多読ジムSeason12の多読コラボ 春秋社×多読ジムの「春秋社賞」を発表します。
これまで多読コラボでは「それチン賞」(太田出版)、「工作舎賞」を表彰してまいりました。『それはただの先輩のチンコ』(通称それチン)の著者・阿部洋一さん選出の「それチン賞」は石黒好美さんが、編集者・田辺澄江さん選出の「工作舎賞」は佐藤健太郎がそれぞれ受賞しました。
https://edist.isis.ne.jp/dust/sorechin_interview01/
https://edist.isis.ne.jp/guest/tadoku_sumietanabe_interview/
そしてコラボ第三弾となる「春秋社賞」は誰が手にするのか。賞品は文明史の名著かつ、500ページ超の大著、ジャン・ファヴィエの『金と香辛料』です。
今回、エントリーしたメンバーは大沼友紀、畑本ヒロノブ、佐藤健太郎、佐藤裕子、山口イズミの五名。このほかにもたくさんの挑戦者がいましたが、課題本を読み切り、三冊筋を書ききり、エントリーの狭き門を見事突破できたのはこの五名のみでした。
五名全員が多読コラボの常連で、誰がアワードを手にしてもおかしくありません。もし、佐藤健太郎が受賞すれば、「工作舎賞」に続き、ダブル受賞となります。さて、結果はいかに。
それにしても春秋社さんの至れり尽くせりなおもてなしには驚くばかりです。なんとエントリー作品のすべてに講評をつけてくれただけでなく、課題本の著者と翻訳者ご本人に講評を依頼してくれたのでした。
つまり、山本ひろ子『摩多羅神』を選択した三冊筋は山本ひろ子さんご本人が、マーク・エヴァン・ボンズ(著) 堀朋平・西田紘子(訳)『ベートーヴェン症候群』は堀朋平さんが講評してくださいました。エントリーメンバーはサプライズ講評に歓喜せずにはいられないでしょう。
ちなみにイシス編集学校の『インタースコア 共読する方法の学校』の版元も春秋社さんです。編集学校愛に溢れています。
それでは講評と春秋社賞を発表します。
「★」のマークの付いている方が「春秋社賞」受賞者です。
◆摩多羅王はミョウガの夢をみるか?(大沼友紀)
◉評者 山本ひろ子
茗荷を”Japanese ginger”と訳すのだと知って、摩多羅神の魔力は消えたような、増幅したような…。「茗荷を食べると物忘れする」という俗信。これは「ポジティブに捉えると「隙間をつくって飽きる」ことだという。ふ~む、「飽きる力」なのか。私はよく人から忘れっぽいと言われる。正確に言えば、そもそも「憶えない」から、「忘れる」のではない。ところでAIに、「憶えません」ということがあるのだろうか。
https://edist.isis.ne.jp/cast/tadoku_shunjusha_oonuma/
◆示す因果の先の推論と詭詐(畑本ヒロノブ)
◉評者 山本ひろ子
因果応報を制御する力として、いや「その因果の糸を操作し」、ペテン師たちと対峙するのが摩多羅神という。「ふるまいの本尊」たる摩多羅神の本性が、AI知能専横のこの社会に敵対と破邪を可能にさせる。次の一手を繰り出すべく摩多羅神は、今、「長考」に入っているのだろうか。
https://edist.isis.ne.jp/cast/tadoku_shunjusha_hatamoto/
◆「分かりにくさ」の壁を乗り越えて(佐藤健太郎)
◉評者 堀朋平
「視力によるフツウの美術鑑賞」がいかに偏っているか。それを白鳥さんが教えてくれたように、「音楽にヒトの心を重ねる鑑賞」も、いっそ宇宙人の目から眺めてみたいですね。そうすれば私のヘンな聴き方を「面白がれるようになる」(伊藤亜紗『記憶する体』)日もくるでしょうか。正解なき「超多点」の解釈たちがひらく「宇宙」へ。小見出しがぶっ飛んでて素敵。「動くことへの戸惑い」だけは含蓄をつかみ切れませんでした。動く惑星の観測者よ、動きすぎるな!みたいなニュアンスでしょうか?
