発足以来、独自の企画を連打するなど活動が活発な九天玄氣組。九州在住者だけでなく、九州にゆかりのあるメンバーが在籍している。果たしてどんな組員がいるのか、組長の中野由紀昌が組員に突撃インタビューするシリーズ企画。
一人目は福岡市でコーヒー店を営む品川未貴さん。九天玄氣組に凛とした華やかさを添える“ダイヤモンドリリー”のような存在だ。東京に生まれ育ち、東京に拠点を置くゲーム開発会社に勤務していた彼女が、なぜ福岡に降り立ち、九天に入ることになったのか。焙煎コーヒーの香りに包まれたイエナコーヒー(警固店)でお話を伺った。
ーー以前は東京の会社にお勤めでしたよね。大きく方向転換するまでの経緯は?
店を開く前は、ゲーム開発会社に16年間勤めていました。大学が法学部だったので弁護士を目指した時期もあったんですが、大学ゼミの先輩からプレイステーションの開発会社を紹介され、新人でも積極的に仕事を任せてくれそうな雰囲気を感じたので入社を決めました。会社では法務部に所属して契約書の作成やレビュー、商標、特許の権利化、それらに関する訴訟対応の仕事をしていたんです。事案と法令を照合するシビアなやりとりをしていましたね。大きく転換するきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災です。本社機能が東京だけにあることを問題視し、翌年、福岡にもう一つ事務所を新設することになりまして。福岡は都市の規模もちょうどよいし、地理的にも2つ目の拠点にふさわしい。私が事務所新設の担当者にもなったので、おのずと福岡へ移住することになりました。
ーーその時はまだコーヒー店で独立するとは考えていなかった?
具体的にはなにも。でも「自分で何かしたい」という思いはずっと持ち続けていました。長年組織で仕事をしていると、同業者の中でしか人脈ができないし、業務内容も固定化してしまうのでずっとジレンマを感じていたんです。コーヒー店に決めたのは、そもそも自分がコーヒー好きなのと、学生時代にバイトで働いたカフェの接客の仕事が楽しかったから。いざ飲食業を開店すると、いろんなお客様が出入りするでしょう。常に緊張の連続で、常に本番なんです。でも、これが面白い!
ーーイシス編集学校に入ったのは開業する1年前ですね。
以前、会社の上司から「あなたには必要だ」と勧められたことがあって、ずっと気になっていたんです。契約書は決まりきった言葉で構成されていますので、慣れてしまえば意外と楽なんですよ。その一方で、もっと磨きたい言葉があって。たとえば外部の方々とやりとりする際に、嫌な思いをさせずに納得してもらえるようなウィットに富んだ会話ができるようになりたいけれど、いまの語彙力では足りないという自覚があったので、編集学校の30[守]に入門したんですね。[守]で学んだ言葉の言い換えや編集的に分類する術は有用で、いまも役立っています。卒門後もそのまま[破]、花伝所と進み、34[守]で丸角コーヒー教室の師範代としてデビューしました。その後も物語講座、風韻講座と受け、帝京大学共ナビゲーターも担当しました。
ーーイシス街道まっしぐらですね。九天を知ったのは、米川師範から紹介されたのがきっかけでしたね。
29[破]を受講したあと、担当師範だった米川青馬さんから「九州に支所があるよ」と紹介されたんです。そのあと中野組長がお店を訪ねてきてくださって、九天玄氣組に入りました。後日、店で「珈琲と編集」をテーマに編集ワークショップ「九州参座」を開いてくださったんですよね。ワークショップのプログラムに、警固店オリジナルブレンドコーヒーのネーミング編集も盛り込んでいただいて。その時決まったネーミング『警固の昼下がり』はいまでも当店一番の人気メニューなんですよ。2年前に福岡アジア美術館にオープンした2号店でも同様に「九州参座」でアジ美オリジナルブレンドコーヒーのネーミング編集をワークショップでしてもらい、『アジアの翼』が誕生しました。看板メニューですよ。やはりネーミングって大事ですね!
