外国語から日本語への「翻訳」もあれば、小説からマンガへの「翻案」もある。翻案とはこうやるのだ!というお手本のような作品が川勝徳重『瘦我慢の説』。
藤枝静男のマイナー小説を見事にマンガ化。オードリー・ヘプバーンみたいなヒロインがいい。
11月23日・24日に、東京・世田谷のイシス編集学校本楼で、多読アレゴリアの16のクラブによる”本のお祭り”「別典祭」が開催された。
よみかき探Qクラブの「駄菓子とゲームの遊房(あそぼう)」では、型抜きやカードゲームを各種取り揃えて、自由に遊べる空間を作った。
2日間、大人と子どもが入りまじり、遊び、笑う声がたえなかった。
運営チーム書民の一人である編集かあさん・松井路代が見出した「ワカル・カワル」を、メンバー美濃万里子さん作の五七五を章タイトルとしてレポートする。
キャッチコピー、イラスト、配置、すべて小2のKくんによる看板
お店番子どもスタッフシゴデキだ
1日目の運営チームには書民の子どもが加わっていた。小2の二人は、スタッフとしてやる気まんまんだった。
カードゲームのルールの説明や相手役、ルービックキューブの指南役、看板作成については、いきいきと務めてくれるだろうというのは予想していて、当日のロールとツールとルール(ルル三条)を決めていたのだが、それに止まらなかった。
駄菓子とゲーム、どちらもカラフル
ZINEの売り子や在庫の確認など、計画にはなかった役割だったが、「こういうこと、した方がいいんだよ」と教えられる。
在庫確認は、駄菓子の山を前に「いくつ売れたんだろう?」という問いが生まれたことがきっかけになっていた。
「並べて、掛け算したら早いんだ!」。小2は掛け算を習う学年なのだ。
一人が思いつくと、もう一人が触発されて、役割分担が生まれた。ロールとツールとルールの編集は即興的に起こるということを目の当たりにした。
2日目は書民の子どもスタッフは不在だったが、ZINEの移動販売などのロールは引き継ぎ、それによって売上が増えたのだった。
並べると計算しやすい
抜型は全部壊した破学匠
「型抜き」は、大人も子どもも夢中になれると書民の得原藍が太鼓判を押していた通り、賑わった。
ラムネで作られた薄い板から、爪楊枝を使って形を抜く。1セット5枚で200円。うまく抜ければ、駄菓子を2つ選べる。
形が違う5枚のうち、どれが抜きやすいかを見出すところから遊びが始まる。
イシス編集学校で学べる情報の「型」は目に見えないものだけれども、型抜き遊びの型のように、よく見て選び、壊れないように扱い、壊れた時は「どんなふうに」や「なぜ」を楽しむのがコツなのだ。クッキーの抜き型やゼリーの型など、小さい時に手で触る遊びをしていると、概念を使って情報を編集する時に、その経験が生きてくる。
日常の中にある遊びこそが編集の土台になるというクラブの思いと重なるコーナーだった。
駄菓子を前に、爪楊枝を動かしている時間は、大人が子どもに還る時間でもあった。
「どうしたらいい?」
初めてという大人に子どもスタッフがコツを話し、「結構固いよ」とアドバイスする。
「ああ、全部、割れちゃった」
いつも凛としている原田淳子[破]学匠の清々しい笑顔に、みんなつられてにっこりした。
型抜き、抜けて笑顔、抜けなくても笑顔
ぷよぷよの読み札カルタレアカード
「カンジモンスターズ」「いみとりかるた」「ワードスナイパー」「あいうえバトル」「かさねイロ」「ミツカルタ」「ボブジテン」「広辞苑かるた」。カードゲーム体験コーナーにはこれらの言葉で遊ぶものを中心に、数字を感じる「指感覚」、色を重ねて合わせる「かさねイロ」を置いていた。
果たして、年齢、性別、編集学校歴、まぜこぜで遊ぶ景色が実現した。
全て一般の玩具店やネットで購入できるもので、ここで気に入ったゲームを見つけたら家でも遊び続けてほしいというのが狙いだった。
触って数字を当てる「指感覚」。1から9まで、少しずつ紙の厚みが増していく
