「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。
桃の節句が近づくと、長女(6)がそわそわし始める。雛飾りを出すのが楽しみなのである。
箱を開ける。台を組み立てる。赤い毛氈を敷く。道具類を並べる。
丸餅は高坏に。菱餅は菱形の台に。橘は向かって左に、桜は右に。
「菱餅の台の模様を表にしなきゃ」。カタログと見比べて気づき、直す。
三人官女と男雛、女雛。白い覆いを静かにのける。一年ぶりの「十二単のお姫様」の姿に目が輝くが、今年は、喜びの後に少しぷりぷりした様子で「どうしてうちには五人囃子がいないの? 右大臣、左大臣も。絵本や歌には出てくるのに」と詰め寄ってきた。
本やカタログと見比べての気づき、まさに「編集は照合である」。
注意のカーソルと「ないもの」フィルターが育っている(!)と喜びつつ、我が家には飾るスペースが十分にないから三段飾りが精いっぱいだと説得する。
左近の桜を指して「桃の花だよね」と言う。ただすと、「どうして歌では桃の花なのに、これは桜なの?」と「しつもん」が返ってきた。
お雛様の段飾りは宮中を模していること、内裏の前には桜と橘を植えるのが習わしになっていることを伝えてみる。よく、わからないという表情である。千年ぐらい前の「みかど」、今の言葉で言うと天皇とそのお妃の住まいだと言葉を足してみる。
さらに簡単に言うと、昔の日本の様子だよと伝えると、質問は別の方向にむかった。
「じゃあ、どうしてお雛様はピンクっぽい着物で、お内裏様は黒っぽいの? それに、お雛様は五枚ぐらい重ねてるのに、お内裏様は一枚なの?」
これはミメロギアの第一歩だなと思いながら考える。なかなか難しい質問である。
昔は位や場所によって服の形や色についてルールが決まっていたというところから説明してみる。
男の人は黒や紫などの地味な色、女の人は華やかで豪華な着物を身に着けるという習慣がいつの間にか生まれた。一部はお隣の国から伝わったのかもしれない。ともかくこの国で「それ、いいね」と定着した。
ここから先は人類史の森に入ってしまう領域である。
長女の感想は、「わたし、女の子でよかった。ぜったい、きれいな色のほうが着たいもん」という。
そうだよねと応じつつも、ひっかかるところもある。今はそのルールもだんだんゆるくなってきて、女の人でも黒を着たりするのはもちろん、ズボンでもスカートでもOKになってるねと付け加える。
アワセ、カサネ、キソイ、ソロイ。「型」の美意識が子どもの感性を育んできた。
古くは流しびななど、撫物による祓の意味合いが強かった雛遊びは、江戸末期から明治以降、人形飾りとしての美しさを競うようになった。そのあり方もまた変化しつつある。長女が大人になるころには、どんな「遊び方」が花開いているのだろうか。
〇〇編集かあさん振り返り
「男雛(お内裏様)と女雛(お雛様)」を筆頭に、「右近の橘と左近の桜」、「右大臣と左大臣」「丸餅と菱餅」といった【対】の型。
三人官女の持ち物は、「銚子、島台、長柄」。雛道具の「御駕籠(おかご)、重箱、御所車」という【三位一体】の型。
雛飾りには編集の型がいくつもひそんでいます。
長男(12)、雪洞の箱を開けながら「去年はこれが『ぼんぼり』って読めなかったなあ」とつぶやく。この日は、終始控えめにふるまっていました。
〇〇遊んだ本
『もりのひなまつり』 こいでやすこ 作/福音館書店
箱の中にいるはずのお雛様たちが、ねずみのこどもたちによばれて森へ。思わぬ大冒険ののち帰還する物語です。
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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