飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。

島は島は言葉を求め、言葉は島を呼び寄せます
2024年秋、今福龍太船長のひと言で、多読アレゴリア・群島ククムイの航海がはじまった。
フォルモーザ、フォルモーサ、エルモーサ、美麗島…、今は「台湾」と呼ばれる島は、かつて別の名をもっていた。17世紀、ポルトガル人航海者たちが、島の山々と森林を森を見て、思わず発した「Formosa(美しい)」とう名前でもって、世界にその存在を知らしめた。それ以前には、伏せられてしまった別の名も持っていたに違いない、船長はそんなことも示唆してくれた。
名づけ親は一人ではなく、響きは幾重にも重層し、郷愁を抱きながら変容しつづけるのです。島々への航海は、だから変異する言葉のはざまをめぐる航海でもあります。「音」の響きの変異を繊細に聞きとる、感覚の旅です。
言葉と書物のあいだを漕ぎ進んで5か月目、ことばとカラダの感覚がひらきはじめた群島ククムイの面は、呼び寄せられるように今福船長の住む台湾へと旅立った。船長とともに歩いた台湾をそれぞれのフィルタ―で切り取る。
~Day1:台北での再会、長い夜~
初日は、台北市を流れる淡水河にほど近い大稲埕散策へ。水運によって栄えた貿易の街は、経済、社会、文化の中心地だった。今も残るレンガ造りの建造物、独立系書店などがその面影を伝える。食事、夜市散策、台湾談義…、日が暮れても今福船長と奥様の明子さんを囲んでの対話が終わらなかった。
台北の街を颯爽と歩く今福さん。もう2,3年は住んでいるのではないかという自然な雰囲気を醸し出していたのですが、こちらの大学に赴任してからまだ1年も経っていないのが驚きです。世界に住み、旅してきた文化人類学者の風格を感じました。
――写真・文:吉永拓
1日目の夜、海鮮料理店での晩ごはん後に、今福船長が選んだ本のための自作ブックカバーをお披露目しました。5人それぞれが、徹夜したとか、台湾のホテルで作ったとか…、「ぜひ、船長に!」という気持ちがあふれる力作がそろいました。(このお店のはまぐりスープとチャーハンが絶品でした~)
夕飯時のお披露目会のシーン、楽しさと熱気に包まれて、大のお気に入り写真です。
――写真:中谷千恵、文:西村慧・上野香織
食後に散策した夜市でピンボールゲームに興じた。言い出しっぺは今福さん。いつの間にかゲーム用のコインを入手して玉を弾きはじめた。最初は腰が引けていたみんなも「やったぁ~!」「ざんねんっ」と真剣に。全員でスコアを稼ぎ出して、ようやく手に入れられたのは、小さなウサギのぬいぐるみ。ゲーム後いったん解散したたものの、明子さんからお勧めの絶品「豆花」へのお誘いに、大喜びで行列の最後尾に加わった。
――写真:文:阿曽祐子
~Day2:霧の街、淡水へ~
二日目は、淡江の街へ。淡水河の河口に位置する港町は、外からの台湾への入口になってきた。霧のような雨のなか街を歩き、今福船長が教鞭をとる淡江大学へ。たくさんの台湾の顔が見えてきた。
台湾が海の外にある国々とつながった港、淡水。ポリネシア系の原住民の生活に違う文化の国々の船が入り、新たな多民族国家へと変貌した起点になる場所。明治の日本人もここから台湾に入って、融合文化をつくりだしていったそうです。そんな場所に私たちも傘を差して集まりました。時の流れ、水の流れの中に、今のわたしたちがいることを感じさせてくれました。
―――写真:中谷千恵、文:大澤実紀
雨の淡水で見学したのは紅毛城。スペイン、オランダ、イギリス、日本、、、次々と台湾を占領した国々の跡が感じられる。隣の真理大学では台湾の医療に尽くしたカナダ人宣教師で医師のマッケイ博士のことも知る。翌日、数人で今福さんが勧めてくれた台湾大学の人類学博物館を訪れると、まったく別のたくさんの少数民族の歴史があった。
―――写真・文:阿曽祐子
「ガジュマルの木と傘」は、今回の旅で何度も見た思い出に残る風景です。淡水での雨に濡れる緑の美しさはとても心地よくて、雨の中の街歩きが楽しさに変わっていきました。始めてこの島に来たポルトガル人が見た〈Ilha Formosa、麗しの島〉も、雨に光るガジュマルだったのではないかと妄想しました。
―――写真:中谷千恵、文:大澤実紀
台湾では移動にMTRとバスを使いました。MRTの駅は整備されていて安心して乗れます。前日に、夜市のピンボールゲームで手に入れたうさぎのクーちゃん(ぬいぐるみ)も、みんな一緒に台北から淡水へのショートトリップをしました。
―――写真:上野香織、文:西村慧
今福さんの案内で淡水を散策し、市林夜市でご飯を食べた後は宿泊していた台北中心部のホテルの周りで深夜の独立系書店巡り。一通り本を物色して帰路についた一行の目に飛び込んできたのは、「本」と書かれているように見えるマンションの外壁ブロック。「何かの暗示か!?」と顔を見合わせました。
夜のブックカフェめぐり後、ホテルへの帰路、「本」の暗示を見つけて、大興奮しました!吉永さんのゴリゴリのモノクロ、かっけえ!――写真:吉永拓、文:吉永拓・上野香織
~番外編~
二日間の今福船長との台湾歩きの前後にそれぞれの旅も楽しんだ。
台北車站の待合イスにて。駅で買った弁当を手に持って空いている席を探していたところ、おばあがイスのうえの荷物を足元に降ろし、手招きして横に座らせてくれました。うれしくて、一緒に写真を撮りましょうと声かけて(実際にはジェスチャーで)パシャ!