2日目、Medit Labのトークゲスト・ゲーム作家の米光一成さんが控え時間に来室された。
「いみとりかるた」の自作カード作りをお誘いすると、快く応じてくださった。
「言葉」が取り札、「意味」が読み札がセットになっているカルタで、自作カードは白紙になっていて、「好きな言葉」を書きこめるようになっている。米光さんの選んだ言葉は「ぷよぷよ」。読み札には「弾力性があり、柔らかいさま」と書き込まれた。
「そらあるき」「夢」「カーナビ」「探Q」「フェチ」「成長」「ごめん」「信念」「あそび」「ホテル」……たくさんの「好きな言葉」が集まった。
「いみとりかるた」、自作カード作り
米光さんの著作『人生が変わるゲームの作り方』『東京マッハ』を手に記念撮影
猫耳の帽子被ってZINEを売る
「よみかき」を経済文化とつなげ続けたいという願いを持っているので、昨今のZINEブームにのらない手はない。
イシスの九州支所メンバーである書民の石井梨香は20周年記念雑誌『九』を福岡からはるばる運んできた。
編集かあさんである松井路代は、これまでの連載を別典祭に合わせて本の形にし『編集かあさん 月日星々』にまとめた。
このほか美濃万里子さんと北條玲子さんが自作のZINEを販売した。
美濃さんは「ねこでこ書店」の屋号を持っている。猫耳としっぽのついた帽子の装いで、看板やショップカード、おまけのチロルチョコなど準備万端だった。
北條さんは、お母様手作りの吊るし雛と北條さんが作ったZINEをセットで並べた。
『編集かあさん月日星々』には書くのに5年、再編集に2ヶ月を要した。いくらにするか数日かけて考えて、2,000円の値段をつけた。2日間で27人の人が購入してくださった。
三毛猫ベレー帽の美濃さん
お祭りの熱気か湯気か雑煮食う
書民やメンバーはスタッフを務めながら交代で、ほんのれんラジオ公開収録や黒留袖ファッションショー、米光一成さんのトークイベントなどを楽しんだ。
1階のガレージでは、つきたての餅の入った野菜たっぷりのお雑煮やぜんざいのふるまいがあった。夕刻、書民みんなでいただいた。
普段は野菜を食べない子が、お雑煮を少しも残さず食べた。
若林牧子さんをはじめとするおもてなしチームによるお雑煮
型抜き屋さん、カードゲームマスター、ZINEの売り子、そして観客をくるくると着替えた。遊んでいる間は大人が子どもになり、子どもが大人にもなった。
祭は、普段の役割を脱いだり、入れ替わることができる時空間だ。
「アレゴリア」は一般的には<寓意>と訳されるが、原義をたどれば「(いつもとは)別の話し方をする」ことで、松岡正剛にとっては、何かを表現する時のモードの行方を握る「母なる方法」だった。
初めてのお祭りである別典祭では、他者と共に遊び、共に食べることで、役割がくるくると入れ替わり、「できない」が「できる」に転換する魔術的な相互作用(インタースコア)が起こっていた。
「あそび」とは?
「ひとりでやってもいいし、ともだちといっしょにやってもいいこと。」
スマホのセルフタイマー機能を使って撮った集合写真
文・写真:松井路代
写真協力:石井梨香
見出し:美濃万里子
information
*よみかき探Qクラブは、2026年冬シーズンはお休みし、4月よりリニューアルいたします。
3月にメンバー募集予定です。
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イドバタ瓦版組
「イシス子どもフィールド」のメディア部。「イドバタイムズ」でイシスの方法を発信する。内容は「エディッツの会」をはじめとした企画の広報及びレポート。ネーミングの由来は、フィールド内のイドバタ(井戸端)で企画が生まれるのを見た松岡正剛校長が「イドバタイジング」と命名したことによる。
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