主客逆転の大事件であった。
「セイゴオ校長が福岡に来て九天をもてなす!? 」そんな一報が組長の中野由紀昌に届いたのは1月中旬。これまで九天玄氣組は発足会、講演会、トークイベントなどを自主的に企画してゲストに松岡校長を招き、そのもてなしに心血を注いできたけれど、なにやら今回は違うらしい。松岡校長が九天玄氣組にお礼をしたいというのである!
これは困った。お礼をするのは常だけど、お礼をされることには免疫がない。どうしたものか、中野組長は電話やメールで組員に連絡をする。「ま、ま、松岡校長が、ふ、ふ、福岡に来て、きゅ、きゅ、九天にお礼をしたいと連絡がぁ…」
14年間欠かさず贈り続けている松岡校長への特製年賀作品に対するお礼なのだという。年賀を贈ったあと、毎回はがきや手紙でお礼状は組長のもとに届いていた。九天にとってはそれだけで十分であったのだが、受け取る側にしてみると、そうはいかないらしい。
夢野久作や花田清輝などの書籍に囲まれた箱崎水族館喫茶室を貸し切った。
それから一ヶ月後、松岡校長は本当に福岡にやってきた。筥崎宮にほど近い「箱崎水族館喫茶室」には、北九州、福岡、佐賀、大分、熊本、鹿児島、島根から組員の約半数22人が集まった。
松岡校長、松岡事務所の和泉さん、西村さん、編工研の小森さんが到着。拍手が起こる。席には箱崎の老舗店から取り寄せた極上弁当が並んでいる。なんとお昼ご飯まで用意されたのだ。組員のお尻は浮いている。ソワソワした空気の中、松岡校長はこう切り出した。
「毎年、素晴らしい年賀を贈ってくれるのに、どうお礼を伝えればいいかわからなくて、本っ当に悩んできたんだよ。今日は14年分を一気に返す!」
松岡校長は色紙の束を取り出した。集まった組員たちをイメージした書画を一人一人に用意していたのだ。校長直筆の色紙は編集学校では師範しかもらえない代物だ。
年賀を精緻なクラフト作品に仕立てる内倉須磨子には「聖冽」、門倉正美にはその名を遊んで「カドクラシックマサミロヴィッチ」、園田隆克には少年時代のエピソードから「おまけのたーちゃん」、コーヒー屋を営む品川未貴には「珈琲」に名前を組み込んだ造字、熊本の伝統薬を守り続ける吉田麻子には「藥」、島原出身の飛永卓哉には「雲仙る」、実直な天然トークで場を盛り上げる九天の巫女・三苫麻里には「巫」、石井梨香には少女時代の思い出から「かりんとう」、お茶に人生をかける上原美奈子には「茶の葉」の書画。中野組長にはシンボルのひょうたんをあしらった金の色紙二枚組だ。贈呈式はさながら感門之盟のようである。
「気に入らなかったらエンボス加工してください」(to 内倉須磨子)
「カドクラシックマサミロヴィッチ。いいでしょこれ」(to 門倉正美)
「泉の字をにじませて泉ちゃんらしさを出してみたよ」(to 後藤 泉)
その場でさらに一筆足した色紙もある(右から三苫麻里、永渕尚子、石井梨香、吉田麻子)
九天玄氣組は師範や師範代経験のない組員もいるので、年賀でしか名前を知らない人もいる。会ったこともない組員をどうイメージすればいいのか。あまりにも材料が少なすぎる。けれども松岡校長は過去の年賀バックナンバーを参考にイメージのエンジンをふかした。学林局の田中晶子花伝所長にも組員情報を聞き出したという。その数、24枚に及ぶ。多忙な日々の中での書画制作で「死ぬかと思った」と呟く松岡校長だが、どんなことにも手を抜かない姿勢に組員は痺れるばかり。これはもう倍返しである。
想像の域をはるかに越える返礼に涙目になっている中野組長、次第に肩のあたりが重たくなっていく。「このお礼をどう返せばいいのか」と不安がよぎる。松岡校長はとっさに「お礼はしなくていい!エンドレスになるから(笑)」
色紙贈呈の大トリは中野組長。瓢箪のそばには九つの星が並ぶ!
松岡校長に初笑いをーー。その気持ちひとつで仕立ててきた九天年賀。「これまで勝手気ままに贈ってきたけれど、受け取る校長の気持ちを心底痛感。校長の義理人情の厚さはもちろん、尋常ならざる“侠”すら感じました」と組長はふりかえる。
かくして松岡校長と密閉・密集・密接なひとときを結んだ九天玄氣組。新型コロナが猛威をふるう前のできごとであるからこそ、思い返すほどにかけがえのない一日となった。秋には2021年の年賀企画がスタートする。どんな年賀に仕立てるか組員もドキドキ、松岡校長もヒヤヒヤ!?である。
九天玄氣組の“玄氣”の源である松岡正剛校長を囲んで。
(撮影:小森康仁)
中野由紀昌
編集的先達:石牟礼道子。侠気と九州愛あふれる九天玄氣組組長。組員の信頼は厚く、イシスで最も活気ある支所をつくった。個人事務所として黒ひょうたんがシンボルの「瓢箪座」を設立し、九州遊学を続ける。
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