遊刊エディストの新春放談2025、其の伍までやってきました。今回は、みなさんがこの美しい言葉遣いの謎に迫ってみたいであろうこの方をお呼びしました。エディストでは「編集用語辞典」でおなじみ、2024年にもっとも活躍したエディスト・ライターのおひとりとして編集部がいち推しする、丸洋子師範代がゲストです。
◎遊刊エディスト編集部◎
吉村堅樹 林頭, 金宗代 代将, 後藤由加里 師範, 上杉公志 師範代, 松原朋子 師範代,
◎ゲスト◎
丸洋子 師範代
金 今回は、編集部いちおしエディスト・ライターということで、丸さんをお招きしました。
吉村 丸さんのエディスト連載といえば、「編集用語辞典」です。これが2020年のスタートで、2024年末までにとうとう19本目まできました。
丸 そんなふうにおっしゃってくださってありがとうございます。
上杉 丸さんは、吉村林頭ひきいる“エディスト林頭部”に入って、執筆をつづけておられるんですよね。
吉村 そう、林頭部で現在稼働中のエディスト・ライターは丸さんだけですかね、今は(笑)
◆流麗な文章の運びに魅了されるシリーズ「編集用語辞典」
後藤 編集用語辞典には皆さんがいつも感動されているんですよね。原田淳子学匠は丸さんの記事を読んでもらいたい、物語編集力について丸さんが書いたものを読ませたいとおっしゃっていましたよ。
丸 実は原田学匠は、私が[破]のときの師範代なので、すごく身内びいきしていただいていると思います(笑)
後藤 そうなんですね、でも、実際に丸さんの記事を参照している師範代が多いと思います。
丸 種を明かせば、松岡正剛校長著の『見立て日本』を参考に、アーキタイプ・プロトタイプ・ステレオタイプを大事にしましょうと吉村林頭のご指南をいただきました。毎回お題と、参考文献やヒントをいただけるので、それを手すりにやらせていただいています。これは自分一人ではできないことです。
吉村 丸さんの文章が出来上がってくると、毎回、あ、ここから入るんだということに驚かされますね。いつも、どんな感じで冒頭の話を持ってこられているんですか?
丸 冒頭は、皆さんが読み始めてくださるところなので大事だなと思っています。そこで、お題とは距離のあるものを何か置きたいと。林頭からお題をいただくと、注意のカーソルが知らず知らずのうちに働いているようで、最近見た展覧会とか、読んだ本とか、たまたま友達が話をしていた本などが、偶然のようにお題とつながっていることに気が付きます。家の本棚をながめていても、注意のカーソルが働いているのか、これ!というものが見つかったりします。松岡正剛校長の本がとりわけ参考になりますが、千夜千冊なども自然につながっていく感じがしています。
吉村 同じ林頭部の宮前鉄也くんも、見事な流れだと絶賛していましたね。毎回私も、待ってました、という感じです。あそこまでの密度で文章を書ききることは、相当な力がないと難しいと思うんですよね。
🐍編集用語辞典🐍
ゆっくりと、でも着実に編集力をあげながら回を重ねる丸洋子さんのコラム
2020/01/15:01[編集稽古]
2022/09/23:07[エディティング・モデル]]
2024/07/27:18[勧学会(かんがくえ)]
2024/12/09:19[ISIS(イシス)]
◆吉村林頭とのお題・指南のラリーが突破口
丸 最初は文字制限があって、それもきちんと最後まで文字数が満たなくて辛いなと思った時期に、いちど林頭が、指南を何度も繰り返してくださったことがありました。それが突破口になって、もっと自由でいいんだ、もっと自分の中で掘り下げていいのだと思い、そこから、いろいろな領域から情報を引っ張ってこられるようになりました。
吉村 最近では初稿をいただいたときに特に何もフィードバックすることがなく、もうこのままでいいですという感じです(笑)
丸 毎回、おかげさまで色々なことが学びになっています。例えば、小見出しは揃えることを指南していただいたり、自分の不足がよく見えてきて、毎回はっとさせられます。ご指南を受けて何より感じるのが、編集力がなぜ今の世の中にとって必要なのかという視点の不足です。提出し終えたと思ったら、いつもあっというまにご指南が返ってきてしまうんですよ。
マツコ 手放したら、もう少しゆっくりしたいのに返ってきちゃうのですね(笑)
吉村 一冊の本になるぐらいの、厚みが出てきていますよね。これだけたまるとリスト化したいですね。
マツコ 最近、チーム渦の皆さんとの記事作成を担当しているのですが、用語を解説する際には丸さんの編集用語辞典にリンクを張ることが多いんですよね。実はBPTについてのよい解説がエディストにまだないようで、次はBPTを取り扱っていただくことはいかがですか? 丸さんにリクエストしてもいいのでしょうか?
