地域も祭りも「地と図」で編集――大倉秀千代のISIS wave #67

2025/12/09(火)08:07 img
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イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。

 

地域の中でリーダーとして長らく活躍してきた大倉秀千代さんは、一方で「このままのやり方を続けていていいのか」とモヤモヤしていたそうです。一念発起し、イシス編集学校の基本コース[守]、応用コース[破]で学んだ大倉さんは、ここで「今までと違うアプローチ」を手に入れます。その方法と結果は?

今回の「ISIS wave」(第67回)は、町内会のあり方を「編集」してしまった大倉さんの体験談をお送りします。 

 

■■町内会の対立を乗り越える

 

 私の暮らす町内会では、昨年度7年ぶりに「秋祭り」が復活した。ところが、今年度の事業計画を決める町内会総会の場で、祭りを続けるかどうかで議論となった。「開催派」が、「会員の親睦が大切」といえば、「消極派」は、「一部の人だけでやっている」と、町内会予算の使用に難色を示した。
 こうした「対立」は、身近なところでよくあることだ。新しいことを提案すると、「いちゃもん」にも聞こえるような反対意見を突きつけられるケースが多々ある。イシス編集学校に入門する前の私なら、適当に議論を切り上げ「多数決」で決めたり、やりたい人だけで実行委員会を作って進めていた。だが、このやり方だと、その場はしのげても、組織の中に「分断」をもたらし、根強く影響が続く。
 ところが、この時は違った。今改めて振り返ると、無意識に《地と図》の型を使っていたように思う。私は一歩引いて考えることができていた。
 「開催派」も「消極派」も、それぞれの重きを置いている《地》が違うのだ。背景の《地》が異なるから、見えている《図》も違う。だが議論している人たちには、この違いが見えていない。議論は平行線だ。
 《地》は、それぞれの町内会員が、それぞれの人生の中で身に付けてきたもので、すぐには変わらない。でも《図》(ここでは対処方法)では折り合いをつけられるのではないか。
 そこでまず、昨年度の祭り参加人数と町内会費をもとに予算化し、支出をより限定することにした。それと開催をセットにして、修正案として再提起した。「消極派」も開催に反対しているわけではないので、懸案の予算が見える化されたことで矛を収めた。いつもより議論に時間はかかったが、結果、満場一致で秋祭り開催が可決された。
 感情的に対立するのではなく、それぞれの《地》の違いを意識して、それぞれに折り合いのつく《図》(方法)を提起し、議論し決めていく。まさに「編集」だと思う。
 長年多様な地域組織で「リーダー」をやっていると、課題への対応が安易にパターン化し、周囲からも頼られるようになる。会はそれなりに運営できるものの、次の世代の人たちの積極的参加を阻害する恐れもあった。
 そこでまず、私自身が変わらなければと思っていたところに、たまたま新聞記事でイシス編集学校を知った。2024年の秋に基本コース[守]に入門し、今夏、応用コース[破]を終えた。
 編集稽古を通して世を見るといろんな発見がある。「柔軟な発想ができるようになった私」もまた、発見だった。

 来年74歳になるが、まだまだ学び続けていきたい。

「AかBか」を「A、B or C」にするのが編集の面白さであり、エディターの腕の見せどころでしょう。大倉さんは、地域の秋祭りをめぐる対立を「情報の二項対立」と読み替え、編集の型を使って見事に別様の可能性Cを作り出しました。本音では秋祭りをやりたいという皆の思いを大きな《地》として置いたり、懸案の予算を可視化するなど、用意周到な《ダンドリ》にも編集稽古の効果が感じられます。長年の経験から得た既知に拘泥せず、別様の可能性である未知を探しにいく大倉さんの挑戦はまだまだ続きます。

▲大倉さんはは、備前福岡・吉井川のほとりのうどん屋「備前福岡 一文字うどん」(岡山県瀬戸内市)の2代目会長でもある。

▲「備前福岡 一文字うどん」は、自家採種・自家栽培・自家石臼製粉というこだわりのうどん目当てに、他県からもファンが訪れる。中世鎌倉時代から伝わる郷土料理のばら寿司「どどめせ」(左下)も人気だ。

 


文・写真/大倉秀千代(54[守]展色ヴィンテージ教室、54[破]讃岐兄弟社教室)
編集/チーム渦(角山祥道、田中志穂)

  • エディストチーム渦edist-uzu

    編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。