”発酵文化は、21世紀日本の大いなる主題のひとつだろう。かつて「アメリカがシリコン・バレーなら、日本はエンザイム・バレーをこそつくるべきだ」と言ったことがある。エンザイム(enzyme)とは酵素のことだ。”
千夜千冊1687夜『日本の伝統 発酵の科学』では、あまたの微生物が躍動する21世紀の発酵学への期待が説かれた。
EELでは「ルーツエディティング ROOTs Editing」というサービスを展開している。企業や大学や地域がもつ1次情報を調査分析し、クライアントと一緒に、組織のもつ「らしさ」を編みなおして言語化・構造化する。
編集プロセスにおいて、組織の状況分析をし、結論の根拠をモレなく明快に提示するロジカルシンキングが活躍するのは一部である。むしろ、アナロジカルシンキングという想像の翼をハタハタと連奏させる。[守]の型を複層的に活用した調査情報群から「編集八段錦」で”筋”の良い組織の物語を仮説し、社会とのあいだに佇む、組織の本来と将来を捉えなおす”意外な”問いを設計をする。鍵と鍵穴を用意し、別様を暗示する。それらをレポートする。時には、映像や冊子や書棚空間といったメディアに乗りかえをおこし、理念浸透や共読イベントといった場づくりへ発展する。周年や上場を控えるクライアントからの依頼が多い。
筋の良い物語や意外な問いを導くために、ルーツ(Roots)を編集する(Editing)という名のとおり、組織のらしさを分析する道程では、『情報の歴史』の5トラックさながら、組織に関係する前後左右の生命・歴史・文化情報をモーラする。さらに、以下の3つの「タイプ」に見当をつける。
①組織の「フェノタイプ」(組織のらしさ、企業文化や価値観にあたるキーワードやキーフレーズの系)②業界市場の「アーキタイプ」(百貨店やテーマパークなど、組織が立脚する、もしくは跨がる市場業界の発生・来歴・展開)③グローカルな「ナレッジタイプ」(関連地域に育まれた価値観と経済文化の歴史を、日本や世界のそれらと比較)。ここまでくると、組織の歴史的現在が朧げに立ち上がってくる。「バックミラー越しに来し方をみて、前に進んでいく(松岡さん)」状態までくる。
このように組織のらしさに「見当」をつけるプロセスが重要になる。そこにはもっともらしさとめずらしさを同時に挿入する。
京都のある歴史ある団体のルーツを探っている。どうやら、その団体はまるで「悉皆屋」のように多様なプロをプロデュースして京都のものづくりを牽引してきたが、「発酵」する糠床状態を保ち続けているようだ。無数の微生物が同じ場所に集まり、そこにある「情報とエネルギー」を交換するうちに、素材がより香り高く、味も良く、栄養も多いものになり、その場所自体も活性化していくことがおこっている。攪拌と継ぎ足しの新陳代謝がそれを支える。
発酵バタークッキーを食べながら(新人アシスタントの富田が品川駅エキュートで厳選)、主要メンバーとのセッションはおおいに盛りあがった。アナロジカルな問いかけが進んだ。具体的に何が我々における攪拌か?組織を腐らせる毒は?京都という都は単なる情報の集積地を超えた相互作用の土壌があるのではないか?「ええかっこしい」の我々だからいい塩梅の相互作用ができる?
組織の存在理由やありたい姿が問われている。
[編工研界隈の動向を届ける橋本参丞のEEL便]
//つづく//
橋本英人
函館の漁師の子どもとは思えない甘いマスクの持ち主。師範代時代の教室名「天然ドリーム」は橋本のタフな天然さとチャーミングな鈍感力を象徴している。編集工学研究所主任研究員。イシス編集学校参丞。
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