私はたまたま10月31日の生まれなのだが、「ハロウィンと同じ日なんだよね」と言っても、昔は誰にも通じなかった。
通じるようになったのは90年代に入ってからだったろうか。ゼロ年代に入る頃には本格的に日本的行事に発展していった。
思えば1982年に封切られたスピルバーグの大ヒット映画「E.T.」にハロウィンのシーンが出てきたとき、大部分の日本人は何をやっているのかわからなかった。キテレツな仮装で街をぞろぞろ歩いている姿を怪訝そうに眺めていたことを思うと隔世の感がある。
一方、クリスマスは古くから日本に定着していた風俗だった。何の映画だったか忘れたが、戦前の日本映画を見ていたら、クリスマスに浮かれ騒ぐ街のシーンが出てきて、「今とまったく変わらないじゃないか」と驚いた覚えがある。
日本では最初っからクリスマスは陽気なお祭り騒ぎだった。「日本人はキリストの聖なる降誕祭を何か勘違いしているのではないか」などと憤慨するのも、いまさら野暮な話だと思う。
そもそも歴史的に実在したイエスの誕生日がいつだったかなど誰にもわからない。ヨーロッパ地方に古くからあった冬至の祭祀がキリストの生誕祭と習合したのだろうというのが大方の見方である。
どのみちお祭りなんだから、せいぜい騒げばよいだろう。
日本人全体の中でキリスト教徒の占める割合は1パーセントに満たない(世界的にも極端に低いことで知られる)ので、この日に礼拝に行く人などほとんどいないと思う。
ところが、私の実家は、何の因果か、代々つづくキリスト教の家系だった。
当然、子どもの頃は家族総出で礼拝に引っ張り出された。まあクリスマスに限らず、この礼拝というヤツは子どもには退屈極まりない代物で、たびたび強制される膝立ちの姿勢なんてしんどくてイヤだった。(お寺の正座よりはマシか?)
それでも人並みにクリスマスのお祝いはした。クリスマスケーキを食べ、夜には靴下をぶら下げた。翌朝、枕元に置かれたプレゼントを開けるのは無上の喜びだった。
当然、サンタクロースの正体が両親であることは早くから察知していたが、そんなことをわざわざ言挙げするのも興ざめであることは子供心に承知していたので、素直に楽しんでいた。あれはいつまでやっていたのだろう。幼少の弟妹がいたので、けっこう後々までやっていたような気もする。
今でもあの頃を思い出すと多幸感に包まれる。極めて洗練された日本的行事の一つだと思う。
(了)
※トップ画像は冬野さほ「Cloudy Wednesday」より。
「ジングルベル」の好きな女の子の話。冬野さんは子どもの泣き顔を描くのが上手い。
高野文子によるリメイクもあります。
ーーーーー
遊刊エディスト新企画 リレーコラム「遊姿綴箋」とは?
ーーーーー
堀江純一
編集的先達:永井均。十離で典離を受賞。近大DONDENでは、徹底した網羅力を活かし、Legendトピアを担当した。かつてマンガ家を目指していたこともある経歴の持主。画力を活かした輪読座の図象では周囲を瞠目させている。
山田風太郎『人間臨終図巻』をふと手に取ってみる。 「八十歳で死んだ人々」のところを覗いてみると、釈迦、プラトン、世阿弥にカント・・・と、なかなかに強力なラインナップである。 ついに、この並びの末尾にあの人が列聖される […]
文章が書けなかった私◢◤[遊姿綴箋] リレーコラム:堀江純一
デジタルネイティブの対義語をネットで検索してみると、「デジタルイミグラント」とか言うらしい。なるほど現地人(ネイティブ)に対する、移民(イミグラント)というわけか。 私は、学生時代から就職してしばらくするまで、ネット […]
桜――あまりにもベタな美しさ◢◤[遊姿綴箋] リレーコラム:堀江純一
今回のお題は「桜」である。 そこで、まず考えたのは、例によって「マンガに出てくる桜って、なんかなかったっけ」だった。(毎回、ネタには苦労しているのだ) しかし、真っ先に浮かんでくるのは、マンガよりも、むしろ映画やア […]
【追悼】鳥山明先生「マンガのスコア」増補版・画力スカウター無限大!
突然の訃報に驚きを禁じ得ません。 この方がマンガ界に及ぼした影響の大きさについては、どれだけ強調してもしすぎることはないでしょう。 七十年代末に突如として、これまでの日本マンガには全く見られなかった超絶的な画力とセンスで […]
今月のお題は「彼岸」である。 うっ…「彼岸」なのか…。 ハッキリ言って苦手分野である。そもそも彼岸なんてあるのだろうか。 「死ねば死にきり。自然は水際立っている。」(高村光太郎) という感覚の方が私にはしっくりく […]