マンガに限った話ではないが、「バカ」をめでる文化というものがある。
猪突猛進型の「バカ」が暴走するマンガといえば、この作品。市川マサ「バカビリーバー」。とにかく、あまりにもバカすぎて爽快。
https://yanmaga.jp/comics/
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
他の人はスルーしてしまうのに、なぜか自分だけが足を止めてまじまじと凝視してしまうものがないだろうか。そこには、数奇だけでなく編集的視線が隠れている。
イシス受講生が編集的日常を語る、エッセイシリーズ。第18回目は、フリーランスのデザイナー・中野渡有美さんの数奇語りです。
エレベーターのボタン。足かけ20年くらいその観察を続けている。いつしか撮りためたボタン写真を並べて眺めたいと思うようになり[エレボタ]という名のWebサイトにぽつぽつとアップしている。
大学生だった頃、とあるビルのエレベーターのボタンをなにげなく写真に収めた。同じ頃「考現学」というジャンルをつくった今和次郎を知る。昭和初期の銀座で歩く人々の服装を、履物、髪型、ヒゲの生やし方レベルまで観察した人だ。膨大な収集と分類を通して人と街の現在を見つめた活動に衝撃を受けた。編集のへの字も自覚しないまま、私もエレベーターのボタン写真の収集を続けた。
いざ集めて眺めたら気づいたことは多かった。
大抵のエレベーターホールには上下の行き先ボタンが設置されているが、その上下の表し方に3つのタイプがある。多いのは矢印や三角マークが入った、ボタンそのもので上下を表すタイプ。次にボタンの周囲で上と下を示すタイプ。そもそも上下表示がないタイプもある。3系統をさらに分岐させていくと信じられないほどの種類がある。色分けからコントラストへ、言語表示からピクトグラムへ。時代とともに「わかりやすい」の最適解が移り変わるのも感じられる。
▲集めたエレボタの数々。「わける」ことで考察が動き出す。
イシス編集学校ではお題に対する回答と指南を教室全員で共読する。回答に優劣はなく、時には自分ではとても思いつかないハッとさせられる回答にもたくさん出会うことができた。「これってどういうことだろう?」の引っかかりが共読の醍醐味。エレボタも一緒だなと思う。
訪日外国人向けの多言語案内と、段差に注意と書かれた点字パネルと、車いす利用者用のボタン案内でごちゃごちゃになった空港のエレベーターを思い出した。無表記のボタンだった。撮影した頃は「三角ボタンを使えばいいのに」と思っていたが、編集学校を経てねらいがわかった。掲示情報が多いので、その分ボタンをシンプルにして目立たせようとしたのだ。目が見える人に向けて地と図を反転させたのだと思った。
使う人を迷わせない機能性、空間との調和、メンテナンスのしやすさ、設置環境に合わせた耐用性など、あらゆる方面を考慮したエレボタのデザインは、私にとって他者の回答だ。それを、街の中で共読させてもらっている。エレボタ収集は共読活動だった。
結局、[破]の稽古途中で燃料切れしてしまい最後まで終えることはできなかった。編集の型を使いこなしているとはとても言えないが、それでも編集学校での時間は私のアンテナを少しだけ鋭敏にしてくれたように思う。
今日もエレベーターをまじまじと見る。内なる稽古はいまも続いている。
写真・文/中野渡有美(46[守]黄昏メビウス教室、46[破]ジャイアン対角線教室)
編集/吉居奈々、角山祥道
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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コメント
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2025-11-27
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2025-11-25
道ばた咲く小さな花に歩み寄り、顔を近づけてじっくり観察すると、そこにはたいてい、もっと小さな命がきらめいている。この真っ赤な小粒ちゃんたちは、カベアナタカラダニ。花粉を食べて暮らす平和なヴィランです。
2025-11-18
自ら編み上げた携帯巣の中で暮らすツマグロフトメイガの幼虫。時おり顔を覗かせてはコナラの葉を齧る。共に学び合う同志もなく、拠り所となる編み図もなく、己の排泄物のみを材料にして小さな虫の一生を紡いでいく。