松岡校長に贈り続けている九天玄氣組の年賀作品。校長を感嘆させるほどのクオリティをもたらすのは、デザイナーでありクラフト作家である北九州市の内倉須磨子さんの手わざにある。内倉さんとの出会いは、まだ九天玄氣組という名がつく前の2004年ごろ。ある時思いがけない出来事が飛び込んできて、一気に編集の渦が巻き起こった。それはやがて九天玄氣組の発足へとつながっていく。九天の編集に彩りを与える内倉さんに、九天年賀づくりについてインタビューした。
ーー内倉さんのおかげで九天の年賀は毎年すばらしい作品になっています。お仕事はデザイナー兼クラフト作家と言っていいのかしら。お菓子や食品のパッケージなんかも手がけておられますよね。
いやじつは、短大に入学して学んだのはインテリアだったんですよ。内装の仕事ができたらいいなと思っていたけど、当時は女性の採用がほとんどなくて。百貨店がポップ書きの求人を出していて、短大ではレタリングも学んでいたので、そこに入社して、たった一人で百貨店の全店舗のポップや横断幕、垂れ幕を手書きしていました。いまみたいにMacなんてないからね。マネキンのディスプレイなんかもさせてもらっていた。そのあと洋服店に就職して、チラシを作ったりしましたね。グラフィックデザイナーの主人が30歳になった頃にスーパーハンドというデザイン事務所を立ち上げ、今に至ります。
ーー子どもの頃から手先が器用だったんでしょうね。
絵を描くというより、何かを作るのが好きでね。とくに小さい紙で鶴を折るのが好きで、どれだけ小さく作れるかをチャレンジしていました。独立したあとも紙や粘土で人形なんかを作っていたら、広告代理店の人がおもしろいと広告に使ってくれて。そのうち地域のフリーペーパー『リビング新聞』から「クラフト作品を教えてみませんか」と声がかかってね。最初、ミニおひなさまを作ることにしたら、ものすごい人気で50、60人は集まりました。『リビング新聞』の紙上では「はさみでチョッキン」という連載記事も担当することになって、大忙しでした。そこで出会ったのが書家の城戸翔寉先生で、のちに田中晶子さん(現花伝所長)と出会うことになるわけです。まだ田中さんが北九州にいたころです。
ーー田中所長とは古くからのお付き合いなんですね。また城戸翔寉先生といえば、時折、九天のイベントごとに用意する作品の書を書いてくださっています。
城戸先生は内閣総理大臣賞を受賞するほどの腕前の先生なんですけどね、仕事のよしみで九天年賀に一筆お願いしたりして(笑)。イシス編集学校を知ったのは、城戸先生とともにお菓子のプロデュースの仕事をしていた田中さんからお声がけいただいたのがきっかけです。優秀な彼女がおもしろいというのだから、興味津々で入門しました。
ーー8期[守]の入門ですね。私はその期の師範でした。
私、あなたを男性だと思い込んでたのよ。名前が男みたいじゃない。福岡で会ってびっくり(笑)
ーー期待はずれですみません(笑)。では、九天玄氣組の年賀の話をしましょうか。そもそもの発端は、2004年の秋に松岡校長が胃癌を患われて、快気祝いに何か贈ろうと福岡界隈の女性5人が集まって博多織の工房へ行ってブックカバーを織ったんですよね。一つの織り機でかわるがわる織って。みんな素人だしヨレヨレな仕上がりだけど、「千年織」なんていうネーミングだけは立派で(笑)
もう気持ちだけ伝わればいいってね(笑)
ーーこの「千年織」を納める箱を内倉さんが仕立ててくださったんです。箱の中には、ブックカバーにくるんだ無地の冊子と、自作の博多にわかカードを入れた。この冊子にははじめの4、5ページしかメッセージを書いておらず、あとの200ページ近くは白紙で(笑)。でもこの時の白紙のページを、いま埋めているんじゃないかと思うんです。
いいこと言うね(笑)。でも、そうかもしれない。博多にわかは崟智子さん(5期)が作ったのよ。これが上手でねっ
ヨレヨレの博多織ブックカバーと博多にわかカードを「千年織」の箱に納めるとアラ不思議、品格が数倍アップ!
