本に呑まれて珈琲を読む EDIT COFFEE-後編

2021/10/02(土)18:00
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本に上巻があれば下巻があるように、EDIT COFFEE前編に続く後編、ご準備しました。
前編はON TIMEをタイトにブーツストラップする3人に登場いただいたが、後編は<iGen7>や<7人7冊>にちなんで「7」にこだわってみたもの。仕込みに時間をかけている間に、こんなニュースも飛び込んできた。

 

世界各国 3,000近くのコーヒー農園を知る José. 川島良彰氏が2008年に設立した株式会社ミカフェートのオンラインサイトで、EDIT COFFEEが販売になった、というものだ。ドリップバッグとしては驚異的なテイスト、ニュースになるにふさわしい。

 

というわけで、後編ではOFF TIMEの華麗なお供にコーヒーを愛し、本と愉しむ3組をご紹介。

 

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●case 1: 野住智恵子さんのテイストは<ET4 変幻自在な味>+<ET9 バサラな味>

 

 

選んだのは野住さんだが、コーヒーを嗜んでいるのはご近所の西村慧さん。14離を共に駆け抜けた二人がシェアするのは、ET4【脳と心とメディア】がもたらす「デコボコ・ジグザク・インアウト 変幻自在な味」。

 

 選んだ本を珈琲で分けるか、珈琲で本を分けるかべきかと迷いながら、先に珈琲を選んだ。ミステリーに登場しそうな謎めいた味は、何だか迷路に入り込んだよう。厳選した珈琲豆を編集した大人の深み。この珈琲に似合う本は、ズバリ松岡正剛『編集手本』(EDITHON)。我らがイシス編集学校校長の直筆原稿が一冊の本になっている優れものだ。

 珈琲を読んで、『編集手本』を飲む。夕日が眩しい、大人の贅沢な午後のひとときもいいものである。

 

「おもてなしにお出ししても、お土産に持って帰っていただいても、エディット・コーヒーなら、一パッケージの中の『一袋』でも、喜んでもらえます」と贈答コミュニケーションに早速活用している野住さんだが、お客様が帰った夜更けの「おかわり」にはET9【個性で勝負する】そのものの「型破りで奇想天外 バサラな味」を所望した。

 

 口の中で絶妙に溶け合う珈琲と葡萄。意外だった。葡萄で思い出すのは、映画にもなったスタインベック『怒りの葡萄』(新潮社)

 1930年代のアメリカ。開墾による砂嵐は多くの農民を苦しめた。耕作不能となったオクラホマの土地を追われ、流民となったトム・ジョードと一族は、カリフォルニアを目指す……。

 彼らの苛酷な人生を思って胸が詰まり、思わず珈琲を口に含むと、冷めた珈琲は酸味が尖って、まるでワインのような味わいに変化していった。

 

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●case 2: オペラ歌手大音絵莉さんの句読点は<ET4 変幻自在な味>

 

オペラ歌手への偏見は案外深い。彼女も結婚直前にお相手から「フランス料理しか食べないんでは?」と怯えられた経験がある。しかしオペラ歌手だって、サンマも食べれば、コーヒーも飲む。フランスの娼婦も演じれば、シンデレラの意地悪な姉も、懐かしの映画音楽だって歌うのだ(写真:及川音楽事務所提供)。

 

 

どのブレンドもドリップパックとは思えないほど「攻めてくる」味で驚きました。コーヒーは日常でも非日常でも大切なピリオド。「ここ一番」や「もう一丁」というときの一杯は格別で、ミステリアスな変幻自在の味わいに魅了されます。

 

そんな彼女には、珈琲と本に合いそうな音楽を紹介してもらった。ズバリJ.S.バッハ『コーヒーカンタータ』である。

 

 

