組織にカゼを通す。見立てで変える組織編集術【編集体験エディットツアーレポ】

2023/04/29(土)21:45
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2020年から3年間、新型コロナは我々の生活に大きな影響を及ぼしてきた。その感染症法上の位置づけが、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」へ移行される5月8日はコロナ史に刻まれる日になるだろう。同じ日、イシス編集学校では第51期[守]基本コースがスタートする。
人生を変える節目として受講者の自分史に刻まれるであろう開講日に先立ち、51守を支える師範・阿部幸織が人々を編集の旅に誘うナビゲータとしてエディットツアーに添乗した。

 

■ 編集は不足から生まれる

ツアータイトルは「組織のカゼに編集術」。阿部師範はタイトルの「カゼ」に、真っ先に「風邪」の字を考えていた。長く続いたコロナ禍がもたらした閉塞感、アフターコロナが近づきつつあるものの、組織がどこか風邪をひいているような状態に、編集の型をどう使っていけるのかを伝えたい。
実際、このオンラインツアーに集まったのは、所属する職場や仕事環境や業界になんらかの不足を感じている11人であった。


■ 編集は対話から生まれる

ツアーは、編集の型「見立て」を使い、参加者が所属する組織をお菓子に見立てる自己紹介ワークから始まった。
理容室経営者、文化芸術を担う組織、公共施設のの管理運営、IT系労組、フリーランスのライター、錦鯉を観光資源とする会社など。さまざまな職場、業界を背景に持つ参加者たちは、組織をお菓子に見立てることで、それぞれの職場や業界に感じている、不足や状況を直感的に伝えられることを体感した。

 

ワークレポート1

 

第一のワークでは、自分の組織をお菓子に見立てる。
参加者Sは、自分の組織をプリンアラモードだと答えた。
一見、具が多くおいしく、魅力的に見えるが、具材が多過ぎて味が一つにまとまらない。

土台のプリンもぐらぐらしている。という見立てだ。

 

集まった11人の参加者は、次々と組織をお菓子に見立てた。

あんこ入り軽羹、半解凍のシュークリーム、詰め合わせのお菓子…

お菓子に見立てることで、組織の問題点が可視化できたのだ。

このワークのシンキングタイムは30秒。
阿部師範のナビで参加者の頭の中にはイメージが沸き起こる。

 

次のワークでは、組織にないものを取り上げてから、お菓子のバージョンアップを行う。


参加者Sはプリンアラモードからクレームブリュレへと変化させた。
クリームブリュレの焦がし砂糖に組織の土台の強化を見たのだ。
「今は新しいメンバーが参加したため、組織が多少ぐらぐらしても仕方ない。これから土台が強くなればいいと思えるようになった。」

 

組織をお菓子に見立ててどうなるのか。
言葉を重ねるよりも、かえって、その組織の本質や問題が見えてくるものなのだ。お菓子を改良したことで理想の組織とそこへ至るまでに必要な方法までもが見えてくる。

 

労働組合専従という職業柄、日々考えていることを活かして用意した「組織」「職場」を扱ったワークは、参加者の共感と対話へと繋がっていった。

 

阿部師範自身、参加者の「組織に風穴を通すんですね」という言葉によって、「組織のカゼ」が「風邪」から「風」へと転じていくことに気づいた。参加者との対話から、ツアーの意味も編集されていくことを感じていた。


■ 編集は遊びから生まれる

最初に見立てたお菓子な組織を、さらにおいしいお菓子へと着替えていく。そのためには、どのように組織のルール・ロール・ツールを変えていくか。ツアーの最後に用意されたのは、カゼっぴきの組織にルル三条を投入し、キラキラの組織に編集するワークだった。

 

ルル三条は、守に38あるお題の26番目、稽古も終盤戦に入るあたりで学ぶ編集の型である。どんな遊びにも組織にも、ルル三条が動いている。肝となるのは、システムを変えるときにルールだけを動かすのではなく、それと連動してロールやツールも動かすことだ。

 

その結果、何が起こってくるのかは、ぜひ守の稽古に遊び、師範代からの指南、同じ教室の仲間の回答を通した対話から体験して欲しい。

 

ワークレポート2


この日、最初のワークで、組織を固いケーキと見立てた参加者Aは1枚の図を書き上げた。
固いケーキを季節のフルーツ オーガニック ケーキへとバージョンアップし、白い皿の上に乗った美しいケーキが、新しい組織の形を呼び起こした。
書類や提案書で思考を動かしていたら、出てこなかったアイディアだ。


今回のツアーの参加者は、ワークで遊びながら、編集稽古の一端に触れ、カゼからカゼを起こす手応えを感じたに違いない。

 

ワークレポート:北條玲子

 

▼風に乗ってみたくなったあなた。

 51[守]はGW明けにスタート!
 申込み・詳細は下記のバナーから。お急ぎください。

  • 米田奈穂

    編集的先達:穂村弘。滋賀県長浜出身で、伝統芸能を愛する大学図書館司書。教室名の「あやつり近江」は文楽と郷土からとられた。ワークショップの構成力に持ち前の論理構築力を発揮する。

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025

大沼友紀

2025-06-17

●記事の最後にコメントをすることは、尾学かもしれない。
●尻尾を持ったボードゲームコンポーネント(用具)といえば「表か裏か(ヘッズ・アンド・テイルズ:Heads And Tails)」を賭けるコイン投げ。
●自然に落ちている木の葉や実など放って、表裏2面の出方を決める。コイン投げのルーツてあり、サイコロのルーツでもある。
●古代ローマ時代、表がポンペイウス大王の横顔、裏が船のコインを用いていたことから「船か頭か(navia aut caput)」と呼ばれていた。……これ、Heads And Sailsでもいい?
●サイコロと船の関係は日本にもある。江戸時代に海運のお守りとして、造成した船の帆柱の下に船玉――サイコロを納めていた。
●すこしでも顕冥になるよう、尾学まがいのコメント初公開(航海)とまいります。お見知りおきを。
写真引用:
https://en.wikipedia.org/wiki/Coin_flipping#/media/File:Pompey_by_Nasidius.jpg