「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。
初めて山へ行く
年末、ウラジロ採りをする義父について山へいった。ウラジロはシダの一種で、このあたりでは正月飾りのあらゆる場所に使う。長女(8)も一緒だ。これまではなんとなく遠慮していたが、行ったことのある長男が妹も経験したほうがいいというので背中を押された。
夫の実家から軽トラで5分ほど行ったところで下り、なだらかな農道を歩いていく。大きなため池の土手をのぼり、柵の鍵を開けて山に入る。山といっても、かつて日常的に使われていた里山で、松茸もたくさん生えていたという。
笹が背丈を超えるほど伸びている。まばらだが、かきわけながら進まなければならない。倒木もある。「前はこんなに生えていなかったけど、鹿の数が減ったんかな」と、腰からさげた鎌で倒木を払いながら義父が言う。
落ち葉が厚く積もって、すべりやすい。マンション育ちの長女は大丈夫だろうかと思ったが転ぶこともなく器用についていく。
倒木を越えていく
ウラジロが生えている場所
落ちないように気をつけながら、ため池の端を歩いていく。
笹がとぎれて、少し開けた場所に出た。池を離れる。ぬかるみがある。少し上の方で水が湧いているらしく、小さな川になりかけている。
小川ができかけている
十数分歩いて、毎年ウラジロをとっている場所までたどり着いた。
「さあ、形のいいのをとってくれるか」。
葉は対のまま採る。よく見ると、どちらかの先端が少し枯れていたり、ちぎれていたりする。なにかの動物がかじっているのだろうか。
小さいのでも大丈夫という言葉に、気が楽になった。
はさみは使わず、指でポキリと折るのがコツだ。さぐりさぐり、一つずつ折り取っていった。
元の世界
山は静かではない。木立や竹やぶがずっとザアザア鳴っている。風はさえぎられて、思ったほど寒さを感じない。
ここのウラジロがだんだん減ってきてるような気がするから、もう少し奥のほうを見てくるといって義父が姿を消す。万が一はぐれてしまったら帰り道はわからない。頼りない気持ちを外には出さず、長女とウラジロを採り、ひもにかけていく。
ひもにかけて運ぶ
「1枚、2枚、3枚……」。15枚集まった。「元の世界に戻りたいな」。長女が急に言った。ここが「あの世」めいて感じられたのだろうか。
「よかった、おじいちゃん戻ってきた」。手に4、5枚の大きな葉を手にしている義父の姿が見えた。
「おかげさんで早く済んだ。榊もとって帰ろか」と義父が背丈ほどの榊の木を小さなのこぎりで手早く切り倒し、枝をはらって、ひもでくくる。
それを見ていると、アメリカの児童小説のワンシーンを思い出した。クリスマスシーズンのはじまり、お父さんと子どもたちが森へもみの木を伐りに行く。クリスマスツリーと正月飾り、いずれも本来は、山の力を里に持ってくる行事であったというアブダクションが動いた。同時にそれは森を定点観測するというはたらきもあったかもしれない。
お節・お雑煮・正月飾り
帰り道、もっと奥でコメを作っていたという話を聞いて驚いた。昔は水があればどんな場所でもコメを作った。コメとサツマイモしか作っていなくて生活は苦しかったけど農繁期以外は暇だったという。
夫の実家に戻って、五升のもち米を蒸し、鏡餅とお雑煮に入れる餅を作った。
鏡餅はマンション用にも作ってもらった。大晦日、このウラジロは昨日おじいちゃんと山にとりに行ったものだよ、裏の白いところを見せて飾るんだよと教えながら一緒に飾った。
夜、歳時記を見ていて「歯朶狩る」が仲冬の季語だと知る。
お節、お雑煮、正月飾り。今の世では難しくなりつつあるが、生活から離れつつある今、「遊び」にするチャンスでもあるだろう。
毎年「同じお正月」だからこそ、子どもの育ちや世の変化が見えてくるということ、山や植物のことを少しずつ教わりながら、ゆっくり方法化してみたい。
<編集かあさん家の本棚>
『シダの扉』盛口満/八坂書房
『連句・俳句季語事典 十七季』東明雅、丹下博之、佛渕健悟/三省堂
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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