遊刊エディストの新春放談2025、其の弐 をお届けします。
2日目は、松岡正剛校長を編集部の誰よりも長くご存じで、2024年も大活躍、2025年も注目し続けるべきこの方をゲストにお呼びしました。[多読アレゴリア]終活読書★四門堂を率いる大音美弥子冊匠です。
◎遊刊エディスト編集部◎
吉村堅樹 林頭, 金宗代 代将, 後藤由加里 師範, 上杉公志 師範代, 松原朋子 師範代,
◎ゲスト◎
[多読アレゴリア] 終活読書★四門堂 大音美弥子冊匠
金 大音冊匠の四門堂、すごくいい出だしですよね。
吉村 始まる前は、募集はずっと5人ぐらいで停滞していましたが。
大音 そうなんです、でも、17人で出発することになりました。
吉村 さすがですよね。というわけで、ゲストお一人目は、大音美弥子冊匠をお呼びしました。12月から、[多読アレゴリア]で、全体を見渡す冊匠ロールと、クラブも主催いただいています。
大音 はい、四門堂には、どうにかたくさんの方に集まっていただけましたね。ほっとしました(笑)
大音美弥子冊匠
編集的先達:パティ・スミス 「千夜千冊エディション」の校正から書店での棚づくり、読書会やワークショップまで、本シリーズの川上から川下までを一挙にになう千夜千冊エディション研究家。かつては伝説の書店「松丸本舗」の名物ブックショップエディター。読書の匠として松岡正剛から「冊匠」と呼ばれ、イシス編集学校の読書講座「多読ジム」を牽引。2024年12月からは新しく立ち上がった[多読アレゴリア]の冊匠と[多読アレゴリア]終活読書★四門堂を率いる。
◆昔々のイシス編集学校、“高をくくるな”発言におののいた
吉村 大音冊匠は、僕よりももっと以前から松岡正剛校長を知っているし、思いをもって継続してこられているので、感じられることが多いのではないかと思うんですよね。
大音 私が入門したころ、松岡校長がちょうど胃がんで入院されていました。私たち学衆はそんなことを知る由もなく、お稽古させていただいていたんですが、その期は校長が不在だったんですよ。その後、第2期の花伝所に入伝して、その時に初めてナマ校長にお会いしました。みんなに“高をくくるな”、とおっしゃったんですよね。そんな言葉を生きている人から言われたのは初めてだったので、しかも、本気でおっしゃっているのを感じたので、これはすごいところにきてしまったという気持ちでした。
吉村 それは驚きますね。
大音 印象深かったですよ。その後、師範代になるために伝習座にいきますよね。校長は、ずっとうしろの方で何かしていたんです。それが、『千夜千冊全集』(九龍堂版)の校正だったんですよね。ちょうど赤坂と麹町のあいだにあった剛堂会館を借りてやっていたころです。赤坂の玄関でいつも出迎えてくれた「図書街」が、意匠新たに[多読アレゴリア]のシンボルとなってくれるのは、新旧交錯するようで、とてもうれしいことです。
◆評判上々、四門堂。[多読アレゴリア]で死について考えたかったわけ
吉村 [多読アレゴリア]で、死について考えるクラブをもとうと思われたきっかけでもあるのですか?
大音 校長については、発案していたときにはまさか校長がなくなるとは思っていなくて、お見せしたら、“ えー、できるの?”と言われるだろうと思っていたんですが…。実際にクラブがスタートしてわかったのは、松岡正剛の死を契機に、もっと考えたほうがいいんじゃないかとおっしゃっている人がいるので、四門堂をつくってよかったかもしれないなと思っています。
吉村 冊匠はずっと死を考えられてきたのかなと思うんですが。
大音 編集学校初期のころからのメンバーでいえば、師範の池澤祐子さんが亡くなられて、昨年の12月で丸3年が経ちました。まるで昨日のことのように思い出しませんか。
吉村 2020年以降に、イシス編集学校では、そういうことが次々に起こった感じがあります。
大音 お祓いしなければといっていたじゃないですか(笑)
吉村 そんな話もありましたね(笑)。大音さんにはイシスの歴史とともに様々なことを担っていただいています。大音さんは僕が[破]の学衆の時の師範なんですよね。 [破]の師範としては長くやっていただいていて、2009年に松丸本舗ができたときにはブックショップエディターをされました。
吉村 それから、2019年に[多読ジム]が新設されてからは冊匠というロール名になって、そして、2024年12月からは[多読アレゴリア]へ。イシスの変遷とともに、かかわっていただいていますね。
▶「殺傷ではありませんよ」 大音美弥子の新ロール (2019年11月20日公開)
後藤 私も[破]学衆の時の師範が大音さんでした。師範代は鈴木康代学匠で、汁講で松丸本舗に行ったのがものすごく楽しかったです。
大音 2004年の秋に入門しているので、もう20年ですか。
吉村 ご覧になってきて、学校の変化はいかがでしたか。
大音 校長が優しくなっていって、それに比例して、学衆で変な人が減っています。たとえば思いつきでパっとおもしろいことを言う人が減ったかなと、これは残念に思っているところです。ですから、[多読アレゴリア]ではぜひ、境界を自分たちで作っていくと思って、面白くやっていけるといいかと考えています。
吉村 思いつきというのはどんなことですか?
