昨年に続き2度目の「新春Edist編集部放談」をお届けします。2021年も元旦からの三が日に、新年企画としてかしましく連載してまいります。2020年を回顧し(其の壱)、2020年に大活躍された3名のエディスト・ライターズをゲストに招き(其の弐・参・肆)、2021年新年の抱負を語り合います(其の伍)。それでは放談連載をどうぞお楽しみください。
◎遊刊エディスト編集部◎
吉村堅樹 林頭, 金宗代 代将, 川野貴志 師範, 後藤由加里 師範, 松原朋子 師範代, 上杉公志 師範代, 穂積晴明 デザイナー
吉村: 新年あけましておめでとうございます。
川野: あけましておめでとうございます。2021年が始まりましたね。
吉村: Edistが2019年9月に始まって以来、たくさんの人たちに支えられ、おかげさまで今年も年を越せました。
川野: イシス編集学校が20周年を迎えた2020年は、まあ、いろんなことがありましたね。振り返ると、コロナウィルスのことがまず浮かぶのですが。
吉村: 2020年は大変な年だったというのももちろんありましたが、コロナの影響を受けるというよりも、コロナによっていろんなことが加速した1年でしたね。
金: イシス編集学校は、20周年を迎えたことが一番大きかったですかね?
川野: 2020年の大ニュースは、やっぱりそれじゃないですか?9月の20周年感門之盟では、編集部メンバーで新聞までつくりましたよね。
吉村: そう、そのタブロイド誌は、ここにいるEdist編集部メンバー全員でつくりましたね。
吉村堅樹 編集的先達:山東京伝
エディスト編集長。僧侶で神父。塾講師でスナックホスト。ガードマンで映画助監督。介護ヘルパーでゲームデバッガー。節操ない転職の果て辿り着いた編集学校。揺らぐことないイシス愛が買われて、2012年から林頭に。
川野貴志 編集的先達:多和田葉子
金蘭千里中高国語教師。語って名人。綴って達人。場に交わって別格の職人。軽妙かつ絶妙な編集術で、全講座、プロジェクトから引っ張りだこの「イシスの至宝」。野望は「国語で編集」から「編集で国語」への大転換。
金宗代 編集的先達:サン=テグジュペリ
フリーライター。最年少典離以来、幻のNARASIA3、近大DONDEN、多読ジム立ち上げ、2020オープンのエディットタウンと数々のプロジェクトを牽引。先鋭的な編集センスをもつエディスト副編集長。
上杉: コロナがあって、リアルなトポスを大事にしてきた編集学校の活動が、全部オンラインとのハイブリッドになったのが印象深かった2020年でした。
吉村: まず3月のハイパーコーポレートユニバーシティで、参加者が出席できずに最終講義が延期になったんですよ。そのことがきっかけで大きく動き始めました。1か月後に、オンラインで実施することになったんですが、そこからはリモートをいかにおもしろいものにするか。他にはないものにしていくかということに、ドライブがかかって加速していきました。
金: 2020年はエディットツアーも全部リモートだったんですよね?
上杉: ちょうど2月末から4月にかけて、「エディットツアースペシャル」を実施していたんですが、全国各地でエディットツアーをするはずが、3月以降はいくつかの地域で、残念ながら開催が中止になったものがありました。その後はリモートで実施となりましたね。
吉村: 実はエディットツアーは2019年の時に一度オンラインで実施したんですよ。
後藤: 大きな台風の時でしたね。Edistでも記事になっていますよ。
後藤由加里 編集的先達:小池真理子
英会話学校プログラムコーディネーター。NARASIA、DONDENといったプロジェクト、イシスでは師範に感門司会と多岐に渡って活躍する編集プレイヤー。フレディー・マーキュリーを愛し、編集学校のグレタ・ガルボを目指す。
上杉公志 編集的先達:パウル・ヒンデミット
前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。
吉村: そう、なので、出来なくないことは分かっていたんです。ただ、やっぱり、2020年の最初のころリモートで実施した伝習座は、突貫工事でしたね。[破] の伝習座の1回目は1台だけカメラを固定して、学林堂をスタジオに、ニュースキャスター方式でやったんですよ。
上杉: テーブルに2人で並んでやってみたり。固定カメラの枠の中だけで動いていましたね。
後藤: [守] 伝習座1回目はみんなガチガチでしたね。編集学校2階の学林堂に、薄暗くスタジオをつくって。初めてだから失敗してはいけない感じでしたしね。
川野: そもそもリモート会議というものに、世の中全体がまだまだ初々しい時期でしたからね……。
上杉: 松岡校長はリアルとオンラインの敷居をまたぐ開始部分を大切にされていて、その後のイベントでも、なんども冒頭をやり直し!とディレクションが入ったことがありました。
後藤: オンラインにいる人たちとインタラクティブに進めることの進行も難しそうで、たびたび硬直した空気になりながらやりましたね。それは緊張感というよりも、オンラインになったとたんトポス性が失われるやりづらさというか。画面の向こう側に空間を見せる演出がまだ取り入れられていなくて、いかにZoom越しの人たちとしゃべるか、という段階から、まずはじまりましたね。
川野: それがどのあたりからいい感じになっていったんですか?
