編集とは、机上の手すさびではない。家庭や学校や会社など、大小さまざまな「組織」さえ変えるプラクティカルな力をもつ。なぜなら、イシス編集学校で学ぶ「編集術」は、人々のコミュニケーションの根幹に関わるものだからである。今回の「イシスの推しメン」では、とある宗教団体で本部職員を勤めるこの方に、編集術の活かし方を聞いてみた。
イシスの推しメン5人目
佐藤裕子(立正佼成会 府中教会教会長)
2018年春、基本コース41[守]入門。立正佼成会で教会長に就任すると同時に、師範代にも登板。その胆力を買われ、瞬発力と判断力の問われる速修コース師範代にも抜擢。「幕末カノン教室」「しんがりスサビ教室」「幕末スサビーズ教室」という3つの教室名を持つ司馬遼太郎フェチ。天璋院篤姫と同じ流派で筝曲を習い、来年秋の発表会に向け稽古中。[守][破][離][花]修了。多読ジム『それチン』エッセイでは「壁に穴が空いた」という赤裸々な家庭事情の告白に全イシスがざわめいた。
(聞き手:エディスト編集部)
■長年渋ったイシスへの入門
入ってみたら、人生の転機に
――最近の千夜千冊では仏教関連書が連打されていますが、佐藤さんは立正佼成会という宗教団体にお勤めなんですよね。松岡正剛校長も立正佼成会次代会長庭野光祥さんが新世代の仏教を担うはずだと、1802夜『日本仏教入門』で大きな期待を寄せておられましたね。佼成会内部でも、編集学校で学ぶ方が増えているとお聞きしています。
そうですね、いま、立正佼成会では「苗代プロジェクト」として、職員や会員さんたちが編集術を学ぶ研修を行っています。だから、私が入門するまえも、もともと同僚たちがたくさんイシス編集学校で学んでいました。
――佐藤さんも、その波に乗って入門されたんですか?
いや……、私はずっとそれに違和感があって、誘われても「私はや
――なんと意外な。なにがきっかけでその思いが変わったのでしょ
本部職員の勉強会で、次代会長(庭野光祥さん)がみずから編集術を生かした研修を
――光祥さんは、世界各地を飛び回って宗教指導者と対話を行うな
それがもう、入ってみたら、「なんでみんなやらないんだろう?」
――早く入門すればよかったですね(笑)
ほんとにそうです、何の意地を張っていたんでしょうね。イシスの教室では、何を書いても受け入れてくれるんですよ。[守
――おお。何がそれほどヒットしたんでしょうか。
カリキュラムのなかで、自分史をまとめたり、そのあと物語を書い
――編集稽古で、人生の意味が書き換えられたんですね。
はい。佼成会でも自分の人生を振り返って発表するということはお
■イシスで身についたのは「決断の早さ」
人生に新たな展開を引き込む秘訣
――編集の威力を感じたその勢いのまま、編集コーチ養成講座[花伝所]へ進まれたんでしょうか。
それがじつは迷っていたんです。ちょうどそのころ、職場の「苗代プロジェクト」の一環で、職場近く方南町のレストランで吉村堅樹林頭とお会いする機会があったんです。そのとき林頭から「佐藤さんは、花伝所は行ったほうがいい」と言われて、レストランを出るときには「やります!」と決めていました。
――僕(吉村)から見ると、佐藤さんは思い切りのよさが見事で、他の人と違うなと感じたんですよね。なかなか編集稽古のなかで、幕末趣味などを全面に出せることはないですから(笑)。フェチを大事にする編集学校には大事な存在なんです。それに、佐藤さんは決断が早いんですよね。
あ、それは編集学校に入ってから変わりましたね。イシスで過ごしていると、来たものは迷わず受けようと思うようになりました。じつは、花伝所を終えて師範代に登板するときも、教会長の拝命とタイミングがちょうど重なってしまって、師範代はできないなと思って八田英子律師にお断りの電話をしたんです。そしたら「大丈夫、できますよ」って言われた。その言葉を信じて、仕事内容も生活スタイルも変わるときに師範代に挑戦してみることにしたんです。
――誰かの言葉を素直に受け入れるのが佐藤さんの魅力ですね。もともと進むつもりのなかった世界読書奥義伝[離]に進んだのも、もしかして誰かの勧めだったんでしょうか。
そうなんですよ。じつは編集学校に入るまでは、自分で本を買って読むことはないくらいだったので……。でも、[守]師範代を終えたときにいただいた先達文庫に、松岡校長から「離へどうぞ」とメッセージが書かれていたんです。そう言ってくださるなら応えねば、とその一心でした。
――どうして佐藤さんは誰かの後押しを、素直に受け入れられるんでしょうか。
