≪公式≫遊刊エディスト 編集の国イシス・メディア

５分で書く・再び書く　ー44［花］遊撃錬成師範のダントツ指南ワーク

2025/11/25（火）12:00 img
img ZESTedit

「５分で書いてください。」

 

何を？　「指南を」だ。

 

これは44［花］で急遽開催された「ダントツ指南ワーク」での出来事である。入伝生は直前に手渡された【編集稽古001番：コップは何に使える？】の回答を８分で読み、５分で指南を書く。この場を仕掛け、ナビゲートしたのは、遊撃錬成師範の吉井優子。数日前に開催の案内を突如投げ入れた。即座に入伝生の返答が続き、開催日は案内日当日に決定。今期の入伝生は活きがいい。

 

このワーク、前期までは式目演習終了後に開催していた。師範代登板の用意として位置づけていたのだ。それを今期は式目演習の途上、基本から応用へ向かう指南錬成（メイキング）の直前での実施に吉井が踏み切った。今期、花伝師範から遊撃錬成師範に着がえた吉井の式目演習のゲームメイキングである。前期までの幾多の期を道場生の息づかいを感じながら着実に基本の型を手渡すことに長けてきた「花伝師範」の吉井。44［花］では「遊撃錬成師範」として上空で道場の様相を読みながら、その呼吸を感じ取っていたのだ。

 

機会を読むだけではない。基本から応用の結節点になるよう、ワークを更新した。まず、ネーミング。「ダントツハヤガキワーク」を「ダントツ指南ワーク」にかえた。「ハヤガキ」を伏せることで、実践前の入伝生の注意を「ダントツ」の一点に向ける。手続きも抜かりなく編集されていた。「ダントツ指南ワーク」の要は、短時間で二度指南を書くことだ。一度書き切った後、再び回答と出会い直す。二度目の連想や仮説の変化を実感することで、読みの意味を更新することができる。「ダントツ」に向かうには回答の読み解きのバリエーションを増やすことが欠かせない。毎期ナビゲーションを先導し、フィードバックをかける吉井の経験知の結実がここにある。

 

回答は20個。多様なコップの使い方が並んでいる。「飲食」「楽器」「土を掘る」のように行為が想定されるものだけではなく、「親孝行」「仲直り」のような関係構築への転用まで、幅広い回答だ。だからこそ、数分で読むには、入伝生の「おやっ」「えっ」「なんで？」といった驚きが欠かせない。「ダントツ」の起点は回答からの察知であり、個々の入伝生の読者の目線こそ「ダントツ」の種なのである。吉井によって選り抜かれた回答群に入伝生の様々な目線が行き交う。

 

入伝生H.M.は「鑑賞品」という回答に注目した。一度目は「綺麗なガラス」かもしれないと類推し、二度目は「誰かの落書き」があったかもしれないと読みを更新した。回答に思いを馳せることで、ある種のコップの想起が様々なコップの連想へ乗り移り、多種多様なコップ群が出現した。回答世界を押し広げることで、学衆のダントツに向かってどれをどう手渡すか、そこにさしかかってゆける。

 

「ダントツ指南ワーク」から「指南錬成」に飛び込んだ入伝生は、いよいよ師範代になりきる舞台に立つ。数分の読み書きの往来を体感した「ダントツ指南ワーク」から、指南とFBのスパイラル状態に没入する「指南錬成」へフェーズが移った。入伝生９名は、指導の言葉を噛みしだく執念をもって、よくよく練られたとびきりの指南を書くことを目指す。細部にこだわり、時にゼロから書き直すことも厭わず、たった一度きりの指南錬成を味わい尽くしてほしい。

 

アイキャッチ／大濱朋子（44［花］花伝師範）

文／古谷奈々（44［花］花伝師範）

【第44期［ISIS花伝所］関連記事】
●缶切りはどこへ？　―44［花］ガイダンス
●【書評】『アナーキスト人類学のための断章』×４× REVIEWS 花伝所 Special
●編集を遊撃する――44［花］稽古模様

●負をもって相を動かす―44［花］千夜多読仕立て

●やってくる機ー44［花］５つの編集方針ワーク

●44［花］花伝ブラウザが起動する式目の編集工学講義

●44［花］仮想教室名で視界は良好！？

●５分で書く・再び書く　ー44［花］遊撃錬成師範のダントツ指南ワーク

 

  • 古谷奈々

    編集的先達：鷲田清一。しぶとく、しつこく、打たれ強い。スリムなのにタフでパワフル。切符切って伝票切って、定期売って決算締めての駅員と経理のデュアルワーク経歴あり。現在は中川政七商店のショップコーディネーター。

  • 缶切りはどこへ？　ー44［花］ガイダンス

    缶切りを見なくなって久しい。世の中の缶詰にはプルタブがつき、缶切りは出番を失ってしまった。 その缶切りが突如あらわれた。10月５日、オンラインで開催された、44期ISIS［花伝所］のガイダンスでの出来事だ。 ５Ｍと称する […]

  • 43［花］ 緑を蘇らせた師範代から学ぶ

    リスクヘッジではなく、リスクテイク。 リスクマネジメントではなく、チャンスマネジメント。 花伝式目が伝える「マネジメント」の要訣である。 世の中のマネジメントは、失敗を減らし、成功確率を高め、成功の横展開に向かう傾向があ […]

  • 42[花]　両岸から向かう道場五箇条

    10月27日の衆議院選挙で当選結果が出揃い日付を跨いだ頃、42[花]花伝所では、からたち道場の五箇条が完成し、すべての道場に、めいめいの色が滲み出た五箇条が勢揃いした。推敲に励み、部分にこだわり、演習を突出させる日々に […]

【関連記事】
ZESTeditの最新記事

記事一覧を見る

isis channel

news

もっと見る
ZESTeditの最新記事

記事一覧を見る

podcast

playlist

もっと見る

podcast

isis channel

コメント

1～3件/3件

川邊透

2025-11-18

自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。

堀江純一

2025-11-13

夜行列車に乗り込んだ一人のハードボイルド風の男。この男は、今しがた買い込んだ400円の幕の内弁当をどのような順序で食べるべきかで悩んでいる。失敗は許されない！これは持てる知力の全てをかけた総力戦なのだ!!
泉昌之のデビュー短篇「夜行」(初出1981年「ガロ」)は、ふだん私たちが経験している些末なこだわりを拡大して見せて笑いを取った。のちにこれが「グルメマンガ」の一変種である「食通マンガ」という巨大ジャンルを形成することになるとは誰も知らない。
(※大ヒットした「孤独のグルメ」の原作者は「泉昌之」コンビの一人、久住昌之)

川邊透

2025-11-11

木々が色づきを増すこの季節、日当たりがよくて展望の利く場所で、いつまでも日光浴するバッタをたまに見かける。日々の生き残り競争からしばし解放された彼らのことをこれからは「楽康バッタ」と呼ぶことにしよう。
もっと見る

instagram

facebook twitter instagram