1971年刊行開始。日本では万博が終わり、三島由紀夫が自決した翌年にあたる。今やレジェンドとなったミュージカル『ヘアー』の劇中歌「Aquarious〜Let The Sunshine In / 輝く星座」が、「アクエリアス(水瓶座)の時代」の幕開けを告げていた(1659夜『キャンティ』参照)。
それから半世紀の2020年12月、西洋占星術の世界はこれまで約200年続いた”地の時代”から”風の時代”へと突入したとする話題で持ちきりだ。どちらが正しいのか、ではなくて、天の動きは人間の時間とはスケールが違う。水瓶座の時代も風の時代も産業革命のころにはもう始まっていたという説もあるほどの「誤差範囲」があるのだが、そのスケール感で人間の「今日の運勢」などチマチマ占えるのかどうか。
お待たせしました。多読ジム千夜リレー伴読。今回は1971年を前世の記憶のように覚えているサッショー大音が担当します。
本を読むのは得意でも、図像を読むのは苦手という人は多いもので、そのために千夜千冊エディションが『本から本へ』『デザイン知』として対発生の産声をあげたことを、忘れてはなりません。そして、松岡校長の「編集」の第一歩もまた「本を並べること」と「イメージ群を言葉に置換すること」から始まっています。
図像は「輪郭とコンフィギュレーション(布置)と細部」と教わった若き校長が、本棚も自作する生活のなか、『折口信夫全集』『岡倉天心全集』『南方熊楠全集』『三枝博音著作集』を順番にそろえていかれたのは、いずれ見つかる北極星に向けてカシオペア座の明るい星を布置していったようにも受け取れますね。
一等星のような本をどのように際立てるか。すでに各地で始動している「エディションフェア」へのヒントももらえたように感じるのは、いくらなんでもムシがよすぎたでしょうか。
神秘主義がどのように胚胎し、芽を出し、成長して繁茂していくのか。その例を示したのが本千夜の位置づけなのでしょう。簡単に言えば人間の知覚+αによって、ゲシュタルトクライスが動き出すことは、0756夜に示されていました。そこから3Aは生まれてきたのですから、アタマの中の回転扉をぐるぐる回しながら「占星術」に向き合うべきであることがわかります。
人間文化の歴史には、気になることを「見えるもの」「読める
もの」にしていくリプリゼンテーションの歴史と、容易には観
測できない「隠れた動向」を予測的かつ暗号的に浮上させると
いう二つの流れがあるのだが、占星術にはその両方の歴史が刻
まれてきた。
と、当夜の向かう先が予告されているとおりです。かたや1976年に発行された「ヴィジュアルコミュニケーション」の帯はどうでしょうか。
この書物のなかに、我々が注意深く封じ込めようとしたモノは、
近過去から遠過去へと逆照射する光束に浮かびあがる内知覚的
《イメージ図像史》の、倒立根の根本をたどる探索への旅なの
である。
と、杉浦康平さんの言葉が引用されています。
占星術は「時間」をみるアートから「判断のシステム」へと向かい、星座という「移動のためのアトラス」を「天体ゲシュタルト」に変えていきます。一方、人間のヴィジュアルコミュニケーションは、痕跡から観念へ、内観宇宙から外在宇宙へ、と全く逆の方向をたどります。
ためしに画像のP108から109、黄色の見開きを拡大して見てください。中尊寺大長寿院の金光明最勝王経金字宝塔曼荼羅図の第五塔。経文十巻が一巻ずつ一塔の形式で書写されているのは、「宇宙意志」の実現を祈念し、その功徳にあやかろうとした藤原氏の図像建築です。
運命と宿命、神託と「オーメン」の取り扱い方についても、校長は読者への万全の注意を忘れません。それはわたしたちが「アーキタイプ」というものをほぼ完全に見失っているからです。
「『お題』を立て、何かの対象の変化を読みとり、その兆候(シンプトン)に意味を読み取る」という行為は、原始古代の占術・占卜術に共通していたと書かれますが、ここでサッショーは1351夜『意味に餓える社会』を連想しました。
1351夜の冒頭近く、ドイツ語の「意味」(Sinn)はもともとは「旅する」とか「進路をとる」という古語だった、という一文があります。忘れがちなのは、「意味」と「かたち」と「デザイン」の順番です。何かのかたちに出会うと、人はそこに意味を読み取ろうとする。そうすると、「神託」や「オーメン」のようなものが想定されてしまう。そういう「しるし」から逃れて、かたちの自由を求めたのが「デザイン」である、という流れです。
西洋占星術の十二星座の「型」に自分のモデルを求めるのは、デザインがたどってきた「ヴィジュアルコミュニケーション」な道筋と比べると、やはり相当安易な姿勢である。そう読んできたはずなのに、ラストを飾る「松岡正剛のホロスコープ」に、意味を求めたくなる自分って、あまりにもみごとに汚染されきってて、救いようがなさそうです。
いや、そんなときこそ本を読め。「しるし」と「脱しるし」の攻防を描いた「アリババと40人の盗賊」を所収した『アラビアン・ナイト』(1400夜)を、できればだれかに音読してもらって耳読しよう、と遅まきながら心に決めました。
アルフ・ライラ・ワ・ライラ。各地の「エディションフェア」が、お店ごとのセンス・オブ・ワンダーな変換を象徴し、『感ビジネス』へと向かいますように。
大音美弥子
編集的先達:パティ・スミス 「千夜千冊エディション」の校正から書店での棚づくり、読書会やワークショップまで、本シリーズの川上から川下までを一挙にになう千夜千冊エディション研究家。かつては伝説の書店「松丸本舗」の名物ブックショップエディター。読書の匠として松岡正剛から「冊匠」と呼ばれ、イシス編集学校の読書講座「多読ジム」を牽引する。遊刊エディストでは、ほぼ日刊のブックガイド「読めば、MIYAKO」、お悩み事に本で答える「千悩千冊」など連載中。
【MEditLab×多読ジム】欲張りなドクトルになるには(大音美弥子)
多読ジム出版社コラボ企画第四弾は、小倉加奈子析匠が主催するMEditLab(順天堂大学STEAM教育研究会)! お題のテーマは「お医者さんに読ませたい三冊」。MEdit Labが編集工学研究所とともに開発したSTEAM教 […]
【ISIS BOOK REVIEW】芥川賞『おいしいごはんが食べられますように』〜幼稚園バス添乗員の場合
評者: 大音美弥子 幼稚園バス添乗員、イシス編集学校 [多読ジム]冊匠 毎朝、2歳児から5歳児までを詰め込んだ幼稚園バスに添乗していると、些細なトラブルの調停はめずらしくない。初めて乗った頃に驚いたのは […]
2003年以来、編集学校に明るい灯をともしつづけた池澤祐子師範が彼岸に渡って81日を数える2月26日。彼の人の残り香がそこかしこに殘る本楼で、その不在を本と衣装と歌と花にしのぶ「惜門會」が開かれました。1 […]
【Playlist】読書のお供パリポリ5選(サッショー大音)
誕生日にケーキを食べ、ろうそくを吹き消すのはせいぜい小学生まで。大人の見本、松岡正剛校長には平常心で読書と煎餅を渋茶で満喫していただきたい。そんな5選、お口に合いますかどうか。 ◆ぽんぽん煎餅 […]
本に上巻があれば下巻があるように、EDIT COFFEE前編に続く後編、ご準備しました。 前編はON TIMEをタイトにブーツストラップする3人に登場いただいたが、後編は<iGen7>や<7人7冊>にちなんで「7」にこだ […]