ーー校長にお渡ししたあと、「五人の織姫へ」と題したお礼のファックスが届いて感激しましたね。これが私たちと校長のファーストコンタクトでした。このあと、五人の織姫は再び集まって、校長に年賀状を送ろうということになって。編集の効いたものがいい、ちょうど千夜千冊に『南総里見八犬伝』がアップされたし、来年は戌年だからこれでいこうと。すると、内倉さんが「こんな感じで作ったらどう?」とその場でみるみるうちに試作品を作っていったんです。八角形の蛇腹スタイルカードで、それぞれ漢字一字に思いを込めて、メッセージを添えて。
その年賀には「名もない支所に名前をつけてほしい」とお願い文を添えたんです。その要望に松岡校長は応えてくれて、発足に向けて一気に動き始めることになりました。
はじめて送った年賀状その年の秋に九天玄氣組は発足する。
ーー「千年織」からはじまった九天玄氣組の年賀を、発足後の2007年から2017年までをふりかえってみましょうか。
↑2007年「九天直下年賀文巻」九角形の御神籤スタイル。下に傾けて振ると穴からタバコ風の御神籤が出てくる。
↑2008年「九天即応編集稽古」漢字一字で新年挨拶。この時、黒瓢箪『壺中九天有』を同梱、一筆依頼(瓢箪座の由来)。
↑2009年「興缶」:縦長の製本。組員は干支にちなみ「牛」の字を入れた創作漢字を作ってもらった。
↑2010年「九天壽結寅の巻」お手製豆本と巻物には手彫りの篆刻も。数え歌も創作した。
↑2011年「九兎祝匣子」は和菓子箱風。「初笑い川柳」を掲載した和綴じ本が入っている。
↑2012年「九天晴雲龍秘帖」古布で箱をつくる。蛇腹本「TATSU和歌」は光栄にも連塾のステージに飾られた。
↑2013年 「山玄水螢之巻」サイコロ&パズル仕立ての箱に豆本を。
↑2014年「甲牛2014」鏡餅仕立ての組み箱。箱の中には活動報告と新年を彩るおもちゃ入り。
↑2015年「創作 羊字熟語」創作の四字熟語をあしらった連凧は本楼に飾られた。凧型の豆本も添えて。
↑2016年「九天玄氣独楽る・る・る」抱負を動詞で表現、紙テープを巻いて独楽風に。羽子板は冊子になっている。
↑2017年 10周年イベント「海峡三座」のお礼を込めて和綴じ豆本に“返歌”を詠んだ。蛇腹の本は果てしなく長く…
ーー2017年までは松岡校長だけの一点モノですね。ふりかえっていかがですか。
こうしてみると、もう少しキレイにできたんじゃないかと思うけど、作っているときが楽しいからね。お気に入りは、2009年の箱詰め和菓子風「九天壽結寅の巻」、2015年の連凧「創作 羊字熟語」、2016年の独楽「九天玄氣独楽る・る・る」かな。
誰からも文句を言われることなく、好きなように作れるのがいいよね。「自由は不自由だ」と朝ドラでも言ってるように、どんなものでもいいから作ってくれと言われたら作れないけど、中野組長からお題が届くから、それをもとに遊べますよね。九天玄氣組は毎年の楽しみです。
ーーパッケージはいってみれば脇役ですね。心がけていることはありますか。
その品物が生きるもの。目立ちすぎてもいけないし、シンプルすぎてもだめ。お菓子なら、おいしそうなシズル感や、特徴の一つを強調してあげる。色が多すぎたり、どぎついものは日本人は好みませんから。そして、隠し味に自分の好みもこそっと入れる。クスっとさせるものを入れるといいんですよ。
ーーネットが主流の学校なので、こうして手作業をしてかたちにする機会はあまりありません。内倉さんのおかげで、九天はここまでやってこれました。足を向けて寝られません。
年賀づくりのワンシーン。内倉さん指導のもとゴム印はんこをつくって、豆本に押印した(2010年12月)。
2011年の年賀「九兎祝匣子」を開封後、ご満悦の松岡校長。
(次回は2018年以降の九天年賀をご紹介します)
(インタビューをふりかえって)
九天年賀で実感するのはイノチをカタチにする編集の力です。テキストベースの情報をやりとりするのが主体の編集学校ですが、さらに一手間かけることで、また違う世界が広がっていく。その魔術師こそ内倉さんです。年末になると内倉さんの事務所に組員が集まり、膝を突き合わせて豆本や篆刻、ゴム印づくりなど共同作業をしてきました。それが楽しみの組員も多く、手を動かしながら、口も絶えず動かすもんだから(おしゃべり)始終にぎやかで、笑いの絶えないひとときを共にします。素人仕事ゆえほつれもよれもあるけれど、最後は内倉さんがビシッと仕立ててくれるので安心。九天玄氣組の命綱ともいえる企画、内倉さんぬきではなし得ません。ちなみにトップの写真は、2020年の年賀『せいごお漬』を納めた九角形の重箱。お正月を返上して仕上げてくれました!
(受講歴)
8期[守] 立体波花教室(石田直紀 師範代、麻野由佳 師範)
8期[破] 風色オペラ教室 (志村呂子 師範代、奥野博 師範)
12期[守] ぴんぴんもぎもぎ教室(木村尚子 師範代、小池純代 師範)
序 かささぎ2号
風韻三座 泡雪座(小池純代 師範)
中野由紀昌
編集的先達:石牟礼道子。侠気と九州愛あふれる九天玄氣組組長。組員の信頼は厚く、イシスで最も活気ある支所をつくった。個人事務所として黒ひょうたんがシンボルの「瓢箪座」を設立し、九州遊学を続ける。
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