―――写真・文:渡會眞澄
台北から電車に揺られて1時間、猴硐(ホウトン)のワンシーンです。台湾語を話せないので、カメラを見せてシャッターを押す真似をし、「撮ってもいい?」と尋ねたところ、おばあがニヤッと笑って頷いてくれたので、すかさずシャッターを押しました。
―――写真・文:渡會眞澄
旅を終えて、それぞれの場所へ還ったククムイメンバーのもとに、海の向こうから船長からの声が届いた。
無限への可動翼を、さあ、思いっきりつまんでひねろう! 群島ククムイのあらたなタブ=タビのために! 創造的な迷いにみちた霧中=夢中へのタビのために!
次の旅が呼んでいる。
(文・編集:阿曽祐子)
★多読アレゴリア【群島ククムイ】、今福龍太さんについて、こちらも参照ください。
・世界とわたしのあいだ、半影の海へ。【群島ククムイ:25秋の募集】
ただいま、一緒に旅をしてくださる仲間を募集中です。
・【多読アレゴリア:群島ククムイ】今福龍太と夏の島旅へヨーソロー
・生きることは霧とともにあること――今福龍太『霧のコミューン』発刊記念ISIS FESTA SP報告
・霧中からひらく新たな「わたし」――今福龍太さん・第3回青貓堂セミナー報告
群島ククムイ
ククムイは奄美・沖縄のことばでぷっくり膨らんだ小さな
蕾のこと。船長の今福龍太さんから届くことばに導かれ想
像力の花を育む群島コミューン。その島影で航海模様を綴
るのが、遊びごころいっぱいの多彩なククムイストです。
世界とわたしのあいだ、半影の海へ。【群島ククムイ:25秋の募集】
群島ククムイは、ISIS co-missionの今福龍太さんとコラボレーションしているクラブです。クラブの創設以来、今福さんは船長として、新しい土地への旅はもちろんのこと、常に新しい言葉や書物への旅…、さまざまな旅へと […]
【多読アレゴリア:群島ククムイ】今福龍太と夏の島旅へヨーソロー
夏の旅は、イシスコミッションの今福龍太さんとゆるやかな島めぐりの航海へ漕ぎ出しましょう。 小さな小さな島、短い短い言葉に注意をはらって! 2024年冬の初航海は、大西洋のうるわしい群島、カーボ […]
コメント
1~3件/3件
2025-08-16
飲む葡萄が色づきはじめた。神楽鈴のようにシャンシャンと音を立てるように賑やかなメルロー種の一群。収穫後は樽やタンクの中でプツプツと響く静かな発酵の合唱。やがてグラスにトクトクと注がれる日を待つ。音に誘われ、想像は無限、余韻を味わう。
2025-08-14
戦争を語るのはたしかにムズイ。LEGEND50の作家では、水木しげる、松本零士、かわぐちかいじ、安彦良和などが戦争をガッツリ語った作品を描いていた。
しかしマンガならではのやり方で、意外な角度から戦争を語った作品がある。
いしいひさいち『鏡の国の戦争』
戦争マンガの最極北にして最高峰。しかもそれがギャグマンガなのである。いしいひさいち恐るべし。
2025-08-12
超大型巨人に変態したり、背中に千夜をしょってみたり、菩薩になってアルカイックスマイルを決めてみたり。
たくさんのあなたが一千万の涼風になって吹きわたる。お釈迦さまやプラトンや、世阿弥たちと肩組みながら。