吉村 次のお題はもう出ていて、「イメージメント」なんですが、その次は「BPT」にしていただくようにしましょうか。校長が参考にされた認知系の書籍をあたってみていただけるといいでしょうか。
丸 リクエストいただけるのはとてもうれしいですね。
◆ある時を機に、文体がガラッと変わった?
吉村 丸さんには、編集学校のプロジェクトにも参加していただいていて、昨年は某化粧品メーカーのプロジェクトで翻訳をサポートいただくこともありました。そんななかで、僕は、丸さんとの色々なプロジェクトをめぐるコミュニケーションをしていると、日ごろの疲れも吹っ飛びます。僕らの立場になると受容されることがないんですよ。もう誰にも褒められることはないんです(笑)。でも、丸さんはすごく鼓舞する言葉をかけてくださるんですよね。丸さんの言葉がけは、そこに丸さんの人柄が表れていると思うんです。
後藤 その温かい雰囲気のみなもとは何でしょうか?
丸 いえいえ、私のことよりも、吉村林頭には、たとえば伝習座やISISフェスタの司会を拝見しても、毎回心を打たれているんですよ。感門之盟の時のご挨拶もそうです。林頭こそ、ご準備をそうとうなさるんですか?
吉村 これですよ笑。そうですね、もちろん準備はしますが、“『情報の歴史21』を読む”イベントのシリーズでは、ゲストがいらっしゃるので、その場を見ながらやっているところはあります。
丸 場を見ながら、全体への細やかな目配りと常に本筋を外さない場の本来と将来をみごとに捉えるという、その両方の目が常に行き届いていて、いつも深い気づきを頂いています。
マツコ あの、新年ですから、皆さん、丸さんに便乗して、褒められることはないっておっしゃっている吉村さんに、何か褒めポイントがありませんか?
後藤 私は結構、いい時には吉村さんにお伝えしているつもりですよ(笑)
吉村 そうそう、後藤さんは日ごろから本当によかったときは、ポイントを伝えてくれています、はい。
【第84回感門之盟】居合わせることの大切さ 〜 吉村林頭OPメッセージ
【速報】林頭吉村が明かす「3つのネオバロック」とは?【52[守]・53[破]伝習座】
後藤 私は丸さんに2つ伺ってみたいことがあったんです。ひとつは、2024年最後の丸さんの「編集用語辞典」(19[ISIS(イシス)])を読んで、まるで離論を読んでいるような感じがしたんです。9000字あって、驚きました。松岡校長が亡くなられた後での初めての記事でしたし、イシスがテーマです。ですので、丸さんは離論に臨むような思いだったのかなと思ったんですね。
丸 ああ、そうですねぇ。
後藤 もうひとつ、エディストが始まって以来、私は勝手に、丸さんは長谷川時雨のような香り高き文章だなとイメージしていたのです。けれども、ある時を境に文体が変わられた気がしています。香り高きというよりは、より硬質な文体にシフトされたような気がしたんですよ。ご自身で意識して変えられたことってありますか?
丸 一度、編集ミーティングを林頭と行いまして、ちょうど「別院」(2022年2月24日公開)を書き終わったころです。書き終わって見ていただくと、林頭からコンパイルが足りないとアドバイスいただいたんです。それまでは、エッセイ風に、独りよがりで書いていたなと思いなおしまして、コンパイルを意識するようになりました。文字数も、制限を超えていいことが分かりましたので、引用をたくさん入れて、スタイルを変えてみました。
後藤 やはり、そうだったんですね。
◆文字1つからシソーラスを広げ、意味の多重性を表現
吉村 丸さんのシリーズは、単語1つを取り出して書いてくださっているので、みんなそれを参考にしますよね。そうすると、下手するとそれが正しいことだと思う人が出てきます。丸さんのエッセイのすばらしさはもちろんありますが、他にも解釈があるよと、色々と必要な情報は付けておいたほうがいいとお伝えしたと思います。
丸 「別」という字への意識が足りなくて、単に「別院」という狭い範囲で考えてしまっていたんです。「別」という文字の持つシソーラスをもっと広げていくことを、吉村さんに指南いただきました。
後藤 確かに、文字量が最初と全然違いますね。
丸 最初は800字だったんですが、それを超えてもいいんだということが分かったので…。
後藤 当初の10倍ですよね。
丸 あまり長いと読む皆さんはしんどいですよね?
