誰にでも必ず訪れる最期の日。
それが、どのような形で訪れるかはわからないが、一番ありえそうなパターンの一つが終末介護病棟での最期じゃないだろうか。沖田×華先生と言えば、自虐ネタのエッセイマンガでよく知られるが、物語作家としても超一流だった。深く死に向き合いたい方は、是非ご一読を。
(沖田×華『お別れホスピタル』)
★バックナンバー:

―――感性の問題は社会の影響が大きいですよね。たとえば、江戸時代は日常に義太夫節や三味線の音がある。言葉遣いやライフスタイルも現代とは異なります。教育と社会は切り離せません。編集学校としては小さな教育モデルから新しい社会モデルを生み出す可能性も模索しています。
大学の場合、教育現場からいろいろな発案は出てくるものの、大きな制限が二つあります。一つは文科省。もう一つはお金です。大学も大学院も文科省の設置基準がありますし、設置された後もいくつもの審査が実施される。また、大学評価があって、毎年のように膨大な書類を作成しなくてはいけません。
一方で保護者がお金を出しますね。そうすると「お金を出したんだからちゃんと就職させてください」となる。大学にはこの二つの制限があるので、人間としての感性を磨き、才能を伸ばしていくことに集中することができないんです。それは総長という立場になって十分に分かりました。
教育の現場の仕組みには限界がありますが、学生自らが非常に能動的にいろいろなことに挑戦していって、自分で自分を磨くことはできます。学校側も、まさに好奇心を十分に発揮して、最大限能動的に取り組む学生に賭ける方がいいのかもしれません。
―――編集学校にも仕組みの限界はあります。
だから、その限界を理解した上で、それでも使いこなしてなんとか自分を磨いていこうとする人に賭ける。あるいはそれを誘導していく可能性はありうると思います。ただし、どういう方向で磨くのか、それはある程度コンサルティングっていうかな、相談が必要かもしれませんね。方向づけて、自信をつけてあげる。
上から教えるのではなくて、あなたはどうやって生きていくかを問いかけていく。受講者のみなさんは、ほとんどの人が仕事をしていますよね。それなら、自分の人生全体の中で、仕事と学びをどういうふうに捉えて、どこまでやるのか。一人ひとりがそこまで問う。これは今の学校の仕組みではできないことです。
もしそれができたら、独自のイシスモデルというものが生まれると思うんです。さっき話した私塾や芸能の師弟関係においても「あなたはどう生きるのか」という問いから始まりますね。

2019年3月9日 第69回感門之盟での校長校話。
―――松岡校長も「人生を編集するのではなく、編集を人生してほしい」と日頃から師範代や師範に伝えています。
イシスモデルで育ったアーティストが生まれてほしい。つまり、これまでとは違う能力の磨き方を身につけた人が出現するわけですから、その可能性に賭けてみることはできるかもしれないですね。
―――これから若い人にはどういう風に育っていってほしいですか。また、どういう社会になっていくといいと思いますか。
それぞれが他の人とは違うということを十分に分かって、そのことに自信をもって生きていくということです。経済成長期までの日本には、出世モデルというものがあって、みんなそこを目指しました。その男性中心のルールに女性も加わっていった。でも、女性の活躍は男になることではないし、そもそも一人ひとりの存在の仕方に理解があれば、男と女という言葉は持ち出さなくてもいいはずです。
たとえば、学生に対しても、この人はこの人しかいない、他の人とは違うというつもりで向き合っていかなくてはいけない。わんわん言ってくる学生もいれば、ひっこんでしまいがちの学生もいるし、いろいろです。ものすごく攻撃的だからダメかというと、そうではない。攻撃的だから素晴らしいかもしれない。それをどうやって見極めていくかというと、対話です。話さなきゃ分らない。対話を積み重ねていくことが丁寧な方法です。ただし、大きな組織ではそれができない。イシスでも今後は一人ひとりとどう向き合っていくかが問われるのではないでしょうか。
―――江戸時代はいかがですか。一人ひとりの存在の仕方に向き合えていたと思いますか。
私たちの社会、つまり近代社会に比べるとそれに近いことはできていたと思います。まず、身分制度の中では身分と職業がくっついています。武士は武士、商人は商人の仕事をするしかない。けれども、商人は武士をうらやましがったりはしないし、武士も時々商人になることはあるけれど、別にうらやましいとは思わない。つまり、どちらが上ということはない。よく言われているように、身分制度はヒエラルキーではなくて、「それぞれやっているね」っていうそんな感じです。
それから、もう一つ。武士の社会では、自分を分けていく。分けていくというのは、「武士である私はこの名前で武士をやります」と宣言する。だけど、「別の名前で別のことをやります」と言ってもいい。つまり、アバターを作った。それで武士の中から狂歌や戯作の原作者があらわれる。町人文化はほとんど武士がつくりました。
なぜそんなことをしたのかというと、武士が武士であることに閉じこもっていたらとても生きていけなかったからです。そういう困難をもっていた。お金のためということではなくて、一人の人間として十全に生きるためには自分を分けた方がいい。
狂歌をやっているときは武士である自分を忘れることができる。忘れていいとされた。誰もそれを非難しない。つまり、認め合っている。周りの人は「この人は分けているんだな。そうしないと生きていけないよね」と思う。そういう関係性が保たれていました。

2019年夏 風韻講座 仄明書屋にて(本楼)。
―――[守]の稽古にもある「たくさんの私」ですね。編集学校でたくさんの役割を持つことをポリロールと言ったりもします。
いま「パラレルキャリア」という言葉が流行っていますが、それは仕事上のこと。人として分岐するときは江戸時代では「アバター」を作りました。私は「別世(べつよ)の自分」と言っています。江戸時代のような一人の中の多様性がこれからもあり得るだろうと思います。それをお互いに認め合ってしまえばいいわけだから。
編集学校には、仕事に役立たせるために来ている人もいるかもしれないけど、あえてここでは別の人間になる。別の才能を育てて磨いてみるという自覚を持ちながらやると、さらに突出したものが生まれやすいのではないかなと思います。
つづく
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基本コース [守] 申し込み受付中
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金 宗 代 QUIM JONG DAE
編集的先達:夢野久作
最年少《典離》以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム、KADOKAWAエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
photo: yukari goto
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