大音 例えば、人の読んでいないような入手不可能な本を持ち出すとか。それは共読できませんというような、それはオカルトでしょう、みたいな本とかね(笑)
吉村 確かに。皆さん段取りもしっかりしていて、頭のいいスマートな方々が揃っていますね。松岡校長が言われていた玉石混交のところが少なくなっているでしょうか。
大音 最近は世間一般を知らなくなって久しいので、世間一般からすると今でも十分に変な人たちが集まっている場なのかもしれないですけれども(笑)
吉村 僕の時代は、[破]の汁講にいって、林十全さんが座っていらして、この方はだれだ?!ということがあったんですが、最近はそういうことがあまりない?
大音 岡村豊彦師範が[破]の汁匠として、そういうことをやっていたことがありましたね。それには懐かしい気持ちがしました。今は、[多読アレゴリア]の音づれスコアに関わられていますが、先週買ったCDを紹介してくれていて、あれはすごいですね。CDショップだけじゃなくて、メルカリなどでも買っているんですね。推しているのがモトリークルーだったりして、私から見てもさすがに古いよね!!なんてね(笑)
上杉 岡村師範は、音づれスコア内「【先週買ったCD】」というコーナーを毎週始められています。ご自宅の所蔵CDは5万枚をこえるということでしたが、そこで紹介されるCDの数を見る限り、決して誇張ではないようです…!
後藤 5万枚をどう編集して収蔵されているのか覗いてみたいですね。
大音 私は買う、買わないの境界が知りたいです。これと比べてこっちはやめた、だとすると、何が決め手だったんだろう?
吉村 岡村師範・植田フサ子師範夫妻で2024年に立ち上げた青熊書店を訪ねたら、なぞのCDとかVHSのビデオが置いてあったりしましたよ。アメリカンシネマのものがおいてあって、岡村くんの趣味かなと思いました。自由が丘の現在の店舗は2024年までということですが、2025年も、場所を移して青熊書店が継続されるようですね。
▶2024年、イシス編集学校で一世を風靡した青熊書店。
2025年、新天地の発表が待たれます。
◆未知なる道をいく。そのプロセスを楽しむ、多読アレゴリア
大音 ところで、[多読アレゴリア]は未知ですね。これからどうなっていくのでしょう?
吉村 僕も“千夜千冊パラダイス”というクラブをもっているんですが、参加者の皆さんの出だしをみると、スケジュールでいうと出題は今日だけども、ずらしたほうがいいかな、とか思ったりしますね。
大音 うちの四門堂でもそうなんですよ。お題はある程度決めているのですが、この顔ぶれだったら、図解のお題をもっと出さない?というように、何がどうなっていくか、予測がつかないんです。そのおもしろさはありますね。校長の誕生日、1月25日には、プレゼントやギフトにするようなものをみんなで企画してやってみたいなとも思っています。
吉村 なるほど、なるほど。[多読アレゴリア]から1月25日に向けて何かを企画するのはいいかもしれませんね。アレゴリアでは、各クラブで行われていることをエディストでメディエーションしていってほしいし、アウトプットがあると面白くなると思うんですよ。武田英裕師範と一倉広美師範によるアレゴリアTVもありますし。
金 それぞれのクラブが工夫して、突出を見せる動きが出てくると面白くなるなと思っているんですけどね。でも、中でも四門堂のお題はすばらしい! 冊匠の本気を垣間見た気がしました
吉村 四門堂は今後どう進んでいくんですか?