後藤: やっぱりハイパー最終講義の設えからだと思います。めちゃくちゃ頑張ってスタジオを仕立てて実施したんですよね。私、記事書きましたもの。
吉村: 3月のハイパーの最終講を組み立てたときに、カメラが2台、3台入って、スイッチャーも入れて、1階本楼の大きなブビンガ(1枚板の大テーブル)の位置を変えたり、書籍を並べたり、相当設えをしましたね。カメラには池田かつみ師範代、森本研二師範代、フロアやスイッチャーに中島麗師範代がいつも入ってくれるようになりました。
上杉: [守] の伝習座1.5回目は、そのハイパーの設えを活かしました。いつもは期中に2回実施するところを、3回に分けて行いましたね。最初はオンラインでどれぐらい集中力が持つかわからなかったので、1回目を用法1だけにして、2回目に用法2をやり、3回目はさらに工夫して。
吉村: ハイパーの後、すべて本楼をスタジオにして実施することになりました。春に実施した花伝所の入伝式はすごかったですね。
後藤: かなり煌びやかな設えで、穂積さんのデザインしたものが飾られて、気合が入ってましたよね。
吉村: コロナのおかげで、ものすごくたいへんになったんですよ(笑)。新しい編集に次々に取り組むようになった。 デザイナーもたいへんやったな。
穂積: イベントごとに、毎回タイトルをつくるっていうことになって。毎回デザインして、パワーポイントにして…。屏風を立てたり、松岡校長が新しい書を書いたり。花伝所のときには、教室それぞれの色を和紙で設えたりしましたね。
吉村: リモートとリアルのハイブリッド型になって以来、必ず前日のリハーサルには、すべて校長が立ち会うことになったんです。ひとりひとりに細かくディレクションが入るようになった。カメラの取り方、伝え方。特に講座リーダーたちが、リモートの先で参加している人たちにどう見えるか、どう見せるかには、校長はこだわっていました。
川野: どんなものでもすぐ「よそにない感じ」にしていくパワーが、イシスはやはり別格だなと思います。
後藤: それで[守] 伝習座2回目では、「鈴木康代劇場」という設えで、校長が康代学匠にインタビューをする伝習座となりましたね。編集学校のメンバーに、はじめて校長がインタビューしたと聞きました。
吉村: そこから関わってくださるメンバーが増え、9月の20周年感門を実施。関西支所は近畿大学のビブリオシアターをスタジオにし、名古屋から曼那伽組の皆さんが応援で近大に駆けつけて撮影をご支援くださったのも大きかったですね。九州支所の九天玄氣組は耶馬渓から、仙台からも東北支所の未知奥連が中継。他にも、懐かしいあの人もこの人も、全国各地を中継でつないで無謀にも初の2日間連続イベントをやり遂げました。
吉村: そして、さらに厚みを増やして、10月に新生ハイパーが始まった。
川野: 怒涛のハイブリッド編集力でしたね。2020年を振り返ると、吉村編集長にとっては総じてどんな1年だったんですか。
吉村: 僕は流されるまま終わってしまったという感じで(笑)
後藤: えー!もうちょっと編集長っぽい振り返りをぜひ(笑)
吉村: そうねぇ。2019年はEdistを立ち上げ、正月に多読ジムがオープンしたんですよね。2020年はバタバタすぎました。9月の2日間にわたるオンライン感門之盟も、なにせ初めてやることでしたし。毎回ギリギリまで迷ったり悩んだりした大変な1年でした。参加したみなさんにも、ご覧いただいたみなさんにも大変迷惑をかけてしまいましたね。そういう後藤さんの2020年はどうでしたか?
後藤: 一言でいうと「メディエーションの年」でした。たとえば、伝習座は今までクローズドで行われていて、リアルの現場勝負という場だった。それがハイブリッド型に切り替わり、リモートの先にどう見せるかが加わった。2020年は新しいメディエーションの1年だったなと思っています。メディア化というのがどうしても必要になってきたので、メディエーションの量も質も、Edistとして上がったなという感じがしました。
川野: 伝習座に風穴があいたのは画期的ですね。編集学校を世に出していこうと言われて随分経ちましたが、コロナが要請してきた編集と、熟成してきた内部の問題意識が結びついたという感じにも見えます。
吉村: Edistがあってよかったですよね(笑)
吉村: デザイナーとして、デザイン面でのEdistはどうだった?
