52[守]の第2回番ボーが終わった。それぞれの日常を抱え、年末年始を跨ぐ10日間に及ぶ推敲ラリー。教室模様を振り返り、もっとできたんじゃないか。もし、こうしていれば。ああしていれば。いろんな思いが、ぼんやりと眺めるパソコン越しに浮かび上がる。ふと鳥の気配を感じ、窓の外に目をやると、いつもはかけないメガネ越しに石垣の隙間を這うピパーチが熟していた。
緑の蔦と葉の間に4cmほど立ち上がったオレンジ色のビタミンカラーが美しい。目からの栄養をもらい、少しだけ心に余裕の火が灯る。
オレンジ色、ビタミンといえば、人参だ。人参といえば「にんじんしりしり」…。貧弱な連想だが、昼時なので仕方がない。さっき冷蔵庫の人参と目があったばかりだった(あれ? だから熟したピパーチが目に入ったのかな?)。よし、今日のお昼は「にんじんしりしり」にしよう。番ボー後の日常はさらに忙しくなるし、数日分の副菜として多めに作くって置くのもいい。ついこの間、【027番:ダンドリ・ダントツ】を出題したことだし、編集稽古でもしてみるか。師範代だって日々の稽古で編集筋を鍛えているのだ。調理の手順は、028番で出題されるので、「家族4人の3日分の副菜作りの段取り」とする。
家族4人の3日分の副菜作りの段取り(にんじんしりしり編)
【手続きの概略(大きな流れ)】
1)フライパン、包丁、まな板、ピューラー、シリシリ器(大きな付き穴のおろし金)、菜箸を目視で確認する。【AND/OR】一箇所に集めておく。
2)冷蔵庫から人参2本(大)を取り出し、ピューラーで皮を剥いたら、包丁で人参の上下の気になるところをチョンチョンとカットする。(野菜クズは小さな袋に入れておく)
3)フライパンの上でシリシリする。
4)1本半ほどシリシリしたところでフライパンに火をつけ(だいたいいつも「あ、油忘れた」と気づき、サラダ油をフライパンのヘリに回し入れる)、残りの人参をシリシリし、しんなりするまで菜箸で炒める。
5)フライパンに沿って2周ほどの水を注ぎ、鰹節を4パック入れ、少し煮る。(ん、これは人によって注ぐ水の量が変わるなぁ) 【AND/OR】180mlを測って準備しておく。【IF/THEN】鰹出汁を事前に準備できれば、水ではなく鰹だしにする。
6)塩で味付けをし、水分がなくなってきたら、冷蔵庫から卵2つを取り出し割り入れる。【IF/THEN】味が薄いと感じたら、お好みで醤油を入れてもいい。ウチは入れない。
7)菜箸で混ぜ混ぜし、水分がなくなったら火を止める。
8)温かいうちに冷蔵庫保存用の野田琺瑯へ移し、粗熱が取れるまでテーブルでステイさせる。
9)フライパンはまだ熱いうちに水とスポンジで洗い、コンロの上で乾かす。
10)菜箸、ピューラー、しりしり器、包丁、まな板を洗い、コンロ周辺に散らかった人参やキッチン台の上のゴミを集め、野菜くずを入れた袋をゴミ箱へ入れたら、台を綺麗に拭く。
11)粗熱が取れた頃、にんじんしりしりの入った野田琺瑯を冷蔵庫に入れる。と、思ったらビックリ!!【AND/OR】ガチマヤー(食いしん坊)な長女に食い散らかされて、がっかりする。数日分の副菜作りならず…。
【自分なりの工夫、コツ、こだわり】
・3)の段取りは、洗い物を増やしたくないので、シリシリはボウルの中ではやらない。そうすると、フライパンの的を外れて、コンロの上に散乱するのが難点。【IF/THEN】もし洗い物が気にならなければ、大きめのボウルの中で、事前にシリシリしておく。
【振り返り】
子ども達が大きくなり今までのような量で作り置きの副菜を作ろうとしても、1日で食べきられてしまったり、今回のように長女の過剰な味見で、自分の思い通りにいかないことがあるのだと気づいた。今回は、量の設定と粗熱取りの場所が無防備だったことが原因として挙げられるので、ダンドリは更新されなければならない。
ダントツなダンドリがあったとしても、その過程で【IF/THEN】と【AND/OR】が幾層にも絡まりあっているのだろう。
ハッ、もう一度お題をみた。
「オーダー」とは、ただ情報が並んでいるのではなく、こうしたプログラムをも含む、いわばひとつのしくみ(system)なのです。
ダントツなダンドリには、すでに【IF/THEN】と【AND/OR】が仕組まれているのだ。
師範代には、イントラクション・マニュアルが手渡される。教室オープンからクローズまでの手順や手続きが示されたものだ。ダンドリであり、基本的なルル三条であり、ISIS編集学校の世界定めと言ってもいい。
しかし、文字通りに進めても師範代にはなれないし、全ての教室が同じように順風満帆に進むわけでもない。手順や手続きは機械的に再現されていくのではなく、それを見えるようにしていくのは、血の通った生身の人間だからだ。だからこそ、エラーが起こり、不足や不測や不速が付属する。師範代が教室運営として準備してきたダンドリの【IF/THEN】も【AND/OR】も効を奏しない場合がある。これこそ、生きている証。予定調和に執り行われない、不調和さえも編集することで、ダンドリは更新されていくのだ。
静かに奮闘する白墨ZPD教室の息吹は、土の中の人参だ。どんなにおいしい人参も、地中にあっては見えないままだ。掘り起こし、泥を洗い流し、調理(編集)されてこそ、輝きを放つ。白Zなみなさんがどんな人参なのか、それをどんなふうに編集するのか、私はみたい。
さあ、掘り起こす時がきた。しりしりでもいい、人参ジュースでもいい、ピパーツ入のキャロットケーキでもいい。私は共に編集したい。
●アイキャッチ/石垣を這うピパーチ
コショウ科のつる植物で和名は「ヒハツモドキ」という。石垣島では八重山そばにかけるお馴染みのソウルスパイス。ピパーツ、ヒハツ、ピパーチと呼び名は様々。熟した実を乾燥させ、粉砕させて作る。独特な香りが特徴的。柔らかい葉っぱは、刻んでジューシー(沖縄風炊き込みご飯)に入れることもある。
大濱朋子
編集的先達:パウル・クレー。ゴッホに憧れ南の沖縄へ。特別支援学校、工業高校、小中併置校など5つの異校種を渡り歩いた石垣島の美術教師。ZOOMでは、いつも車の中か黒板の前で現れる。離島の風が似合う白墨&鉛筆アーティスト。
52[守]師範代として、師範代登板記『石垣の狭間から』を連載していた大濱朋子。今夏16[離]を終え、あらためて石垣島というトポスが抱える歴史や風土、住まいや生活、祭祀や芸能、日常や社会の出来事を、編集的視点で、“石垣の隙 […]
虹だ。よく見ると二重の虹だった。見ようと思えば、虹は何重にもなっているのかもしれない。そんなことを思っていると、ふいに虹の袂へ行きたくなった。そこで開かれる市庭が見たい。 そこでは、“編集の贈り物”が交わされていると […]
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公立中学校に勤める私は、人の子供の教育ばかりで、自分の子供は寝顔しか見ていない毎日に、嫌気がさしていた。ただ、ただ、消費されるだけの自分の命を俯瞰しながら、いつからこん風になってしまったのだろうと問うていた。そんな折に […]