https://edist.isis.ne.jp/cast/tadoku_shunjusha_satoken/
★ありうらやコスモロジー(佐藤裕子)
◉評者 山本ひろ子
「ありやの浄土」は「憂国の響きをも含んでいる」の発言に喝采。中世の信仰世界を一筆書きで素描したとみるや、戦後折口信夫の作詩の一節に言い及ぶ着想のなんと遊撃的なことよ。歌や芸能の力を本性と見抜く人がいればこそ、摩多羅神は復活を夢想するのだ。
https://edist.isis.ne.jp/cast/tadoku_shunjusha_satoyuko/
◆大衆よ、数寄に聴き世界と交われ(山口イズミ)
◉評者 堀朋平
ベートーヴェンから佐村河内守まで、アクロバットに風呂敷を広げたようでいながら、じつは本書のスコープは禁欲的。触れられなかった「身体」の問題、なかでも西洋近代の身体性の縮図である「ピアノ」は、やはり読者が引き寄せられるポイントなのでしょう。鍵盤を叩くサルトルから「実存主義」が、ニーチェに「生命力」が、バルトに「悦楽」が聞こえてくるとしたら、かなりベートーヴェン症候群的かも。零度の演奏なんていうものも、何処かにあるのでしょうかね。
https://edist.isis.ne.jp/cast/tadoku_shunjusha_izumin/
ご覧の通り、「春秋社賞」の受賞者は「ありうらやコスモロジー」の佐藤裕子さんに決定いたしました。
講評に「喝采」「着想のなんと遊撃的なこと」と、山本ひろ子が大絶賛している通り、見事な三冊筋を書き上げてくれました。佐藤裕子さん、おめでとうございます!
さて、山本ひろ子さんは松岡正剛校長の千夜千冊1087夜 『異神』でも取り上げられいます。多読ジム代将・金宗代も偏愛する大遊学者で、山本さんの『異神』と『中世神話』(岩波新書)をもとにエディストに、編集的 “異神” 像 「あんごすてんのう」から「GOZ」へという三冊筋を書きました。
山本ひろ子ワールドを未体験の方はこの機会に山本さんの著作をぜひ手にとってみてください。底知れぬ異神の世界を覗いてみてください。
堀朋平さんは現在は国立音楽大学非常勤講師、住友生命いずみホール音楽アドバイザーを務めており、音楽のプロフェッショナルでありながら、東京大学大学院を修了した文学博士でもあります。
著書に『〈フランツ・シューベルト〉の誕生―喪失と再生のオデュッセイ』(法政大学出版局、2016)、共著に『バッハ キーワード事典』(春秋社、2012)、訳書に『フランツ・シューベルト──あるリアリストの音楽的肖像』(アルテスパブリッシング、2017)などがあり、近著は2023年2月末に『わが友、シューベルト』(アルテスパブリッシング)が発売されたばかり。
これはただの評伝でありません。目次には「グノーシス」「プラトン」「ディアーナ」「ライプニッツ」の文字が踊ります。千夜千冊ファンの方は目次を読めば、一目惚れするはずです。伊藤亜紗さんも絶賛の一冊です。ぜひチェックしてみてください。
あらためまして、春秋社編集部の皆様、山本ひろ子さん、堀朋平さん、ご協力ありがとうございました。
次回のコラボアワードはおしゃべり病理医であり、多読ジムのボードメンバーでもある小倉加奈子析匠の「MEdit Lab賞」です。どうぞお楽しみに。
https://edist.isis.ne.jp/guest/tadoku_meditlab/
Info
◉多読ジム season14・春◉絶賛募集集中!
∈START
2023年4月10日〜6月25日
※申込締切日は2022年4月3日
∈MENU
<1>エディション読み:『サブカルズ』
<2>ブッククエスト :デヴィッド・ボウイの30冊
<3>三冊筋プレス :歌う3冊
★多読コラボ:青林工藝舎
∈URL
https://es.isis.ne.jp/gym
∈DESIGN the eye-catching image
山内貴暉
金 宗 代 QUIM JONG DAE
編集的先達:水木しげる
最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
photo: yukari goto
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