後藤 いや、読みづらくは全くないんですが、読めども読めどもスクロールし続ける…ということになりますね(笑)
上杉 私は、丸さんが以前書かれた感門之盟の記事が記憶に残っています。八田律師が着ていた着物の帯に描かれていた女神イシスに注目くださった記事なのですが、この記事が、松岡校長も大切にされている「超部分」や「ハイパー」をエディストするモデル記事として、多くの方が参照なさっているのではないかと想像しています。
イシス女神の帯結び 感門之盟
上杉 それから、2022年の校長の誕生日企画で一斉にプレイリストを作ったときに、丸さんとやり取りをさせていただいたんですよね。丸さんが選んでくださった5名の記事はそのセレクションだけで、ライターだけでなくイシス内外の魅力が網羅されていて、あぁ、これが丸さんのイシスやエディストへのあたたかなまなざしなのだなと感じていました。
【Playlist】ダークサイド・オブ・ザ・ムーン5選
上杉 JUSTライターが集まるまでは、感門之盟などで松岡校長メッセージを速報でお願いするなど、速度と編集力がもとめられる記事のライティングを、たびたび引き受けてくださいました。エディストのJUST記事の歴史をつないでくださりありがとうございます。
【速報!校長メッセージ】私たちは骰子を振るたびに新しい世界に出合える【78感門】
【速報 校長メッセージ】Q→Aの既知の世界からQ→Eへと羽ばたく蝶【79感門】
◆ポイントを外さない記事づくりを支える学びと指南
吉村 丸さんはレポート記事も上手ですよね。ここだよね、というポイントを押さえています。大音さんが多読ジムを始める時の、冊匠ですよ、という記事もよかった。丸さんの記事には、上品だけどユーモアがありますよね。
「殺傷ではありませんよ」 大音美弥子の新ロール
丸 ユーモアがあるとおっしゃっていただけるのは光栄です。日ごろから超真面目人間で、ユーモアが本当に苦手なので、嬉しいです。
マツコ 丸さんは大学時代やお仕事の中でなど、記事や文章を書くトレーニングをなさったことがおありなんですか?
丸 大学は社会学専攻だったのですが、内容的には重なるところが少しあると思っています。その後、翻訳の勉強をしまして、1冊だけ小説を翻訳したことがあります。早稲田大学の大人のための学校があって、そこで翻訳教室に4年ぐらい通っていました。その時の先生が厳しい先生で、翻訳は大理石の壁に爪を立てて登るようなものだという事で、 “てにをは”を細かく確認したり、ぞんざいな言葉を使うと文学への冒涜だという感じで、細かく指導してくださったんですね。もうひとつは、花伝所での指南です。道場の花伝師範が三津田知子さんだったのですが、その時に、指南の仕方について姿勢のようなものをきちっと教えてくださいました。それも身に染みて、勉強になりました。
金 2025年をどんな風に過ごしていきたいという事がありますか?
マツコ もちろん編集用語辞典は継続で!
丸 このシリーズを担当させていただいて、書くことを前提にしてモノを読むということが毎回実践できています。スローなペースで申し訳ないのですが、続けさせていただけたらありがたいです。ただ漫然と読むときと、お題をいただいて読む時では、全く読み方が変わるので。
吉村 先ほども言いましたが、丸さんのアーカイブリストを用意しないとですね。
丸 後藤さんが、20本公開されたらアーカイブ記事にしようといってくださったので、それが励みでやってきました。
後藤 そう、あと1本ですね!
吉村 では、まずは2025年の1本目ですね。楽しみにしています。
次回、其の陸が、今年の新春放談ラスト記事です。
最後は、編集部メンバーが2025年の抱負・展望を語ります。どうぞお見逃しなく!!
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🎍2025年 新春放談🎍
其の壱 – 今年、エディストは“松岡正剛の再編集”へ向かう(1月2日公開)
其の弐 – 死者との約束を胸に、新潮流[多読アレゴリア]を動かす(1月3日公開)
其の参 – イシス随一のマエノメリな姿勢が武勇伝をつくる(1月4日公開)
其の肆 – [離]・[AIDA]・[多読アレゴリア]をまたにかけ、創跡を残す(1月5日公開)
其の伍 – ひと文字から広がるシソーラスが自由の境地をひらく(1月6日公開)(現在の記事)
其の陸 – 編集力をあげ、「遊気」をもって、いざさらに刺激的なイシスへ(1月7日公開)
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エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
2025新春放談 其の陸 – 編集力をあげ、「遊気」をもって、いざさらに刺激的なイシスへ
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2025新春放談 其の参 – イシス随一のマエノメリな姿勢が武勇伝をつくる
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2025新春放談 其の弐 – 死者との約束を胸に、新潮流[多読アレゴリア]を動かす
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