九天玄氣組の組員が九州の“をちこち”を旅する【九州ちのへん】。今回はなんと空を飛びます! 目のカメラをぐーんと引き上げると巨大オブジェに遭遇しました。ちょっとした遊覧エディット飛行をお楽しみください。旅人は組長の中野由紀昌です。
飛行機では必ず窓側に座る。福岡から東京へ向かうときは富士山を拝める左列に座るのだけれど、便や気候条件などによって航路は変動するので、鉄道の旅のように一つの固定されたルートを通過しないのも、空の旅の面白さだ。
福岡から羽田へ向けて離陸。10分ぐらい経っただろうか、ふと窓の下を覗いた。激しく蛇行する山国川が見えたので、今日はめずらしく大分方面を廻っていくコースだなと思いながら窓にへばりついて眺めていたとき、目を見開いた。巨大な円形オブジェが目に飛び込んできたのだ。これはなんだ!?
飛行機の窓から覗いた国東半島(半径 約30km)
国東半島である。大分県北東部に位置する半島で、神仏習合の宗教文化を今に伝える「六郷満山」は、九州の中でも異色のオーラを漂わせるエリアだ。もともとは120万~150万年前に活動していた火山(両子山)によって形成された半島である。
雲の上から眺めたのは初めてだ。両子山を中心に火山麓扇状地が360度に放射されている。山と山の合間に幾筋もの切り込みが見える。そこには川が流れ、道が通り、人の営みがある。ただでさえ国東半島には独特の気配を感じていたけれど、ひとつかみできる高さで目の当たりしてからというもの、あのカタチ、フォルムが気になって仕方がない。このペッタリとした違和感。なんと言い表したらいいのか、ムズムズが止まらない。
ネットで調べてみると、国東半島を“和傘”に見立てた人がいた。たしかに放射線状に展開しているあたりはそうかもしれないが、どうも腑に落ちない。もっと生々しいもので言い表せないか。例えば、そう、浜辺に打ち上がったクラゲのような、ぺったりとしたもの。でもクラゲって放射線状だったっけ? 海岸に打ち上がっているクラゲがあるかもしれないから確かめようと、車を走らせた。
福岡市の西方面、糸島の二見ヶ浦へ。夫婦岩をバックに写真を撮る観光客の脇で、ひたすらクラゲを探す怪しい女と化したが、クラゲのクの字も落ちていない。がっかりしていると、砂浜に散らばる貝殻の群れに目が止まる。その中に見つけた、小さな国東半島…。
国東半島もどき(?)のカラマツガイ。直径は15mm
小さく平べったい円錐形の貝だ。放射線状の筋があり、右側がやや張り出している。調べてみると岩場にはりつくカラマツガイか、その仲間だろう。国東半島に見えなくもない。
まあ、これかな、とポケットに入れて浜辺を後にするが、やはり妥協はしたくない。もっと近いものがあるはずと、次に足を向けたのは野菜市場。キャベツ、トマト、ごぼう、大根など朝どれの新鮮野菜がずらりと並んでいる。品定めしつつ、思わず手にとったものが、これだ!
ぷりぷりの椎茸。ひびの入っている椎茸は商品価値も高い。直径115mm
ハイ、椎茸です。椎茸の中央部分が「両子山」、ひび割れ部分に「六郷満山」。このぺったり感、しっとり感も雲の上から眺めた国東半島のソレに似ている。「わが意を得たり♪」と満足気に帰路についた。
たわいもない小さな旅だ。けれども頭によぎったのは、一年前の3月、<あやかり編集力>について語った、感門之盟における松岡校長の言葉だった。
百均ショップで入手したつけ爪やピン、アイブロー用のチップなどのグッズの写真を投影しながら、「相転移の<相>を感じると<転移>できる。オブジェクトから与えられたものを、いかに認知するか。裏切りか、獲得か、その両方か。ここから世界の断片に出会う可能性が高い。つけ爪を見てもそれに留まらず、アーキタイプ、プロトタイプ、ステレオタイプまでいきなさい。それがあやかり編集力だ」と語ったのだが、その言葉が「つけ爪」の写真とともに脳裏に刻まれていたのだ。(「松岡校長、百円ショップで世界の断片を読み解く」)
感門之盟で投影された「つけ爪」
国東半島を雲の上から眺めた瞬間にギョッとしたのは、世界の断片に出会えたからだ。
編集学校では見方を自在に変えろと口すっぱく言う。また、九州支所「九天玄氣組」も「りべらる九州、あんぐる編集」というキャッチフレーズを掲げているように、改めて「あんぐる編集」を地で行かねばと、ひび割れた椎茸をフライパンで炒めながら誓うのだった。
中野由紀昌
編集的先達:石牟礼道子。侠気と九州愛あふれる九天玄氣組組長。組員の信頼は厚く、イシスで最も活気ある支所をつくった。個人事務所として黒ひょうたんがシンボルの「瓢箪座」を設立し、九州遊学を続ける。
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