「一千回のキスより甘く、マスカット・ワインよりもっとソフト」とコーヒーに夢中な娘と、それをたしなめる父親のやり取りをコミカルに描いた世俗カンタータ。書かれたのは18世紀前半。「女性はコーヒーを飲むべきでない」という当時の世相を生かした楽しい歌曲です。ルター派生え抜きのバッハとしては、口福の欲は乗り越えるものだったはずなのに、遺産リストには5つのコーヒーポットと多数のカップが含まれていたそう。

 

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●case 3: 5人のBSEが集ったら、珈琲も本も百花繚乱

 

 

秋の1日、伝説の松丸本舗(2009-2012)ブックショップエディターの5人(左から森山智子、池澤祐子、小川玲子、川田淳子、大音美弥子)が世田谷郊外の某所に集った。手にしているのは、それぞれのオススメのEDIT COFEEに間違いない。な、なんと、庭にはコーヒーの花も咲く。

 

 

わたしは「秘めごとの味」を前編で紹介しちゃいました。諸先輩方はいかが?

わたしはET2【世界歴史文化集】の「ココントーザイ万国博覧 歴史をうごかす味」。偏西風に吹かれて東西に分かれた人類の祖先たちも、こんなお花や果実の香りに浮き立っていったのかも。
コーヒーをストレートで飲むのは1年ぶり。舞台人が選ぶET4【脳と心とメディア】の「デコボコ・ジグザク・インアウト 変幻自在な味」に1票追加。カフェオレにしたら、ピアフも飲んだかしら。
ET3【むつかしい本たち】「世界を深読みする 超思考の味」とET5【日本の正体】「にほんのきほん 一途で多様な味」、二つ選んでしまいました。それぞれに香ばしく、hereからthereへさらわれそうな味です。
サッショー好みはET1【記憶の森へ】「彼方への旅 失われた時をめぐる味」。酸味と甘み、苦味のバランスがとれ、ノスタルジックに深〜い思いが広がります。


 

コーヒーのお供に選んできた三冊セットは、女性作家2冊+本にちなむ本の組み合わせだ。

 

∽デイヴィッド・トリッグ『書物のある風景 美術で辿る本と人との物語』創元社

書物のある風景を描いた世界の名画をあつめた本。本の中の本ほどイマジネーションをくすぐるもの、他にありますか! って。


∽『精選女性随筆集 9 須賀敦子』文藝春秋

渇いた心に潤いをくれる須賀さんのエッセイ(選者は川上弘美さん)は、迷ったり佇んだり、途方にくれることの大切さを思い出させてくれるんだなぁ、これが。


∽『精選女性随筆集 12 石井好子 沢村貞子』文藝春秋

石井さんは日本シャンソン界の草分け。パリ仕込みのファッションもお料理も、くすんだ日常に華やぎをもたらしてくれる。左翼演劇運動に関わった過去を持つ沢村さんは、ドラマの味をピリッと決める、なくてはならない名脇役。どちらの面もマダムとコーヒーの共通点。

 

で、今回も世田谷某所の写真撮影に奮闘してくれたのは、この人(木藤良沢)。

元BSEの皆さんのおしゃべりも、本の撮影も、たっぷり楽しみました。もちろんカラフルなコーヒーのテイスティングも。私のオススメは…考え中です。

 

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10月早々には、EDIT COFFEEの3種のパッケージをちょっと風変わりなギフトボックスにいれて発売予定とのこと。

また11月初旬に1周年を迎える角川武蔵野ミュージアムでは、ミュージアムスタッフと百間とでとっておきの試飲会などを計画中だとか。
お楽しみに!

  • 大音美弥子

    編集的先達:パティ・スミス 「千夜千冊エディション」の校正から書店での棚づくり、読書会やワークショップまで、本シリーズの川上から川下までを一挙にになう千夜千冊エディション研究家。かつては伝説の書店「松丸本舗」の名物ブックショップエディター。読書の匠として松岡正剛から「冊匠」と呼ばれ、イシス編集学校の読書講座「多読ジム」を牽引する。遊刊エディストでは、ほぼ日刊のブックガイド「読めば、MIYAKO」、お悩み事に本で答える「千悩千冊」など連載中。