百万石の鈍感力 金沢エディットツアーにて

2021/04/22(木)08:00
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尾山神社

 神社にステンドグラスがある。金沢は浮気性だ。金沢の人びとは列をつくってバスを待たない。法規より風習が優先される。
 なぜ、金沢は伝統的なものに新しいものを取り入れるのか。あるいは、規則をつくっても旧習を崩さないのはなぜか。よそ者の言葉が、金沢の謎の本質をえぐった。

 「鈍感だからではないですか?」 

 2021年4月4日、エディットツアー『かくれた金沢』が開催された。編集ワークの内容は、これまであまり語られていない“金沢らしさ”を探すことだ。参加者の大半は、東京、愛知、岡山、香川、と県外からであった。旅行ガイド本には載らない金沢の日常的風景から、“金沢らしさ”を掘り起こしていく。

 “金沢らしさ”のステレオタイプといえば、城下町の風情があり、和の趣をもち、美術工芸が盛んな町、というものだ。その背後には、金沢独自のカラーマネジメントがある。たとえば、主に加賀友禅や九谷焼に代表される5色の伝統色「加賀五彩」。加賀五彩は、海や山に囲まれた豊かな自然と恵み、曇りがかった北陸特有の気候、加賀百万石の武家文化を映し出す。しっとりと落ち着いた色調を映えさせるための「白」の使い方にも妥協しない。金沢は色で「らしさ」を飾りつけ、雅な世界を築いてきた。

 よそ者の注意のカーソルは、“雅”というステレオタイプをよそに、金沢にひそむ鈍感さを突いた。
 中川は知っている。鈍感と指摘されても、金沢は余裕綽々なのだ。加賀百万石の末孫はあくまで、武家の精神性や技芸の文化のなかに自分の存在の質を求める。しかし、それもまた「金沢の鈍感力」という見方を裏付ける。金沢を深掘りするエディットツアーは、余計なところに行きついてしまった。

(写真提供:金沢市)

  • 中川将志

    編集的先達:デヴィッド・ボウイ。地域おこしと教育に情熱を燃やす、金沢のスターマン。サッカーで鍛えた脚力と小技を編集に生かす。愛嬌とマイペースと逃げ足の速さでは、他の追随を許さない。

コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025