ISIS 20周年師範代リレー [第39期 内海太陽 スーツと袴と作業着と ビジネスと古武道の求道者

2021/10/30(土)17:45
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2000年に産声をあげたネットの学校[イシス編集学校]は、2020年6月に20周年を迎えた。第45期の師範代までを、1期ずつ数珠つなぎにしながら、20年のクロニクルを紹介する。

 

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松岡正剛は語った、「21世紀は、主題ではなく、方法の時代である」と。内海太陽の言い方を借りれば「世界はコンテンツとプロセスのふたつに分けられる」
プロセス・ベース教室の名を背負い、39[守]師範代に登板した内海は抱負をこう語った。「本当に価値あるコンテンツを生み出すために、世界の半分であるプロセスにアプローチしてみたい」

 

内海は、兵庫姫路で水処理プラントの設計製造会社を営む経営者だ。百戦錬磨、バリバリに磨き抜かれたビジネスマンという出で立ちの内海は、26[花]入伝式でも際立っていた。パッとメモを取り、サッとコンパイルをしてみせる。その機敏な動きは人目をひいた。しかし、イシスでの歩みが順調なわけではなかった。

2006年に15[守]で入門。その後、10年以上イシスを離れる。36[破]で思い立ったように復帰。そのブランクについて内海は「本当に追求したかったことに気づくための、ながめの道草」と説明する。

 

真のターゲットに向けて、じっと時を待つ。そして機がやってくれば、即座に迎えにいく。内海の趣味は合気道。11年の「せぬ隙」を経て師範代を務めあげると、持ち前のロジカルな思考力に加え、アナロジカルな3Aも開花。世界の半分にアプローチするという抱負を鮮やかに体現してみせたのだ。内海が袴姿で感門表を手渡したのは、2017年夏。前年の天皇陛下の「お言葉」を受け、6月、退位を実現する特例法が成立。平成の終わりが見えてくるころだった。

 

43[破]合氣プロセス教室の師範代を終えたあとも、内海は稽古を続ける。稽古とは「古」そのものに学び、そのプロセスを習熟すること。自身に課したのは「日本を知る」というお題だった。秋田から小豆島まで全国に出張する内海は、作業着をまとって現場に立つも鞄には『正法眼蔵』を忍ばせる。出張のあいまに古神道の勉強会に通い、神社や八百万の神々を学んだ。内海は「イシスは『あらわるる世界』に強く、古神道は『かくるる世』に鋭い。さらにその根本原理には、量子力学と生命科学が潜んでいるはず」と睨み、『擬』や『日本という方法』を二度三度読み返しているという。

 

自身の稽古に打ち込むいっぽう、フットワークも軽く、関係性を大事にするのも内海の真骨頂。頼もしくはずみがあると評判の内海は、共読ナビゲーターを務めたほか、43[守]では近畿大学の受講生をサポートする「近大番」に抜擢。その縁で、師範山根尚子とのエディットツアーにも初参画。点と点をつなぐように、人との関係をむすび、その過程を慈しんできた。
その所以を問うと、「今までずっと自分に必死だったぶん、他者にゆだね、他力を信じるようになったんです」と高僧のようにはにかんだ。

◎師範代メッセージ◎


 

>あのときメッセージ>

国が忖度映えな中、東北番匠組の声で39守が放たれた。わかるとかわるに転がりながら、方来の師範代と学衆一座の玉響稽古がひぃふぅみん。七夕短冊は「共鳴のジャズ 耳元の声 手を引くTシャツ 駆け寄る浴衣」38題むすぶQ→Eが学衆ファーストで棚引いた。 

 

>これからメッセージ>

あいだの連打で次の日本の型になる。負ラジャイルないきほひを「変」から「天」へ。 

 

プロセス・ベース教室 内海太陽  


 

●あの日!あの時!千夜千冊!●

◎未然の曼荼羅が、引き出しのなかにある
1639夜 戸井田道三『戸井田道三の本 こころ・かたち・みぶり・まなざし』

…2017年5月23日

◯千と千尋の神隠しは、なぜアメリカでヒットしたのか
1643夜 アン・アリスン『菊とポケモン』
…2017年7月07日

◯本当の「自己」とは何をあらわすのか?
1645夜 宮元啓一『インド哲学 七つの難問』

…2017年7月28日

Designed by 穂積晴明

 

 

  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
    イシス編集学校メルマガ「編集ウメ子」配信中。

コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025