ーー九天に入っての率直な感想をお願いします。
おもしろいですよ。一番はじめに対面した組員さんが、熊本を拠点に各地へ弾丸遊学ツアーを決行する人だったり、世界を飛び回る北九州の写真家兼プロデューサーだったり、福岡で易や太極拳を伝授する先生だったりと個性の塊のような方ばかりだったので「この組は一風変わった人が多いのかしら?」と思ったこともありましたが(笑)、いろんな方とお会いするたびに、みなさん知的好奇心が旺盛で奥の深い人が集まっているんだとわかってきました。
なにより、ふっと湧いてくる企画に対して、皆が一斉に高速編集する様子はエキサイティングです。3年前に門司港で開催した九天10周年企画『海峡三座』しかり、東所沢にできるKADOKAWAミュージアムの選書プロジェクトしかり。この組に関わらなければ体験しえないことばかりで刺激的です。もっと定期的に会えたらといいなと思いますね。
ーー編集学校や九天に関わるようになって見えてきたことはありますか?
開店当時は「いかにおいしいコーヒーを淹れられるか、上手に焙煎できるか」に意識が向いていましたが、6年も経つと「いかに世に言葉を発信していくか」が重要だと思うようになり、毎日SNSで発信し続けています。編集学校もそうですよね。学衆で終わらず師範代をやって初めて見える風景がある。もしくは[守]や[破]を再受講するたびに気づくことがあるといいますよね。お店の運営や経営も同じで、日々味覚も磨かれるし、経験も積んでいくわけですから、一年ごとに見える風景は変わるんです。九天に入って見えてきたのは、それまでネット越しのやりとりでどこかふわふわしていた編集学校のイメージが、くっきりしてきたことですね。
ーー決して固定化されない編集学校、変容し続ける九天玄氣組をこれからもよろしくお願いしますね。ありがとうございました。
(インタビューを振り返って)
インタビューは閉店間際に行ったが、持ち帰りコーヒーを求める方が次々に来店。その都度、品川さんは生豆を焙煎機にかけ、フレッシュなコーヒーを香りとともにパッケージしていた。こだわりはコーヒーだけではない。毎週1回、福岡と佐賀の県境まで車を走らせ、コーヒーに使う天然水を汲みに行く。20kgの水タンクを2~3個運ぶという。無農薬の芋や大根、人参、ハーブなどを畑で育て、マフィンなどに取り入れてもいる。毎日が体力勝負だが、幼い頃からバレエで鍛えているので、どうやら体幹はしっかりしているらしい。九天では常に各プロジェクトの主要メンバーとして参加、10周年企画『海峡三座』では実行委員として会計を担った。ちなみに編集学校受講生の最年少記録をつくったのは、当時小学5年生だった品川さんの愛娘・唯夏さんだ。中学3年生になり、[破]を受講中。
受講歴
・30[守]ふくふく望成教室 鈴木康代 師範代/鵜養 保 師範
・29[破]知求たびたび教室 鈴木喜久 師範代/米川青馬 師範
・21[花]むらさき道場 北原ひでお 花伝師範
・物語講座 8[綴] 変身オーレリア文叢 岡崎美香 師範代
・風韻講座 第一六座 月山座
・34[守]丸角コーヒー教室師範代(野崎和彦 師範)
・34[破]丸角コーヒー教室師範代(岡村豊彦 師範)
・帝京大学共読ナビゲーター(2018年、2019年)
イエナコーヒー
警固店:福岡市中央区警固2-12-20
福岡アジア美術館ミュージアムカフェ:福岡市博多区下川端町3-1 リバレインセンタービル7階
中野由紀昌
編集的先達:石牟礼道子。侠気と九州愛あふれる九天玄氣組組長。組員の信頼は厚く、イシスで最も活気ある支所をつくった。個人事務所として黒ひょうたんがシンボルの「瓢箪座」を設立し、九州遊学を続ける。
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