42[花] 両岸から向かう道場五箇条

2024/11/02(土)08:08
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 10月27日の衆議院選挙で当選結果が出揃い日付を跨いだ頃、42[花]花伝所では、からたち道場の五箇条が完成し、すべての道場に、めいめいの色が滲み出た五箇条が勢揃いした。推敲に励み、部分にこだわり、演習を突出させる日々に欠かせない心得だ。

 

◆やりきれない「千夜多読仕立て」

 

 道場の五箇条は、入伝生の交わし合いによって生み出される。座の土台にあるのは、42[花]の師範陣がこの期のために選んだ十夜だ。1850夜の中から十夜をあつめ、並べ、入れ替える中で、泣く泣くこぼれ落ちた千夜千冊もある。選ばれなかった千夜千冊の残念を残された十夜は引き受けている。

 

 入伝生は入伝式までに十夜を読み込み、花伝所への想いを紡ぐ。「千夜多読仕立て」と銘打った事前課題で、十夜に身を預け、入伝の思いを1,000字の語りに仕立てる。語り尽くして終わりではない。その次が用意されている。入伝生自らの手で1850夜から一夜を選び出し、十夜と重ね合わせ、言葉を編み出すことに挑戦する。

 

 この事前課題はたった二週間で完成させねばならない。世の中のものさしで考えると、無謀なお題だ。それには理由がある。置き去りにされた言葉もつかみきれない意味も許容しているのである。見落とされた情報は、まだ見ぬ「千夜多読」へ持ち越される。十夜はここから続く演習によって開け放たれることを待っている鍵穴たちだ。

 

◆即興できない「五箇条ワーク」

 

 入伝式では、事前課題を持ち寄り、僅か30分のグループワークで「道場五箇条」に仕立てる。即興の相互編集を求める五箇条ワークは、学衆から師範代へ着替える装置になっている。失敗に不寛容な世の中に馴染んだカラダへの劇薬なのだ。答えを探すことに慣れたアタマは、聞き慣れぬ言葉に驚くことすら難しい。違和感を感知できないまま発するどっちつかずの言葉では、場は動かない。形の見えない五箇条は、師範の遠慮ないフィードバックでヒビが入り、正解にこだわるセルフを引き裂く。師範陣の言葉があらゆる方向から場に投げられる。

 

 「託したよ」

 

 師範陣は校長のこの四文字の言葉を背負おうと必死なのだ。その切迫も気迫も入伝生に乗り移り、やり直しに向かわせた。用心、好奇心、冒険心。あらゆる心の不足を痛感した入伝生たちは、翌日の道場の幕開けとともに、エディットカフェに場を移し、練り上げに向かった。

 

◆跡を残す「むらさき」・場に飾る「しろがね」

 

 入伝式の翌朝8:50。五道場ダントツの速さで五箇条づくりに身を乗り出したの【むらさき道場】だ。投げられたパスは他の仲間がどんどんつなぎ、平日の合間を縫い、一番乗りで完成した。わずか二日後の10月22日23時のことだった。加速の秘訣は即応を促すルール編集である。場をつくろうとする態度が相互編集を加速する方法を発見し、応接しながら回答の型を形づくってゆく。それぞれの小さなはからいがギアチェンジになる。推敲の痕跡を残すことで、イメージの変遷をたどりながら言葉をずらし、重ね続けた。そのやりとりは3日間で30回に及ぶ。仕事や家事という日常を混ぜ込んだやりとりが感染しあい、最後の2時間は全員が場に居合わせ、10回のやりとりで駆け抜けた。塗り重ねられた五箇条の変容を見ていただきたい。

 

 <入伝式時点>

 

 ◇むらさき道場 五箇条

  1 花の蕾(幼な心)

  2 あいだを動く編集稽古(サーフィン)

  3 雑食であれ

  4 「恩」おくり

  5 リズム振動

 

 <完成版>

 

 ◇むらさき道場 五箇条

  1 「まことの花」拓くまで貧欲に稽古する

  2 一期一会の心得で、相互編集のあいだを愉しむ

  3 虚に居てファクティシュを為す 

  4 「日本という方法」を身体ing(シンタイグ)

  5 回転扉でワルツを踊り、相転移から「別様」へ

 

 交わし合いに「リズム振動」が起こって「身体ing(シンタイグ)」というニューワードを生み、ファクティシュがワルツを持ち込んだ。式目演習三昧の日々で「まことの花」になりゆく。未知への期待で幕を開ける堂々とした五箇条だ。

 

 

 【むらさき道場】と一対をなすかのような相互編集を興したのは【しろがね道場】だ。

 一条ごとに推敲の足跡を残しながら磨き上げた【むらさき道場】に対し、【しろがね道場】は五箇条丸ごと照合し、比べ続けた。寄り道や回り道を歓迎する振る舞いが、場の共振を生み、部分に全体を響かせる五箇条に仕上がった。稜威にこだわり、芭蕉に肖り、虚実の世界に分け入った五箇条。タイトルや細部に注目し、声に出して読み上げてほしい。

