”火を継ぐ”モノへ

2025/09/05(金)17:41 img
img ZESTedit
能登穴水新崎の黄昏時

分断された診察室

 

 総合診療医として患者と向き合う日々の中で、違和感を覚えることがあった。症状を診断し、薬を処方し、経過を観察するこの一連の流れは確かに医療として機能している。しかし何かが欠けている。患者の暮らし全体、地域の歴史、季節の変化、家族の物語。これらすべてが一つの「場」として患者の身体に現れているのに、医学教育ではそれらを切り分けて考えるよう訓練されてきた。

 

文巻が開いた新しい回路

 

 離の文巻は、これまでの学習体験とは根本的に違うものである。単に新しい知識を得るのではなく、既存の知識同士が化学反応を起こし始めていく。
 訪問先の民家で見つけた古書のざらついた紙質から、能登の和紙作りや平家物語が想起される。患者さんの荒れた手があえのことや海の向こうの朝鮮の神々と結びついていく。病院からの穴水湾やお寺と一体になった裏山の景色は空海がもたらした神仏混淆な能登の共同体の在り方を映し出す。患者さんたちの症状は、その人の暮らしと季節の変化と地域の特性を背景とした物語として立ち現れてくる。

 

能登という場

 

 離をパサージュし続けるモノとして、能登半島という具体的な場所で世界読書の実践が深まっていく。能登の民家の仏間に座れば、位牌に刻まれた祖先たちの名前から、時間と空間を超えた「場」の中にいることを感じ取る。過去と現在と未来を結びつけている。
 日常のすべてが編集の対象となる。診療での気づきを文巻の概念で読み直し、能登での体験を医療の視点で再構成し、両者を編集的に組み合わせて自分なりの見方を生み出していく。このプロセスが、まさに世界読書だった。

 

暮らしと学びの境界線

 

 離の火は灯り続ける。朝の診療も、昼の往診も、夕暮れの散歩、子育てに、友人との語らい、そして読書することなどすべてが世界を読み解く行為として体験される。
 季節を尊び、地を味わい、暮らしをつくり続ける。この「編集とともにある暮らし」こそが、離で獲得した最も大きな変容かもしれない。知識を消費するのではなく、編集そのものを暮らしとして創造していく存在様式だ。

 

世界たちとの出会い

 

 松岡校長は永遠に不在となったが、文巻の中で語らい続けてくれている。そこには、それぞれの専門性と日常を編集し、世界と自己を同時に読み直していく方法が刻まれている。
 どんな立場の人でも、離での世界読書を通じて根本的な変容が訪れる。別様の可能性を信じてほしい。そこに一歩踏み込む勇気があるなら、誰もが新しい自分と出会うことになるだろう。

 


]世界読書奥義伝 第十七
https://es.isis.ne.jp/course/ri

上記HPで「募集概要」を確認し、課題提出の前にまずは応募メールをお送りください。

 

■期間   :2025年11月1日(土)~2026年3月16日(月)
▼表沙汰  :2026年1月31日(土)
■資格   :[破]応用コース修了者(突破者)以上
       [破]アリスとテレス賞(知文および物語の両方)に
       エントリーした人を優先的に受付します。



*[]に関するお問合せ先:イシス編集学校 窓口(八田)
 ri-editschool@eel.co.jp

  • 華岡晃生

    編集的先達:張仲景。研修医時代、講座費用を捻出できず、ローンを組んで花伝所入門。師範代、離を経て、[破]師範に。金沢のエディットドクターKとして、西洋医学のみならず漢方にも造詣が深い。趣味は伝建地区巡り。