穂積: 2020年はそんなわけでイベントごとに気合を入れてデザインしていたので、場数を踏めた1年でした。ここまでいけばいいものできるなっていう感覚がわかってきた。そこに、松岡校長がディレクションをいれてくださるというのが大きかったですね。校長とのコミュニケーションが、デザインワークが増えてくことで増えていって、これが僕には大きかったです。
金: 20周年のタブロイド誌、64技法のロゴを使った風呂敷も穂積デザインでしたね。角川武蔵野ミュージアムのバナーをつくったりもありましたね。
穂積: はい、新生ハイパーのAIDAロゴもデザインしました。
金: あとは、『情報の歴史21』(2021年3月発売)も、ね。
穂積: 以前は、杉浦康平さん、羽良多平吉さん、戸田ツトムさんなど、工作舎系のデザインに良くも悪くも影響を受けすぎてしまっていたなと。それを、2020年はもっとカジュアルに寄せるというか、ポップな感じを入れていく中で、おもしろくなってきたと思ってもらえたんじゃないかな。
吉村: 2019年の年末には千夜千冊と連動で千夜の一夜ごとのカバーデザインをつくっていたと思うけど。
穂積: そうですね。千夜千冊が更新されるたびにカバーイメージをつくってみることを自主的にやっていて、1枚にまとめることが相当練習になりました。松岡さんが、デザインにまとめるときには「コンフィギュレーション」、「構造」が大事だとお話されるんです。情報を揃えたら構造を借りてこい、フォーマットをどうするのか決めろ、ということをアドバイスしていただいて。フォーマットをつくる。それをどうメディエーションしていくかを考えていたら、プロセスにそってデザインしていくことができるようになってきたと感じてます、あんまり大げさなことは言えないんですけれど(笑)
吉村: エディトリアル・デザインの構造をしっかり組み立てられるようになってきた、ってことだね。
穂積晴明 立教大学在学中に編工研インターン入所。在学中からプロジェクトを任せられ、クライアントには年齢の鯖を読んでいる。ういろう売り口上、チャールストン、ドラム演奏など多芸の持主。
松原朋子 設樂剛事務所 インターミディエイター。離を退院、師範代後、マイクロソフトを退社。全く機能していなかったイシス編集学校のSNSを駆動させ、イシス広報の基盤を確立、「あいだ」を編集する卓抜な編集マネジメント力であらゆるプロジェクトに欠かせない存在。
穂積: 小技が聞いているとも言っていただきましたが(笑)。 そう、2020年は、風呂敷がEdistからできたというのが画期的だったなと思っていて。グッズやものになるのは、再帰的に見ることで思い出されることもあるので、こういうふうに象徴的なものができていくといいなと思っています。2021年もいろいろ作っていきたいと思います。
吉村: 実はさ、2020年の新春放談でも、穂積くんはもっとグッズをつくっていきたいって言ってるんだよ(笑)
穂積: たしかに!!でも実は、2020年にできなかったこともあって汗。千夜ラップをやろうというのが途中で頓挫してしまったんです。僕自身は、話芸に関心があって、落語とか講談とかういろう売りもやっているので、千夜と連動して千夜講談をつくってみたいなと。
川野: へー。
穂積: そういえば、『百字百景』をひとつ講談にしたんですよ。金魚の話を講談でつくったんですけど
川野: へー、それは聞いてみたい。
穂積: それも誰に見せるでもなくコッソリやっていたので、2021年はそういうものもお見せしていけたらいいかなぁ。
吉村: 深谷花目付のラジオエディストがオープンしたから、連携してもいいかもしれないね。
松原: 2021年の編工研年賀状も、穂積さんのデザインですか?この記事のカバーイメージがそれですよね。
穂積: そうなんです、吉村さんからの提案で十牛図をデザインしました。その流れで僕も十牛図や禅のことを調べていて。それと、臨済宗のお坊さんと仲良くさせていただいているのもあって、仏教的なものをリデザインするのは面白い試みだねと言っていただいてます。2021年は「アーバン・ブッディズム」でいくしかないな!と思っていて。シティ・ポップな感じと仏教の感じを寄せていったら面白いんじゃないかな。デザインもそういう方向でやってみたいなと思っています。深刻になりすぎない仏教(笑)。
川野: わー、アーバン曼荼羅とかみてみたいな。
穂積: 「アーバン・ブッディズム」を期待してください!(笑)2021年はそんな感じで、小ネタも色々含めてEdist頑張っていきたいと思ってます。
松原: あ、ちょうど今日のおひとり目のゲストが今いらっしゃいましたよ。
2021新春放談企画「エディスト・フェーズがついにきた!」
其の壱 -不足から編集が始まった
其の弐 -師範代ライターの初誕生(1月2日公開)
其の参 -ランキング独占、マンガの模写(1月3日公開)
其の肆 -千悩時代に多読あり(1月4日公開)
其の伍 -編集的可能性の苗代へ(1月5日公開)
エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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