震える足で、越えていく――西岡有美のISIS wave #61

2025/10/24(金)07:56 img
img CASTedit

この秋、イシス編集学校の基本コース[守]の師範代として登板する西岡有美さん(56[守]ピノキオ界隈教室)。西岡さんは、[守][破][花]の講座を渡る中で、イシス編集学校で大切にしていることと自分が好きなことの共通点に気づき、行く先を見つめます。

 

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
イシス修了生による好評エッセイ「ISIS wave」。61回目の今回は、アイキャッチも新たに、西岡さんの決意をお送りします。

 

■■サカイメの「わたし」

 

イシス編集学校は、境目を大切にしている。

サカイメ、あいだ、門、膜、縁側…あちらとこちらを分けているようで、繋げているような場所。

 

思えば、わたしはサカイメが好きだった。

山と空の稜線、山の家から町に下る時の深い霧のあいだ、おばあちゃんちの縁側。角川武蔵野ミュージアムの鋭いフォルムが快晴の青空を切る鋭線も。

 

▲たくさんの「サカイメ」。海と空、空と鳥居、鳥居と海、海と砂浜、鳥居の向こうとこっち……。

 

サカイメは、私の人生のワカレメでもあった。

車に轢かれ、無機質なアスファルトの道上で、拳を握りしめ待った死かその先の人生かの狭間。全身の力をふり絞り、わが子をこの世に産み出した瞬間。ああ、就職試験の日に、あの電車に乗るか乗らないかも、編集学校で幾度か対面した「申し込み」ボタンを押すあの静かな一瞬一瞬も、境目だったのだ。

 

境目を越える時、それは私の人生の向こう側が動き出す時でもあった。

 

しかし、越えられない境目もある。

私たち、53[守]入門生は、松岡校長の生と死の境目にあった。初めての感門を翌月に控えた昨年の8月から、永遠に抜け出すことはできないブラックホールの穴のような境目で、未だ身動きが取れずにいる。いや、待て。この大きな穴は、ともすれば、鍵穴なのか。鍵はどこだ。

 

そして、あの8月から14か月後の今日、わたしは新たな境目にいる。師範代認定され、56[守]登板前の、さなぎ状態の師範代。編集学校のあちら側とこちら側が、わたしを引き合う。未知に向かうそこはかとない恐怖に足が震える。

 

今こそ、思い出そう。サカイメが私を虜にし、人生に彩りを添えてきたことを。未だ見ぬ、向こう側の何かに出会いたいという一心で、性懲りもなく、わたしは、また、この境目を、震える足で、越えていく。

 

「ここ」と「むこう」を分ける境目は、編集八段錦の始まり「1.区別をする(distinction)‥‥情報単位の発生」です。西岡さんがこれから越える境目は、学衆との16週間の番稽古を通して、その動向が形を得ながら自己組織化を起こしていくのでしょう。松岡正剛校長は著書『フラジャイル』(ちくま学芸文庫)の中で、「境目が不思議な力を生み、その場所が格別の地(トポス)になっていった」と書いています。教室で起こる出来事の中に、西岡さんが探している鍵はあるのかもしれませんね。学衆と共に生き生きとした教室を築いていってください。

文・写真/西岡有美(53[守]風土いきいき教室、53[破] 触発ボタニカル教室)

編集/チーム渦(大濱朋子)


★未だ見ぬ何かに出会いたいなら――秋開講の[守]基本コース、残席わずか

第56期[守]基本コース

【稽古期間】2025年10月27日(月)~2026年2月15日(日)

申し込み・詳細はこちら(https://es.isis.ne.jp/course/syu)から。

  • エディストチーム渦edist-uzu

    編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。

  • 型をもって「難民」を語れば――田中志穂のISIS wave #60

    イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。 イシス修了生による好評エッセイ「ISIS wave」。今回は、55[守]山派レオモード教室の師範代を終えたばかりの田中志穂さんの登場 […]

  • 意味の世界を生き抜く方法――菅野隼人のISIS wave #59

    「それってなんなの?」。菅野隼人さんは常に「問い」を見つけ、「問い」を深めています。「問い」好きが高じて、「それ哲ラジオ」というポッドキャスト番組を始めてしまったほどです。 そんな菅野さんがイシス編集学校と出会いました。 […]

  • イシスの「指南」はあったかい――木島智子のISIS wave #58

    イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。 木島智子さんは、56[守]に初登板する師範代の卵だ。しかし自分が師範代になるなんて思ってもいなかったと振り返る。木島さんを変えたもの […]

  • 編集バックドロップ――板垣美玲のISIS wave #57

    イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。   [守]学衆・板垣美玲のプロレス好きは、回答からダダモレしていた。〈ことわざ〉を擬く稽古では「孫にドロップキック」。〈見 […]

  • 田中優子学長校話「私たちは稽古で何をしているのか」【88感門】

    校話はまるで、田中優子学長と一緒に「知恵の並木道」を歩いているかのようだった。  感門之盟のクライマックスは学長校話。「講話」ではなく「校話」とは、編集学校、つまり稽古の話だ。  [守][破][離][物語][花伝所]で […]