、回答も磨かれていく。最初の「読み手」である師範代の目が加わることで表皮に隠れた別様に気づく学衆も多い。手放してこそ、編集が進み、新たな可能性が開かれる。だが、できるかどうかは別問題だ。
昨年12月に実施された50[守]第2回伝習座で、師範の加藤めぐみは吉原幸子の「これから」を引用してこう語った。
実は、私もそのひとりです。「書いてしまへば、書けないこと」がある。ぐずぐずと選び取らないでいれば、無限の可能性を残しておけるように錯覚する。「書かないうちなら、書かれようとしてゐるのだ」と言い張れる。
伝習座の参加者の心に突き刺さった。番ボーの渦中を潜り抜けた学衆にも同様に響くだろう。
メモリアルな50[守]はついに最後の用法4「きめる/つたえる」に辿り着いた。用法4の特徴は「相手」を想定していること。用法1、2、3で積み上げてきて、思いと可能性が溢れるイメージをひとつに「きめる」稽古だ。そうして初めて相手に有効に「つたえる」ことができる。
用法4では「きめる/つたえる」ための編集を身につけていく。例えば、037番「イシスな文体練習」は、ひとつの文章を様々な文体に着がえる稽古だ。相手が誰かによって書くことの目的も変わる。それに応じてモードも変える。
「アウトプットを阻むもの」があるからこそ、その壁を乗り越える術を身につける。それが用法4の稽古といえるかもしれない。そのひとつの方法が相手と共有するイメージや文脈を活かすことだ。034番では、オノマトペを通じ、知覚的・感覚的な共通体験によってイメージが伝わる体験をする。
そして、これまでの「型」を総動員して挑む稽古も学衆たちを待つ。[守]の稽古の集大成とも言えるネーミング編集術では、学衆たちは名づけが生む可能性に気づくことだろう。
50[守]38題の番稽古の集大成。用法4がいよいよ始まる。「アウトプットを阻むもの」を乗り越えることは容易ではない。加藤は吉原幸子の詩への「返歌」としてもうひとつ引用した。
あなたはその紙にありったけの生きる力をもって集めた完全にはまだ及ばない秀逸な文書を刻み込むのだ。その紙があなたに書くことを教えてくれる。
アニー・ディラード『本を書く』
勇気を持てるか、心配しているかもしれない。だが、それは無用だ。伝習座での加藤の檄「いざ、粋な指南を!」に鼓舞された師範代たちが回答を待っている。学衆を卒門、そして、その先の編集道に誘うために。
◆51[守]申し込み受付中
[守]基本コース(51期)
2023年5月8日~8月20日
https://es.isis.ne.jp/course/syu
佐藤健太郎
編集的先達:エリック・ホッファー。キャリアコンサルタントかつ観光系専門学校の講師。文系だがザンビアで理科を教えた経歴の持ち主で、毎日カレーを食べたいという偏食家。堀田幸義師範とは名コンビと言われ、趣味のマラソンをテーマに編集ワークを開催した。通称は「サトケン」。
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数寄は人生のスパイスだ。その対象が何であれ、数寄は世界を彩り、その香りで人々を惹きつける――。54期[守]師範が、「数寄を好きに語る」エッセイシリーズ。カレーをこよなく愛する佐藤健太郎師範が只管に歩き続け […]
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2025-12-16
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