面影から届く声【松岡正剛 revival 02】

2025/08/16(土)12:24 img img
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2024年8月12日、イシス編集学校校長の松岡正剛が逝去した。エディスト編集部では、直後に約1カ月にわたる追悼コラム連載を実施。編集学校内外から多数寄せられた松岡校長の面影は、1年経ってもなお鮮明だ。まるでその存在が読むたびに【REVIVAL/再生】するかのようだ。そこで今回、寄せられたコラムの数々をふたたびご紹介したい。お一人お一人からいただいたコラムには、編集部が千夜千冊から選んだフレーズを付け句している。読者の皆様にさらなる編集の契機としていただけるよう、36のコラム+蔵出し写真&映像をふくめ、8日にわたって公開する。

 

 

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02:面影からとどく声

 

今回紹介する6本の追悼文は、松岡正剛の傍で編集工学を深めてきた人々が、師の面影に触れながら放つ編集宣言。彼方から届く声に耳を澄まし、松岡正剛に捧げる決意表明である。

 

寄稿者:

吉村堅樹(イシス編集学校 学林局 林頭)

田中晶子(イシス編集学校 ISISI花伝所 所長)

原田淳子(イシス編集学校 破学匠)

田中優子(イシス編集学校 学長)

吉村堅樹・穂積晴明(おっかけ千夜千夜ファンクラブ)

大澤真幸(ISIS co-mission/社会学者)

 

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【追悼】未完の編集装置 校長・松岡正剛の面影ISIS

林頭 吉村堅樹

 イシス編集学校 校長・松岡正剛が8月12日に永眠した。
穿たれた空隙のあまりの大きさに立ちすくみそうになる。在りし日の姿を思うにつけ、感傷に攫われそうになる。未知の航路への羅針盤を喪って、ただただ途方に暮れそうになる。校長なら言うだろう。さっさとやりなさいと。校長の不在を機会にしなさいと。
次の一歩を踏み出すために、新たな編集を始めるために、7月2日、校長に最後に会ったときの言葉を綴っておきたい。 …

 

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

物学をしつづけることによって、もはや似せようとしなくともよい境地が生まれるというのだ。そこでは「似せんと思ふ心なし」になる。かくて「花を知る」と「花を失ふ」の境地がふたつながら蒼然と立ち上がって、『花伝書』の口伝は閉じられる。ぼくは何度この1冊を読んだかは忘れたが、いつも最後の「別紙口伝」のクライマックスで胸がばくばくしてきたものだ。


【追悼】松岡校長 あけ伏せと引き算の存在学

ISIS花伝所所長 田中晶子

 

 2001年9月、赤坂の編集工学研究所をはじめて訪ねた。20年以上前のことだが鮮明に覚えている。5期[守]の師範代試験の日だった。木村学匠(現・月匠)が、「松岡さんは、“編集学校は慈愛でいく”と言っているから、緊張せずにどうぞ」と言って、面談がはじまった。圧巻の本棚空間にエキゾチックな照明、香が焚かれ、淹れたてのコーヒーとお菓子がサーブされた。まるで校長松岡正剛との午後のお茶会だった。 …

 

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

 潜勢という意志がある。いたずらに表面に出ない勢いのことだ。ひたすら姿勢を内側にもつ。ただの引きこもりではない。奇も衒わない。潜んで勢いをもつ。
生命系のシステムを見ていると、ほとんどはこの潜勢がのちのちはたらいてシャトル系を漲らせた蝉の翅になったり、受精卵のその後の神経系になったり、非対称な蘭の花の驚くべき容姿になったりしているのだろうという気がしてくる。


【追悼】松岡校長 編集的自由を励ます

破学匠 原田淳子

 

2020年3月、感門之盟の頃には、新型コロナへの警戒感がすでに強くなっていた。予定していた外の会場では開催できなくなり、本楼&オンラインでハイブリッド感門之盟をはじめて開催したのだった。カメラやスイッチャーといった機材をつかって配信するのもイシスの師範代たちだ。松岡校長は、新たなスタイルに意欲をもやし、テレビ番組を超えるような感門之盟や伝習座をディレクションしていった。...

