「書くこと」へ向かえ――54[守]第2回創守座

2025/02/14(金)07:54
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 AIに他者はいるのか。
 12月1日(日)に実施された第2回創守座のお題語りを締めくくり、番匠の石黒好美(アイキャッチ画像)は54[守]師範代に問いかけた。イシス編集学校[守]基本コースの用法4は「きめる/つたえる」に向かい、相手を想定した「書く」稽古が繰り広げられる。石黒はAIに容易に文章を書かせることができる現代を文脈に「書く」ことの意味を問い直す。
 用法4のお題語りは前半を師範の福澤美穂子、後半を石黒が担当した。福澤は[守]の総まとめである用法4の前半を、文章を学ぶ前に言葉を学ぶ稽古だと言いかえた。連想を働かせてシソーラスをとことん広げてみて、はじめて言葉にできないものに気づける。それも当然だ。そもそも言葉と事物が一対一で対応するとは限らない。オノマトペもネーミングも他者に「つたえる」ために言葉にならいものを言葉にする試みだ。説明できない事柄を発見したとき、言葉を生み出して書く必然が生まれる。

 

▲福澤師範(写真)は座り、石黒番匠は立つ。語る内容のモードに合わせた演出だ。

 

 用法4の掉尾を飾る3つのお題は[破]への橋渡しのお題でもある。[破]で身につけるのは社会と交わる編集であり、メッセージを発見することだ。対角線を引き直し、今までにない見方づけをするがゆえに、今の「わたし」には到底書けない。むしろ、書けそうもないことこそメッセージであり、私たちはそれを「つたえる」ために様々な工夫や企みを凝らす。文体はメソッドであり、書き手の「らしさ」は文体にこそ横溢するのはそのためだ。
 冒頭の問いに戻ろう。AIに他者はいるのか。もし、他者がいないのだとすれば、AIには「わたし」もない。AIに文章を提示し、何か具体的な文体で書き換えるよう指示すれば、その意味を問い返すことすらせず、それらしい文章に仕立ててくれる。しかし、そのプロセスに新たな発見はあるだろうか。
 用法4の稽古を通じ、学衆たちは「読む」と「書く」のつながりに気づく。読むことは作者が伝えようとしたメッセージを見つけるだけにとどまらない。作者が発見できていなかったメッセージですら見出せる。「書く」とはその未知を言葉にしていくことだ。それはAIがすでに編集され尽くした言葉をつぎはぎして作る文章とは対極にある。
 社会に生きる私たちは他者との狭間でがんじがらめ状態にある。「書く」とはその結び目を解きほぐし、新たに紡ぎ直していく試みだ。それは、今までにない見方や新しい「わたし」の発見に通ずる。編集が「自由への方法」である所以はここにある。38のお題を身体に通した54[守]学衆の問感応答返は終わらない。真っ向から「書く」に向かう54[破]へ。学衆の編集は始まったばかりだ。

 

文/佐藤健太郎(54[守]師範)

写真/北條玲子(54[守]師範)

 

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  • 佐藤健太郎

    編集的先達:エリック・ホッファー。キャリアコンサルタントかつ観光系専門学校の講師。文系だがザンビアで理科を教えた経歴の持ち主で、毎日カレーを食べたいという偏食家。堀田幸義師範とは名コンビと言われ、趣味のマラソンをテーマに編集ワークを開催した。通称は「サトケン」。

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