 

 <入伝式時点>

 

 ◇しろがね道場 五箇条

  ・徹底的に推敲して別様を出現させるべし

  ・他者のまなざしをわがものにして視野を限界まで拡大すべし

  ・既知を問い未知を発見すべし

  ・共読と交わし合いによって「あいだ」を発見すべし

  ・虚に居て実を行う心を保つべし

 

 <完成版>

 

 ◇しろがね道場 螺旋上昇五耀条

  一・共読において既知を問い、創つけ未知を掴み取るべし。      

  二・他者のまなざし借りて、視野無限にすべし。

  三・徹底推敲し、稜威を憑依させるべし。

  四・有為転変に交わし合い、あわいに依て耀くべし。

  五・虚に居て実に遊ぶべし。

 

 句点や漢数字といった見栄えへの目配せはお手の物、漢字とひらがなの混ざり具合も美しい。耳で推敲して助詞を削ぎ、ラスト三時間は順序の組みかえに向かった。しぶとく編集し続けた【しろがね道場】は、この先の演習での粘り強いフィードバックを予見させる。まず一句出し、推敲を尽くす芭蕉のモデルを借りて、野ざらしの旅路を愉しんでほしい。

 順序の入れ替えは五箇条のうねりを浮上させ、タイトルに「螺旋上昇」として表象させた。「しろがね」のイメージを「耀」の字に託し「五耀条」と呼びかえた。道場のどこにどう飾るか、シーンを描いてつくりあげた五箇条だ。

 

◆フセに託す「からたち」・セリで遊ぶ「くれない」・ズレを読む「やまぶき」

 

 不在者自らが不在の場面を物語る。仲間の欠番を再編集のチャンスにしたのは【からたち道場】だ。入伝式の居合わせの欠如は師範陣の切実となり、弟子なる入伝生を焚き付けた。たった2名で行った入伝式の五箇条ワークは、不在者の負を背負う覚悟に変わりゆく。当日の発表は言葉少なながらも、場に集う者たちの心を揺さぶった。言い得ぬ何かを持ち込んだ発表に、場を引き受ける姿が見える。言葉を待てる場だからこそ、音なき悔しさが聞こえてくる。待たせる者と待つ者の間でも、エディティングモデルの交換は起こっている。

 居合わせることができなかった者は五箇条に残された面影に思いを馳せ、「つなぎ役」になることを表明した。「わかりやすさ」と「わかりたさ」をつなぐ対話から導かれた五箇条は、伏せを尽くし、生まれた余白にこの先の道場の可能性を託した。スマホを遠くに置いて読み、余韻を味わってほしい。

 

 

 <入伝式時点>

 

 ◇からたち道場五箇条

  1.不足を多足にすべし

  2.既知を相転移させ未知を作るべし

  3.情報を?タテ・ヨコ・ナナメ?から見るべし

  4.他者の方法を読み取り別要の自分を目指すべし

  5.心をつなげる結び目となる!!

 

 <完成版>

 

 ◇からたち道場五箇条

  1.不足を多足に

  2.既知を未知に

  3.五感で俯瞰に

  4.方法で別様に

  5.心繋ぐ結び目に

 

 言い切ることを手放した五箇条は、たくさんの述語とつながる可能性を秘めている。方法と方向性をつなげた五箇条は、何度でも今ここから再編集、再挑戦できることを訴えている。演習に没入し、体験を言葉で捉え直してゆくことで、まだ見ぬわたしに出会ってゆく。放伝の頃には、幾多にも分岐した根を張り巡らせる大樹のような五箇条に育っているはずだ。

 

 【からたち道場】の「からたち」色にふさわしい余白含みの五箇条に引き合うのは「紅」色の【くれない道場】だ。

 「くれない」の先や奥に目をつけ、「紅」「暮れない」「呉れない」と多様に書き記し、「ない」の次に「ある」を見た。暮れないと暮れるのトワイライト(二つの光)の行き交いを読み取り、朧気の先に「月明かり」が現れた。「ない」と「ある」は正誤でも勝敗でもない。あったりなかったりの往来を遊ぶことで、言葉になることを待つ消息が見つかる。いつだって「不足の三者」を借りれば、次や別に向かえる。内なる欠如に悩んだ入伝生は、自ら外へと視線を移して「月」をコンパイルし、五箇条ワークを方向づけた。( )や “ ” や「 」は遊び心だ。明確な説明を手放し、曖昧さを面白がる五箇条に化けた。

 

 <入伝式時点>

 

 ◇くれない 道場五箇条

  1.倣おう

  2.越えよう

  3.感染し合おう

  4.創をおそれず

  5.虚に出よう

 

 <完成版>

 

