56守で初登板される皆さまへキワメツキのサカイメ画像を。羽化が迫り、翅の模様が透けて見えてきたツマベニチョウのさなぎ。側面に並ぶ赤いハートマークが、学衆さんたちとの激しく暖かな交換を約束しております。
それはひょんな思いつきだった。小学生の息子の付き添いでけん玉大会に遠征するのなら、観客ではなく選手になってみたらどうか。辻志穂さんの思いつきは、辻さん自身を大きく動かしていく。
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。イシス編集学校修了生による書き下ろしエッセイ「ISIS wave」をお届けします。
■■私が世界大会に!?
この春、[破]の稽古と同じ頃にけん玉の練習が始まった。小学6年生の息子に、夏休みに廿日市市で開かれるけん玉の大会に参加したい、と言われたのが発端だった。去年に続いて2度目の参加になる。「今年もまた、東京から広島まで付き添いで行くのか。なんだか勿体ないなあ」と頭の中で算盤を弾きながら、ふと、ロールを変えて新しい経験にしてみようと思いつき、二人でエントリー。「応援者ロール」から「選手ロール」へのチェンジだ。大皿に玉を載せることもおぼつかなかった私が、夏に向けて10種の技のマスターを目指すことになった。
この「ウッドワンけん玉ワールドカップ廿日市」の大きな魅力は、競技けん玉世界一を決定する舞台でありながら、初心者でも参加可能という間口の広さだろう。2024年7月24日、25日に開催された第11回大会は、2才から87才まで、16の国と地域から、約950人が参加。けん玉のレベルを含め様々な属性の参加者が、一体となってけん玉を真剣に楽しむ、不思議で素敵な大会だ。全員が自分で選んだ10の技に挑戦する初日の予選と、上位40人の予選通過者の中から世界一を決める翌日のファイナルでは、雰囲気もガラッと変わる。
超・初心者ながらプレーヤーに衣替えしてみると、予想通り出場してこその緊張感、達成感、他のプレーヤーとの関わりが味わえて、昨年よりも一層楽しかった。さらに予想を超えて、ツールとルールについての解像度が上がり、日本の伝統工芸と海外のストリートスポーツを《一種合成》したかのようなけん玉の世界に、しみじみと面白さを感じた。そして、「付き添い」だった時は、無意識に我が子にロックオン状態だった《注意のカーソル》があちこちへ動き、「ファンを増やし、すそ野を広げる」と「世界最高を決める」という全く異なる次元を両立する大会の仕組みや設えが見えてきたのだ。ボランティアやスタッフは勿論、サウンドで盛り上げるDJ、プレーヤーへの愛とリスペクトに溢れるMCら大会を支える人々の数寄に、楽しいを通り越して感動してしまった。
こうして、憧れのトップ選手のプレーを興奮気味に反芻する息子と、ロールを変えることでこんなに体験の質が変わるのか、という驚きに浸る私は、二人して幸せなため息をつきながら「来てよかったね」と帰途についた。
実はもう一つ、想定をはるかに超えるおまけが付いてきた。
「師範代を経験してこそ、編集の型の意味が本当にわかる」
師範に言われたのか、師範代の言葉だったのか定かでないが、大会でのロールチェンジ体験の直後、突破(※[破]のコースを終えること)のタイミングとなった私の中で突如、この言葉が浮上し、深く深く身に染みたのだ。風が吹けば三味線、けん玉をしたら[花伝所]。あの時、ロールを着替えた面白さを体感したことから、思いもよらない秋を迎えることになってしまった。
▲辻さんの相棒(息子さんから借りた)。米製の「Kaizen(改善)」(右)で大会に出場した。
文・写真/辻志穂(50[守]釣果そうか!教室、52[破]ダイモーン維摩教室)
編集/大濱朋子、角山祥道
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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