新たな局面に飛び込むことで、自分が変わる体験をするのが面白かったんですよね。「自分は、こんなふうに誰かに言葉をかけられるんだ」「こんな発想ができるんだ」って感じるのが楽しいんです。偶然を必然に変えるのが楽しいんですね。なかには失敗もします。でも、それも「必要な経験だった」と考えればいい。その楽しさをたくさんの人に知ってもらいたいなと思って、「みんな、イシスやったらいいのに!」って素直に思います。
――いやはや、あらゆる人に聞いてもらいたい言葉ですね。いまや佐藤さんは「佼成会の職員はみんな編集学校で学んだほうがいい、できれば師範代までやったほうがいい」と訴えて、多くの職員さんや会員さんを入門に導いていますね。なぜそこまで力を入れるんでしょうか。
コロナ禍がきっかけですね。私が[守]の師範代を終えるころに、ちょうどコロナの感染が広がっていって、これからの立正佼成会はどうなってしまうんだろうって思ったんです。私たちの活動は、リアルに人と出会っていくことが中心なので。そうなると、やはりリモートでも濃密なコミュニケーションが取れる編集学校にあやかる必要があると思いました。イシスで学ぶことで、編集術で自由を手に入れる必要もあると思ったんです。
そう思ったら、古い在り方は私たちが再編集しなければならないと絶対的な使命が芽生えたんです。誰に言われたわけでもないんですが(笑)
――その幕末の志士ような熱い思いが佐藤さんですね。
ふふ。でも変革はひとりでは起こせないんです。仲間が欲しい。そのためにイシス編集学校でともに学ぼうとしています。
■宗教団体を「編集」で変革する
その秘訣は、つねに学び続ける姿勢
――いま、宗教団体の置かれている立場は厳しいと思うのですが、そのなかで活動することの重みってどうとらえておられますか。
世の中的には、宗教ってバッドイメージを持たれていますよね。でも、私はそのほうがやる気が出ます。そういう状況だからこそ、やらなきゃいけないことがあるとも思います。
――校長も参加された宗教シンポジウム「激動する世界と宗教」のなかで、佐藤優さんや池上彰さんは、世の中のほとんどの人が「お金教」という資本主義の宗教に入っているのに、そのことに誰も気づいていないと指摘しておられました。この内容は書籍化もされています。この世の中において、一般の宗教団体などが「異端」に見えてしまうのは仕方のないことなのかもしれませんね。
そうですねえ、日本では表立っては宗教のことを話せない雰囲気がありますが、教会でみなさんのお話を聞いていると意外と宗教が求められているのを感じますね。佼成会にも「入会はしないけれども、学びたい」といって訪ねてきてくださる方も多いです。
――佐藤さんご自身は編集学校で学んで、どんな変化を感じますか?
人とのコミュニケーションの方法が変わったのを感じます。「問い」が大事だとわかったんです。これまでは「伝えなきゃ、伝えなきゃ」と思っていたけれど、ただ言葉を多く紡げばいいわけじゃないんですね。伝えるためには「問う」ことが必要だと気づきました。
――問いを提示して、余白を作るのはなかなか難しいですよね。
はい。最近は、日頃の対話のなかでも意識しています。自分がわかっていることを問うのではなく、自分も相手もわからないことを問うのが面白いなと思って、それを稽古しているところです。
――佐藤さんといえば、[破]の師範代というイシスでも有数の負荷のかかるロールのときに、並行して[多読ジム]も受講しておられたというとんでもない修行精神をみせてくださったんですが、それはなぜだったんでしょうか。
師範代も学び続けないといけないと思ったんです。師範代登板まえ、浅羽登志也冊師のスタジオで「この応じ方は真似したい」と感じることばかりで。師範代も借りたり、真似たりしないと成長しないなと思ったんです。師範代やりながらだと、「ここでこう返すのか」って唸ることばかりで、学びが深まりますよ。
――職場改革ではイシスを真似し、師範代時には冊師に学ぶ。来るものは決して拒まず、しっかり受け止める。佐藤さんのエネルギーの秘訣は「あやかり力」にあるようです。遊刊エディスト上で、幕末から編集を学ぶコラムが読める日も近いかもしれません。
アイキャッチ:富田七海
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梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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