空中戦で捉えた獲物(下)をメス(中)にプレゼントし、前脚二本だけで三匹分の重量を支えながら契りを交わすオドリバエのオス(上)。
豊かさをもたらす贈りものの母型は、私欲を満たすための釣り餌に少し似ている。

私たちが当然と思ってきた男女の区別。その分け方を揺るがすかのようにセクシャリティとジェンダーについての千夜千冊が連打されている。51[守]が開講して3週間。「稽古のモヤモヤを身体に刻み込んでいきたい」「普段使っていない頭を駆使してみるのが編集!?」。間もなく用法2に差しかかる学衆にも、これまでの当たり前への揺らぎがおとづれている。
「カレー」と聞くたびに51[守]指導陣(師範、師範代)が必ず思い出すシーンがある。それは第1回伝習座での用法解説のひとコマだ。「北海道のスープカレーには驚いた」と嬉しそうな苦笑と共に、「まだ未完成」と断って師範の佐藤健太郎が決然とチョークを握った。まず、縦に【単⇔混】という軸を配置した。カレーには、ひとつずつを楽しむ食べ方(単)とスリランカに見られるように複数の味を混ぜながら食べる方法(複)とがあるという。続いて、横に【汁⇔菜】という軸を置いた。カレーには、スープのように飲むタイプ(汁)とおかずのように食べるタイプ(菜)があるという。黒板に描き出された二軸四方を見て、「カレーの理解が深まり、楽しみが増える」と満足気だ。ありきたりな軸ではなく、自分の見方で世界を切り取り、新たな世界像を結ぶ。用法2「つなぐ/かさねる」の編集思考素の醍醐味である。佐藤の事例に一同が驚きと称賛で大きく頷いた。
佐藤は、用法2では特に学衆の回答の文脈によくよく注意のカーソルを当てよという。カレーの事例の通り、編集思考素は思考の「整理」以上に「発見」の型であると言われる。が、社会の規範に合わせることに慣れきった私たちのアタマは、ついつい上手く整理ができたかどうかに目を留めがちだ。「回答が宿している情緒に注目せよ」。佐藤が、言葉を変えて再び強調する。情緒とは、学衆が回答プロセスで経験した編集の契機、着火点、フィーリングのことである。そこにこそ彼らが世界像を結びなおすための編集エンジンが潜んでいる。それを取り出さずに指南を済ますわけにはいかない。
「私たちの眼前にある世界は、とっくに分けられ、名づけられ、記述され、関係づけられている」。佐藤の直前に用法1の解説を行なった師範の稲垣景子は、こうレクチャーを締めくくっていた。用法1「わけて/あつめる」は、私たちがどのように世界を捉え、思考しているかを再発見し、もっともらしく見えている当たり前を解き放つ力があるのだ。
用法1の揺らぎから、用法2の結びなおしへ。編集稽古の歩みを進め、学衆たちはどのような自由を獲得するのか。
(文:51[守]師範 阿曽祐子)
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