編集かあさん家の千夜千冊『心とトラウマ』

2020/03/03(火)10:42
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 夫が本屋さんに出かけるというので、出たばかりの千夜千冊エディション『心とトラウマ』を買ってきてもらった。

 長男(12)がさっそく「今回の写真どうなってる?」
 口絵ページを一緒に開いてみる。
「今回は校長が鏡に映ってるのか。……え、あれ?」
 なにか違和感を感じたらしい。
「もしかしてそっくりさん?」
 お、見破ったね。物まねっていうよりアートなんだけどねと種明かしする。

『心とトラウマ』口絵


「これって、顔は同じでも他人だったらその人の心はわからないってことを意味してるのかな」
 ふむふむ。この人は森村泰昌さんっていって校長とは長い付き合いの人。
 似せるときには、見た目だけではなく仕草を写すことに相当のエネルギーを使ったらしいよ。ヒゲにも時間がかかったそうけど。
「すごく似てるけど、限界はあるとおもう。シワが少ないよ。校長より10歳以上若いんじゃないかな。だから10年前の校長を真似したらよかったと思う。または10年後に今の校長の真似をするか」
 なるほど。それだと背中合わせに立つことはむずかしくなるな。

「ところで、なんで表紙が椅子なの?」
 キーになる千夜に『椅子がこわい』っていう本があって、たぶんそれからの連想だと思う。
 目次に目を走らせた長男、「心についた傷!」とつぶやいて、私に返す。

 今度、4人で手分けして響読すること、第四章担当になったことを話す。
「千夜千冊を要約って、なんかおもしろい」と笑う。
「だって、そもそも千夜千冊が要約なんだよね。もとの本が砂糖だとしたら、千夜千冊は飴とかザラメ? それから綿菓子を作る感じなのかな」。
 そうそう、このままだとなかなか「食べない」から、4人で4本の綿菓子にするって感じかな。
 我が家の長男、自分なりに喩えることが理解するために必須なのである。

 別人も背中あはひの春ぬるむ(玄月)

 さあ、読むぞ。


 

千夜千冊エディション『心とトラウマ』(角川ソフィア文庫)

  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025