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【臨場させるツアーの秘訣】吉村林頭による本楼ツアー
- 2022/10/10(月)19:00
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「職場を「広告」にしてしまいなさい。」スティーブ・ジョブスの師であったノーラン・ブッシュネルが創造的であるために授けたヒントの一つである。
本楼(ホンロウ)に本棚になっていない壁はない。天井以外の全てが本に埋め尽くされた空間になっていて、柱の四面までもが書架になっている。本に翻弄されたいという松岡正剛校長の想いからそびえたった楼閣である。本楼はまさしくイシス編集学校の殿堂なのである。
2022年10月2日、本楼ツアーが開催された。参加者の多くはイシス編集学校の門を叩いたことのない人たちだ。経歴は編集学校の教室さながら多岐にわたっていて、下は大学2年生から上は68歳まで、飲み友探しから50守をすでに申込んでいる人まで実に13名の方々が豪徳寺赤堤に足を運んだ。
そんな多様な人たちを取りまとめて進行したのは、編集学校の切り込み隊長であり、イシスの核弾頭でもある吉村林頭。本楼という編集学校の本拠地をどうやって語るのか、そこにこそ編集の秘訣が隠されている。リアルでのツアーイベントに隠された方法に着目してみたい。

「伏せて開ける」
「受付をしたらまずは2階の学林堂に通すこと」。
赤堤のビルはガラス扉を開けるとまずは井寸房(セイスンボウ)がある。重厚な書物たちが天井に向けた本棚に鎮座しているその小さな空間は二つの行方を持っている。二階の学林堂へとつながる階段と、背の低い引き戸である。その引き戸を抜けると2万冊にもわたる本がぎっしりと詰まったブックサロンスペース本楼のおでましなのだが、最初にあえてそこを見せない。「タメをつくることが大切」。林頭はスタッフに耳打ちした。
2階の学林堂では本棚の説明に続いて、それぞれが興味のある本を選んでくることからはじまった。そして選んできた本を持って席に着いたときに、「では、選書の理由に自己紹介を織り交ぜてください」。この唐突にこそ編集が駆動するスイッチがある。予定に乱れを組み込むことよって参加者たちを急速に編集状態へと持ち上げることができるのだ。本というツールを持ち込むことで、これまでにない自己紹介を引き出した。
セルフイントロダクションを終えたらいよいよ本楼に向かう。井寸房で一度集めて、「井戸の下の小さな部屋」という名前の由来を語ってから、躙口の扉を開き、一気に本楼の壮大な空間を呈示する。学林堂の本棚ですら楽しんでいた参加者たちは、興奮を隠せないようであった。伏せられていた空間を小さな引き戸を開けることでクライマックスを体感させるという、吉村林頭の目論見通りとなった。
しばらく本楼での時間を各々楽しんだ後には、映像の登場だ。松岡正剛校長が本楼にてユースケサンタマリアといとうせいこうの3人で鼎談した「おとなの?」というテレビ番組を三部構成で見せる。編集について語る編集工学の創始者にすべての参加者が夢中になってのめり込んだ。映像は本楼の感動から、一気に編集への関心へと参加者を集中させるためのキックボードだったのだ。
吉村林頭は『知の編集術』を共読しながら、黒板を使って編集を紐解いていく。黒板はパワーポイントなどのスライドとはまったく違う。何もない深緑の板に白い線が引かれていくことで、場にいる全員が図の出来上がっていく過程に乗り合いながら、意味のシソーラスへと入り込んでいく。誰もが黒板に立ち現れていく林頭のイメージへと没入していった。
ミニワークの一つには、本楼にないものをあげるというお題を出した。ブビンガを囲んだ13人がそれぞれ一つずつあげていく。それは決してじっくり考えて何かをあげるというものではなかった。はい次、はい次と当てていき、場の雰囲気に熱を持たせていくのだ。スピードである。加速度である。そしてインタクティブなのである。[守]で味わうことのできるお題によって後押しされる思考の超速状態を、間をつめていくことによって堪能させた。
「場に臨ませる編集」
吉村林頭の本楼ツアーの要は一言でいえば「臨場感」である。そこでしか味わえない、その場限りの一座建立である。説明も決して台本の棒読みや繰り返しなどではない。話す内容は常にケバケバを持っていて、参加者たちに連想の糊代や縁側を残したまま手渡していく。加えて話題は一緒不在だ。ロシア・ウクライナ戦争から身近な上司と部下の会話まで編集の型の本来を発揮して貫いてみせる。全体を通してどのようにすれば参加者の心が動くかの趣向が凝らされているのだ。
今後も本楼ツアーは続く。それ以外にも編集学校ではエディットツアーや学校説明会といったたくさんの企画が用意されている。
参加する際には是非どのような趣向が凝らされているのかに目を凝らしていただきたい。そこには極上の場の編集術が隠されているだろう。「編集は人や場をいきいきさせる」方向に向かうのである。ではどうやったら場を躍動させることができるのか。その秘訣は50守にある。是非、自ら体験し、その醍醐味をご堪能ください。