平和に飛び交うモンシロチョウも、地球史スケールでは、ほんの少し前に日本にやって来たばかりのパイオニアらしい。押さえきれない衝動に駆り立てられて彼方に旅立つ人たちの原型は、海をわたる蝶なのかもしれない。
師範となる動機はどこにあるのか。師範とは何なのか。そして、イシス編集学校のこれから――。55[守]で初師範を務めた内村放と青井隼人。2人の編集道に、[守]学匠の鈴木康代と番匠・阿曽祐子が迫る3回連載「師範 The談」。今回は、師範から見た学衆と師範代そして師範となった理由が語られる。ある師範の振る舞いに感激したと話す青井。一方、内村は[離]を終えた直後の経験が登板へとつながったと言う。意外な動機から始まる話は、やがて「師範とは何か」という問いへ向かっていく。
康代 学衆はまず守に入り、編集用語や仕組みも分からないまま稽古が始まります。初めて師範ロールを担った内村師範、青井師範には、その様子はどう見えました?
内村 みんな稽古が面白そうでした。お題に驚きをもって出会っている姿が新鮮で刺激的でした。師範になっても、学んでいる真っただ中の学衆から、あらためて型の面白さを教えてもらえます。
青井 55[守]は千夜千冊や松岡校長の本を読んで入門した学衆も多かったようです。自分とは全然違うなと思っていました。私の場合、松岡校長の言葉が読めるようになってきたのは、ここ最近です。師範を経験したことで、お題文や講義篇の見えも変わってきて、学衆の時はちんぷんかんぷんだったところの含蓄や味わいを感じ取れるようになりました。
阿曽 師範代を見ていてどうでした?
内村 方法に育てられていますね。師範代の言葉を見ても、後半になるとすごく変化しました。
康代 それは指南の内容? それとも場面編集?
内村 まず方法にのっとった指南の言葉が出るようになったこと。そして学衆のダントツを拾ったり、エールを送ったり、場のメイキングもうまくなりました。15週のスピードと量は師範代にとっては大変な時もありますが、だからこそ忘我の感覚を得て、方法と一体になれるのだなと改めて知ることができました。
青井 場面編集もどんどんやわらかくなっていきました。最初のうちは、教室も勧学会も、動かしたい・動かさなきゃという気持ちが先行しすぎていたような気がします。後半に進むにつれて時機を捉えた言葉が増えました。とくに勧学会でのふるまいで、それを感じましたね。
創守座でコーナー進行する内村師範
内村 僕の中で、こういう指南がいいと思いすぎていたところがありました。でもそういう指南をしない場面も多々あるわけです。師範代の魅力とともに、ひとつのスタイルとして確立する。師範として少し距離を置くからこそ、いろいろなスタイルがあるんだなっていうのを、改めて見させてもらったし、指南の可能性を教えてもらいました。
内村 青井師範と僕は53[破]師範代の同期ですが、当時から守の師範をやりたいと宣言していましたよね。
青井 学衆の時から、学びを夢中にさせる編集学校の仕組みがすごく面白いと思っていました。その時担当だった阿曽師範(現番匠)に話したら、「それなら花伝所にいかなきゃ」って強く勧めていただいて。守でやめるつもりだったんですけど。
阿曽 え、そうだったんですか。押してよかった。
青井 師範をやりたいと思ったのは、相部礼子師範の影響がすごく大きい。53[守]で師範代をした時の担当です。こまめな声掛けに励まされ、勇気づけられたことが何度あったか。
創守座での一コマ。青井師範と相部師範。右はインプロ宝珠教室の加藤万季師範代
内村 継承したものを次へつなぐ、という意識もあるんですか。
青井 してもらったことを次の人にもしていきたいと考える傾向はあったのかもしれません。大学で博士学生のメンターをやっているのですが、似たところがあります。学生時代の苦しかった経験をもとに、同じ境遇の学生に対して力になりたい、励ましたいという気持ちがモチベーションになっています。師範ロールと近いというか、共鳴しているような気がします。
阿曽 内村師範は?
内村 離のお題をすべて出し終わった後、放心状態で2日間ネットフリックスだけ見ていたんです。そこで、あっという間に“編集を人生する”から離れてしまう自分に気づきました。何より編集という熱中がそこにはなかった。これじゃ、終わってんなぁー、と。離の学びを実践していくためにも、自分には編集学校がもつ「場の力」が必要だと思い、声の掛かっていた破の師範代を受けました。今回、師範のオファーをいただいた時もネトフリ体験を思い出して…。
康代 まさか、それだけではないですよね。
内村 もちろんそれだけではなく、伏せと開けということもあります。今はわからないけど、行ってみたら気づくことをイシスで体験していたので。先をまた開けることができるなら師範をやったほうがいいなと。それから学衆の時は、師範って全知全能な人に見えるんです。なんでも知ってるし臨機応変だし、伝習座でおしゃべりもできちゃうし、やばい軍団いるな…みたいな。なんでそういうことができるんだろうと思っていたので、師範をやってみようと。
阿曽 実際にやってみてどうでした。
内村 みなさん編集力はもちろん高いのですけど、同時にきちんともがいているんですね。番ボー講評もそうだし、守ボードのやり取りすべてが稽古になっている。スマートに次々やるというのではなく、いい相互編集が行われているのが素敵だと思いました。師範としての編集をするという覚悟と決断が、どんな苦境にあってもあるのですね。
次回予告■「師範って何ですか?」。かつて田中優子学長から師範陣に向けられた問いを切り口に、師範を言い換えながらロールの本質に向かう。12日に公開予定。
アイキャッチ:阿久津健(55[守]師 範)
写真:若林牧子(55[守]同朋衆)
構成:景山和浩(55[守]師 範)
※55[守]感門之盟はこちら。まだ間に合う!
■第89回感門之盟「遊撃ブックウェア」
■日時:2025年9月20日(土)13:00-19:00(予定)
■会場:豪徳寺イシス館 本楼(https://es.isis.ne.jp/access/)
■費用:4,400円(税込)
■申込締切:2025年9月12日(金)
■申込先:https://shop.eel.co.jp/products/es_kanmom89
イシス編集学校 [守]チーム
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コメント
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