イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
イシス編集学校ではポリロール――複数の役割を同時進行するのが当たり前とはいえ、師範代登板と会社起業とを同時にやってのけたのは、この男だけではないか。
イシス修了生によるエッセイ「ISIS wave」。今回は、54[守]たまむしメガネ連教室師範代、松田秀作さんの「覚悟」と「気づき」をお送りします。
■■師範代×起業
会社の起業と[守]師範代の登板。2024年、ふたつの挑戦が同時に始まった。当初、両方を並行して踏み切ることは無謀に思えた。わたしにとってはいずれも未知の世界。ただ、どちらも今を逃してしまえば、その後の人生に引っ掛かりを残してしまうと感じたのだ。
広告業界で15年、人財・組織のコンサルタントとして5年働いてきたが、ここ数年はずっと独立のタイミングをうかがっていた。やりたいことを真っ直ぐやるためには、徐々に会社の枠組みが枷になってきた。
4人の仲間が集まり、2024年初旬に起業する計画を練った。人と組織のあり方を変えたいという想いは同じとはいえ、ともに会社を起こすとなれば、軸となるコンセプトとそれを一瞬で伝える社名やコピーが欲しい。仮にも自分は編集稽古を重ねてきた身。学んできた「型」を活かす時だった。シソーラスを広げ、地を動かし、図を結び、間に表れる関係を探りながら、ビビッとくる言葉が降りてくるのを待っていた。
ちょうどその頃、[花伝所]での稽古が佳境を迎えていた。教室から道場へ。[花伝所]は、[守][破]とはガラリとモードが変わる。足りなさを突きつけられては這い上がる日々だった。
なぜそうまでして師範代を目指すのか。[守][破]の稽古は、お題にひたすら向き合う個人戦。型の理解と回答の質を追求し、研鑽を重ねてきたつもりだった。しかし、教室をつくることに対しては、なんら意識してこなかった。仮にも人と組織の変革を目指して起業しようというのに、教室という「場を編集する」ことを実践せずして、編集を語ることなんてできない。そう思ったのだ。
[花伝所]の最終課題は、『千夜千冊エディション 情報生命』を読み解き、図解すること。そこで目に止まったのが、「ゆらぎ」と「創発」だった。言葉が降りてきた感覚があった。
社名は「YURAGI DESIGN」に決まった。変化はゆらぎから始まる。今の”あたりまえ”にゆらぎを起こす。そのために、学びのあり方を変える。偶発性、不確実性を味方につける。そして、個の中で起きたゆらぎを相互に交わすことで、総和を超えた創発が起こる組織をデザインする。これを事業の軸に据えた。なんだ、編集学校でやっていることと同じじゃないか。
▲株式会社YURAGI DESIGNがめざすのは、今のあたりまえに“ゆらぎ”を起こし、新しい意味や価値を創発することだ。
2024年10月、54[守]が開講し師範代としてデビューした。自分は、学衆にゆらぎを起こす一滴を投じることができるだろうか。編集によって、ものの見方や考え方が変わったと感じてもらえるだろうか。指南文を何度も見直しながら、念じるように送信ボタンを押した。やがて稽古を重ねるにつれて、それは奢りかもしれないと気づいた。相手を動かそうと考えれば、言葉に力みが籠る。それは相手に伝わり、場が居着いてしまう。ここにはすでにお題がある。お題がゆらぎを起こし、場を方向づけてくれる。自分はそこに表れる反応を面白がって、掬い上げればいい。学衆たちは多様な個性を持ち寄り、相互に影響しあいながら場を創っていった。教室は勝手に育っていった。
こうして2025年が明け、2月9日に卒門を迎えた。会社は一期目を終え、比較的順調に軌道に乗せることができた。YURAGIのコンセプトは、まわりにすこぶる評判がいい。みんなどこかで今に息詰まりを感じ、それをゆるがせる「何か」を待っているのかもしれない。起業体験と師範代体験という2本の線が、絡みあいながらインタースコアしたからこそ、出会えた偶然や生まれた発見があった。来年は50歳を迎える。ここからまた、何本もの線がゆらぎながら先へと伸びていき、新しい結び目を創っていくだろう。
文・写真/松田秀作(50[守]みちのく吉里吉里教室、50[破]ダルマ・マントラ教室)
編集/大濱朋子、角山祥道
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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