 ◇くれない道場五箇条

  1.創(きず)をひらいて、“つもり”の虚に出よう

  2.毎日編集し、感染(うつ)し合おう

  3.危険を抱えて境界を超えていこう

  4.紅に差し掛かり、呉れるを待たず、明け暮れよう

  5.目の前の学衆に「月明かり」を注ごう

 

 危険を冒すだけでなく、危険を抱えたまま続ける演習には遊びが欠かせない。真似たり、競ったり、時には賭けたり。ドギマギし、幾多の瀬戸を越えてゆく。わたしの内の隠れた危険から、場や関係に潜む可能性まで引き受けた五箇条だ。目の前の学衆と空の彼方の月をつなぐ世界には、まだ見ぬどこにもない教室が現れるに違いない。

 

 五箇条ワークの巻き戻しによって危険を冒したのは【やまぶき道場】だ。締切が近づく中で、改めて10夜を読み直し、3パターンの五箇条をつくり、20の候補を並べかえ、五箇条に仕立てた。

 

 <入伝式時点>

 

 ◇ やまぶき道場五箇条 

  ・おさなごごろの空

  ・他者を取り込む水

  ・ゆらぐ炎

  ・あけていく風

  ・推敲する土

 

 <完成版>

 

 ◇ やまぶき道場五箇条 

  1.おさなごころで問いを放つ

  2.脆弱セキュリティTIDEで響き合う

  3.微に入り細にわたり問・感・応・答・返を重ねる

  4.エディトリアル・フレア・エンジンする

  5.カケにカケて、カケぬける

 

 動詞をつけたい、全角にしたい、カタカナを重ねたい。欲望が展開をおこす。いつ応答が届くかが見えぬ交わし合いは、学衆の回答を待つ師範代になろうとして行われた。内に籠る「わたし」との遭遇が負い目になることを知り、打破に向かわせる。躊躇せず好きとこだわりの出し合いに向かうため、試行錯誤を重ねた。

 各々の譲れないことは型を使うことで他者と重ねることができる。そこに競いが生まれ、まだ見ぬ言葉になりゆく。候補の五箇条を並びかえ、評価し、問いを投げ続けることで、互いの差異が現れる。その重ならない部分に目を凝らすことで拓かれる道があるのだ。焦燥感に駆られたら、五箇条に戻ればいい。言葉の力を信じ、不安をかき消すほどの読み書きに向かってほしい。

 

◆「一句の時熟に一両岸を待ちなさい」 

 

 ここに並んだ五箇条は未完成だからこそみずみずしい。つながれた言葉のあいだには、残念や後悔や未練がたっぷり含まれている。だからこそ五箇条は「代」に向かわせる装置になり、そこのさしかかりを生む。道場五箇条の来し方には十夜があり、その奥には1850夜が広がっている。HereとThereの両岸の合間をノンリニアに行き交って、言葉を捉え直してゆく。書かれた言葉は読むことで未熟になる。それが時熟の資源ではないか。式目演習は二週目を終わろうとしている。言葉のモードの型に向かう入伝生は書けない未熟と書けなかった未練に出会い続けている。その時々になりうる言葉を放ち続け、捉え直しの盛りをつくってゆく。

 

<千夜多読仕立て>

 

1 『宇宙の不思議』(1226夜)佐治晴夫 [宇宙と素粒子]

  https://1000ya.isis.ne.jp/1226.html

 

2 『非線形科学』(1225夜)蔵本由紀 [情報生命][数学的]

  https://1000ya.isis.ne.jp/1225.html

 

3 『借りの哲学』(1542夜)ナタリー・サルトゥー=ラジュ 

  https://1000ya.isis.ne.jp/1542.html

 

4 『オズの魔法使い』(1847夜)ライマン・フランク・ボーム 

  https://1000ya.isis.ne.jp/1847.html

 

5 『いのちとかたち』(483夜)山本健吉 [面影日本]

  https://1000ya.isis.ne.jp/0483.html

 

6 『近代の〈物神事実〉崇拝について』(1766夜)ブリュノ・ラトゥール 

  https://1000ya.isis.ne.jp/1766.html

 

7 『世阿弥の稽古哲学』(1508夜)西平直 [芸と道]

  https://1000ya.isis.ne.jp/1508.html

 

8 『三教指帰・性霊集』(750夜)空海 [戒・浄土・禅] 

  https://1000ya.isis.ne.jp/0750.html

 

9 『おくのほそ道』 (991夜)松尾芭蕉 [日本的文芸術]

  https://1000ya.isis.ne.jp/0991.html

 

10 『危険を冒して書く』(513夜)ジェイソン・ワイス  

  https://1000ya.isis.ne.jp/0513.html

 

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  • 古谷奈々

    編集的先達:鷲田清一。しぶとく、しつこく、打たれ強い。スリムなのにタフでパワフル。切符切って伝票切って、定期売って決算締めての駅員と経理のデュアルワーク経歴あり。現在は中川政七商店のショップコーディネーター。