2020ETS編集聖火ポスト06 対話で創発するアジアン・未来カフェ(福岡)

2020/03/11(水)09:31
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 巨大な仏に見守られながら、講座はスタートした。2020年、2月23日のエディットツアースペシャル福岡。ナビゲーターは、仏もかくやの柔和な笑みを湛えた石井梨香師範だ。

 

 

 会場は福岡アジア美術館内のアートカフェだ。九州有数の歓楽街中洲と、川端商店街を見渡すビルの7階にある。冒頭の、仏様が微笑む壁いっぱいの絵画は、ミュージアムの展示品なのである。

 

 「様々なお客様がいらっしゃるので、メニューも多彩にしました。ちょうど百貨店のように」と、「アジ美店のらしさ」を紹介してくれたのは、アートカフェ店長の品川未貴師範代だ。

 

 そんな場所柄を反映してか、13名の参加者も多彩な顔触れである。年代、性別、職業、居住地もバラバラで長崎や東京からの参加者もあった。

 

 

 まずは自分の「らしさ」をお菓子に見立てて紹介する「お菓子なわたし」から、ワークがスタートする。職業などの属性ではなく、「見立て」によるユニークな自己紹介に、だんだんと場がほどけていく。この日はなぜか「あんこ」に自分を見立てる人が多かった。なんだろう。商店街名物・川端ぜんざい(激甘い)の念が飛んできたのだろうか。

 

 次はポストイット編集術。まずはこの半年間に買ったものを、ポストイットに書きだしていく。それを、「価格順」「気に入っている順」「100年後の福岡に残したいもの」と次々と軸を取り換えて、並べ替えていく。これは、なんといってもスピードがいのち。加速するドライブ感覚が、連想を引きずり出していく。

 

 「はーい、時間です。できましたか?」と石井が促す。柔和な顔して、決めるところはビシッと決める人だ。

 

 「うわー、お気に入りでは上位の物が全部下の方に来ちゃった」軸を換えるごとに、ダイナミックに変化する情報の姿に、驚きの声があがっていた。

 

 

 さて、この日のメインは、グループワークによるプランニング編集術である。プランニングするのは、「100年後のアジ美にあってほしいカフェ」

 さきほど書きだしたポストイットから要素を2つ選び、それに本を一冊加えて、三位一体の型を使ってプランニングしていく。参加者はグループに分かれ、カフェにある本を一冊選んで話し合いを始めた。

 

 「この本のどこを取ろうかな・・」

 「100年後って宗教とかあるかな・・・」

 「意外な物を組み合わせたほうが面白いんじゃ・・・」

 「アジアっぽさは意識する?・・」

 

 白熱する対話。見知らぬ者同士の相互編集のアイダで、未来のアジアン・カフェのプランがみるみる立ち上がっていく。時間内になんとか着地させて、さあ発表!

 

 各チームがプランニングしたカフェは以下のラインナップ

 

 ・チームA 「時がないカフェ」

  選択本『ゆっくり、いそげ カフェからはじめる人を手段化しない経済』

  景山知明 大和書房

 ・チームB 「タイムトラベルカフェ」

  選択本『よるのねこ』ダーロフ・イプカー/光吉夏弥訳 大日本図書

 ・チームC 「アイディアが集うカフェ」

  選択本『緑の抒情』安次嶺金正展

 ・チームD 「お守りカフェ」

  選択本『みち であい』アジア太平洋博覧会 テーマ館展示図録

 

 どこも、本の「らしさ」をしっかり取り出して、プランに組み込んでいる。日常超越的な内容が多いのは、現在の不足がバネになったのだろうか。

 

 

 チームCの発表者はこう説明してくれた。

 「アイディアが集うカフェは、オーガニックと集いがテーマです。ここでは原料から商品までそろいます。そして、たくさんのアイディアが集まってきます。そこは、知らない人同士が知り合えるロマンティックな場所です」

 

 聞きながら、そのドリームカフェは100年後と言わず、今ここで、すでに生起しつつあるもののように思えた。グループ内での対話に、参加者同士のアイダに、それはもう芽生えつつあるのではないか。

 

 グループワークを終えて、石井が『知の編集術』の冒頭を読み上げた。

 「編集は遊びから生まれる/編集は対話から生まれる/編集は不足から生まれる」

 参加者たちは、大きく頷いた。

 

 最後に、中野由紀昌組長が、九州支所「九天玄氣組」と千夜千冊エディションの紹介をする。そのなかで、こんなことを言った。

 「型があるから、発想が生まれる。型があるから、自由になれる。型の力です」

 さらに大きな納得の頷きが、返ってきた。

 

 

 ワークのあとは、希望者とスタッフで小さなお茶会。品川が焙煎したコーヒーで、フル回転した頭と身体をリフレッシュした。

 

 さあ、皆さま。

 再会はぜひ、エディットカフェ(編集学校ラウンジ)にてお待ちしています!

 

written by 三苫麻里

 

  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。

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コメント

1~3件/3件

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025