編集かあさん家では、松岡正剛千夜千冊エディションの新刊を、大人と子どもで「読前」している。
蚊とコウモリ
長女(8)は蚊が大嫌いだ。「世の中から蚊がいなくなればいいのに。蚊なんて必要ない」と言いだした。長男(13)が「蚊はコウモリの餌になってるかもしれない」というと、「コウモリには生きててほしい。そう考えると無くなっていいものなんてないのかな」。
夏休みだから、ゆっくり考える。
駅前の本屋さんで新しい千夜千冊エディション『資本主義問題』を買う。長男(13)は、心待ちにしていた星空写真家KAGAYAさんの『Starry Nights』を受け取る。「重い。大きい。10年間の集大成らしい」。わくわくしながら帰る。
夜、落ち着いてから、『資本主義問題』を出した。表紙、よく見ると古いお札、聖徳太子だというと「とっくに気がついてたけど」。最近の口癖だと思いながらも、なぜ知ってるのか尋ねてみる。
「少し前に偽札事件があって、今でも聖徳太子まで使えるってニュースで見たから」。
予想外の答えにおどろきつつ、今度の字紋はなんでしょうとクイズを出してみると「円かな」。惜しい。「じゃあ、万?」
最近、読める漢字がぐっと増えた長女も吸い寄せられるようにやってくる。
答えは「金(きん)です」と答えながら、おカネっていう意味かもしれないけどと付け足す。金。一年生で習う漢字だが、なぜ2つの読み方があるのか長女にもわかるように言葉にするのは簡単じゃないと思う。
それホントに要る?
口絵を開く。
「本物の一万円札だ」。子どもたち、少し色めきたつ。
「なぜ、おりられないのか」と帯にある。
長男が「資本主義やめたら民主主義じゃなくなりそう。ちょっと怖い」という。13歳のシソーラスでも、資本主義と民主主義がつながっている。
「社会主義とか共産主義とかになると物資が不足しそう。強制収容所とか秘密警察を連想してしまう」。なるほど。このところ、NHKの『映像の世紀』を集中的に見ているのが連想に表れているのか。
前口上と追伸と目次を読んで、一番最後の『アンチ資本主義宣言』に飛ぶ。民主主義を保ったまま資本主義をなんとかする方法がいくつも検討されてるよ、相当の難問だけど。まずはそれだけ伝える。
次の日のお昼、マクドナルドに行く。長女がポテトを食べながら、「世の中から無くしていいもの思いついた。広告じゃないかな」と話し始めた。どうして? 「だって、CMって広告でしょう。テレビを見ている時に急にCMが入ると集中できない。パソコンでも。広告見ておもちゃが欲しいなって言っても、それホントに要る?っておかあさんに言われるし」
言葉は、置かれている「地」によってはかなり疑ってかからなきゃいけない。特に広告は半分無視するぐらいにならないと。そんなふうに教えるのは10歳を過ぎてからにしたいけれど、小学校2年生から1人1台のパソコンを使った学習が始める今、そうも言ってられなくなってきた。資本主義は容赦がない。しかも、それは子どもたちが望んだものというわけではないのだ。
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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