「破」はただの学校ではない。
「破」の方法にこそ、
編集を世界に開く力が秘められている。
そう信じてやまない破評匠ふたりが、
教室のウチとソトのあいだで
社会を「破」に、「破」を社会につなぐ編集の秘蔵輯綴。
4か月にわたり、さまざまな文章を書く鍛錬を続けてきた49破も残り10日しかない。学衆たちはここまでに培った力を総動員して、「プランニング編集術」という破の奥座敷に坐すカリキュラムに挑んでいる。テーマは「ハイパーミュージアム構想」。しかし、ハイパーとはいったいどういうことなのか。そこが悩みどころである。
評匠Nも、いつも悩む。ミュージアムに足を運んで、悩む。
いかにも東京ならではの、淡青の空が晴れ晴れと広がった1月2日、評匠Nは上野の東京国立博物館にいた。長谷川等伯の松林図屏風を観に行ったのだ。
素晴らしい画である。当たり前だ。ん?だが、それは本当に見ているのだろうか?私はほんとうに素晴らしいと思っているのだろうか。松林図屏風に限らず、美術館や博物館に行くといつも、このあまのじゃくな問いに悩まされる。
ネットでは、松林図屏風にこういう解説が載っている。
・等伯の代表作で近世水墨画の傑作である。
・画面全体に霧が立ちこめ、左隻の松林は右端の雪山まで奥深く続き、右隻では向かい合った林がたがいに傾いて地面の起伏を暗示する。
・ひんやりとした霧の中を歩いていると黒い影が現れ、松林に囲まれていて、かすかに山の頂が望まれる。
・一瞬の体験を永遠にとどめたような、静まり返った光景は、わびの境地ともいえる世界である。
・等伯が私淑した中国・南宋時代の画僧牧谿の、自然に忠実たろうとする思想と水墨技法が、日本で到達し得た希有の例である。(「e国宝」サイトの解説より抜粋)
格調高い解説だ。何度かこの画を見てきたし、等伯にまつわる本も読んだから、教養あるいは知識としてこの内容はよくよくわかっている。実物を見て、それを確認して悦に入るスノビズムも正直に告白すればないわけではない。
しかし、それではまるで松林図屏風を観たのではなく、自分の知識を確かめただけではないだろうか?あるいは解説を書いてくれた学芸員の知識を確認しただけではないか?だが、ミュージアムとはそんなことのためにあるのではないはずだ。この既成名作概念にとらわれずに、ほんとうに、自由に見ることは、楽しむことはできないのだろうか。そのためには何をすればいいのだろうか。
読者のなかにも、美術館や博物館で、そういう迷宮に入り込んだ人もいるはずだ。自分が好きで、いや「数寄」で選んだものこそ、既成概念にとらわれずに自由に楽しむことができるかどうか。そのためのルーティーンを持っている人も多いだろう。
このことは名作名画に限らない。たとえば「コップ」というものに、私たちは既成概念を持っている。だが編集稽古によってその既成概念を脱して、多様な可能性を示唆しうることは学ぶことができる。「たわし」でもできる。「扇子」でもできる。「鉛筆」でもできるだろう。既成概念を脱することには名作もたわしも関係ない。
さて、「プランニング編集術」のお題は、ハイパーミュージアムをプランすることである。立場は観客の反対側だが、ぜひ、そのようなあまのじゃくな悩みを抱えた観客が自由に楽しめる、既成概念を離れてモノを見ることができるミュージアムを考えるのだ。
クライアントのニーズに応えるだけのプランはつまらない、と「プランニング編集術」では指南が飛ぶ。だが、どんなニーズに応えるべきかを敢えていうならば、既成名作概念、既成モノ概念を脱したいと願っている来館者の、自由に、ほんとうに、心ゆくまで見たいと思っているニーズだ。これはビジネスの尺度だけでは測れない。その高度なニーズに応えられるか。結果は突破日に、そして3月18日・19日の感門之盟「P1グランプリ」で決まる。
中村羯磨
編集的先達:司馬遼太郎。破師範、評匠として、ハイパープランニングのお題改編に尽力。その博学と編集知、現場と組織双方のマネジメント経験を活かし、講
座のディレクションも手がける。学生時代は芝居に熱中、50代は手習のピアノに夢中。
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