 

 

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

 ふと思うのは、ぼくが「終わりなき編集」を決意することになったのも、おそらくはこのジャコメッティのいう「実現することが不可能に思われるこれらのヴィジョン」を「再構成」するという仕事に追いこまれたためだったのではなかったかということである。何かのおりにジャコメッティを読むたびに、挫けたときにジャコメッティを見るたびに、ぼくはそんな気がしていた。


【追悼】松岡正剛 終わりではなく始まり

イシス編集学校学長 田中優子

 

 松岡正剛様。あなたはよく「代理」の重要性を語りました。「代」というのは不思議な、編集上大事な考え方だと、私は理解していました。
私は今そのことを思い浮かべながら、しかし、あなたの代わりになる人は、この世界のどこを探してもいないのだ、と大きな痛みとともに、改めて思い至っています。心の深淵に沁み込むようなあなたの声。突然、宇宙にも古代にも飛んでいくそのスピードと視野。包み込むことと容赦しないことが両立する、厳しいディレクション。そのどれも、あなたしか持ち得ないものです。...

 

 

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

ぼくにとって「方法」は最も重要な看板なのである。ぼくに思想があるとして(ぼくは自分の思想を標榜することがあまり好きではないのだが)、まあそれでも思想があるとすれば、それは「方法を思想とみなすこと」がぼくの思想なのである。どんなことより方法を考えることは、ぼくの使命とさえいえるものなのだ。つまり思想は方法なのである。


【オツ千番外編】追悼松岡正剛・1700夜おっかけ宣言

おっかけ千夜千冊ファンクラブ

吉村堅樹・穂積晴明

 

オツ千を松岡正剛が初めて聞いた日のエピソードに始まり、坊主と小僧が厳しくディレクションを受けたシーン、そして二人が松岡正剛から受け取ったことで最も大事にしていることなどをいくつもの思い出と共に交わします。立ち上がる面影に対して、愉快にも哀切にも触れながらのオツ千になりました。これまで100夜ほどおっかけてきて、残りは1700夜。松岡正剛へのオツ千追悼完遂宣言です。...

 

 

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

そこで大事になるのは「声」なのである。どういう声がいいかというのではない。どういう「言葉づかいで語るのか」ということが大事だ。ミーティングがいい例だろう。ただし、仕事場の「声」はミーティング以外でも独特でありたい。青物業界には青物業界の、ファッション業界にはファッションの、スタジオ音楽業界にはスタジオミュージシャンたちの、ソフトウェア業界にはソフトウェアの声が生まれる必要があるのだ。
われわれの仕事にとっては、まさに言葉づかいが道具使いなのである。


【追悼】松岡さんの面影は、私たちの〈創〉を刺激し続けただろう

ISIS co-mission/社会学者 大澤真幸

 

 松岡正剛さんが逝った。少し前から覚悟はしていたつもりなのに、喪失感はことのほか大きい。

 私が松岡さんに初めて会ったのは、一九八〇年代の終わり頃だった。そのとき私は、まだ二〇代だったから、人生を半分以上遡ることになる。高校・大学の頃に『遊』を愛読していたし、『眼の劇場』などの著作も読んでいたので「松岡正剛」という名前はよく知っていた。あんな妖しい魅力を発する雑誌を創り、あれほどぶっとんだ想像力で本を書くのはどんな人なのか。是非お会いしたいものだと念じていたら、突然、NTTが後援し、松岡さんが座長を務める研究会のメンバーにならないか、と声をかけられたのだ。編集工学研究所が、代官山にあった頃のことである。...

 

 

 

◆the REVIVAL of Seigow's voice from 千夜千冊

自分を語ることは一番たやすいようでいて、一番むずかしい。リンゴや公園や北条泰時や集積回路を語るときは自分の位置が対象から離れた外にいるのでちょっと安閑としていられるが、自分を語ろうとすると、そういう自分を語っている自分の位置が言葉のたびに動いてしまうから、そこがむずかしい。哲学はそのむずかしさに挑む。

 


松岡正剛revival

01 匠の方法・編集の鬼

02 面影からとどく声

 

写真:後藤由加里

  • エディスト編集部

    編集的先達:松岡正剛
    「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。