大音 冬は肩慣らし。冬の3か月をかけて、死生観の輪郭を自分で探しながら進みます。最後にどんな本を読むのか、攻略する方法を決めて宣言します。そのあと春から秋にかけて、何週間かに1回、どれぐらいまで本を読めたかを聞きながら、春夏秋のテーマごとにお稽古していく、というような流れを想定していますが、実際にどうなっていくのか、まったく未知ですね。
◆現代人の死に一石を投じるイシス編集学校:惜門館と四門堂
吉村 ここからどんなアウトプットが出てくると思いますか?イシス編集学校では、「惜門館」というイベントをつくりました。亡くなった方を追悼する機会を学校内で持つものです。現代は、身近な人の死も遠い感じがあって、親戚も故人をあまり知らないし、関係が希薄な中で葬儀会社によって死が扱われます。一方で、惜門館は、編集学校の独得なもので、その方が関わった年月の人々が集えますし、エディットカフェにはその方のログが残っています。四門堂は現代人の死をどうとらえるかという問いにリンクしていると思っています。
大音 自分だけじゃなくて、大事な人の死に対してどう取り組むか。グリーフケアという言葉もありますね。さらに、戦争や災害で一挙に人がまさかという死に襲われるときがあります。それに対してどう考えるかというのは大きなテーマだと考えています。ですが、顔が見えるかどうか、想像できるかどうかが問題でしょうね。
吉村 進みながら出来上がっていくのが[多読アレゴリア]のクラブでもありますね。
大音 みんないろいろな本を挙げてくれるので、それは参考になります。
上杉 エディストでリスト記事にしてもおもしろそうですね。
大音 ありですね。四門堂では、稽古する場とは別に、文庫という場所を用意していて、そこに「毎日の命日集」を発信しているんです。それで、蕪村の句に、「凧(いかのぼり)きのふの空の在りどころ」ってあるじゃないですか。昨日の空の高く登ってしまったものを見つめている、もう行方の分からなくなったものを見つめる、という感じで、千夜千冊を中心に、昨日亡くなった人の情報を共有しようということになって。最初の一人はジョン・レノンでした。
後藤 私はその命日集を見るのが毎日の楽しみになっています。2025年、大音さんは[多読アレゴリア]中心ですか。
大音 わたしの場合、おゆうさん(池澤師範)、渡辺高志さん(師範)、父、そして校長と、四人の死者から出遊の背中を押されている気がしているんです。それぞれの方との約束は、ほとんどがこちら側が勝手に思い込んでいることでもあり、それを実現するまでには何年かかかると思いますが、2025年はせめて「破らない」年にしたい。「死者との約束」は破れない、と思っています。その意味でも、2025年は[多読アレゴリア]、四門堂ですね。
吉村 大事なことですね。そんな冊匠が入魂で関わってくださるアレゴリア、そして四門堂を、こうご期待ですね!
大音 四門堂を運営しながら全体を見るのも楽しみですし、ほかのクラブも、上杉さんの音楽室をはじめ、みんな楽しそうにやっていますね。事務局としての後藤さん、各クラブをディレクションしてくれた吉村林頭、金代将の粉骨砕身の尽力があったからこそ、[多読アレゴリア]は走り出しましたね。
金 アレゴリアでは忖度ベースではなく、突飛なものも生まれるような編集を起こしていきたいですね。
吉村 放談の機会に、大事な話を聞かせていただきました。2025年も、大音冊匠の大活躍を楽しみにしています。
今日はここまで。其の参 へ続く!
大音冊匠に続いて、[多読アレゴリア]四門堂メンバーでもあるエディスト・ライターHさんがゲストです。
お楽しみに~🐍
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🎍2025年 新春放談🎍
其の壱 – 今年、エディストは“松岡正剛の再編集”へ向かう(1月2日公開)
其の弐 – 死者との約束を胸に、新潮流[多読アレゴリア]を動かす(1月3日公開)(現在の記事)
其の参 – イシス随一のマエノメリな姿勢が武勇伝をつくる(1月4日公開)
其の肆 – [離]・[AIDA]・[多読アレゴリア]をまたにかけ、創跡を残す(1月5日公開)
其の伍 – ひと文字から広がるシソーラスが自由の境地をひらく(1月6日公開)
其の陸 – 編集力をあげ、「遊気」をもって、いざさらに刺激的なイシスへ(1月7日公開)
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エディスト編集部
編集的先達:松岡正剛
「あいだのコミュニケーター」松原朋子、「進化するMr.オネスティ」上杉公志、「職人肌のレモンガール」梅澤奈央、「レディ・フォト&スーパーマネジャー」後藤由加里、「国語するイシスの至宝」川野貴志、「天性のメディアスター」金宗代副編集長、「諧謔と変節の必殺仕掛人」吉村堅樹編集長。エディスト編集部七人組の顔ぶれ。
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