昆虫の巨大な複眼は、360度のあらゆる斜め目線を担保する無数の個眼の集積。
それに加えて、頭頂には場の明暗を巧みに感じ取る単眼が備わっている。
学衆の目線に立てば、直視を擬く偽瞳孔がこちらを見つめてくる。

「「つもり」と「ほんと」を分けちゃだめ」
8月に入るとともに大型の台風9号が本州近くの関東に接近しました。暴風雨は遠ざかりましたが、猛暑の影が忍び寄っていますね。気温の上昇とともに、イシス編集学校の編集コーチ養成コースであるISIS花伝所における最後のプログラム・花伝敢談儀が豪徳寺駅近くの編集工学研究所で8月2日に開催されていました。
花伝所の所長・田中晶子のオープニングメッセージの後、編集コーチである師範代の扉を拓くためのプログラムである図解ワークの課題の発表が行われました。今回、ダイジェストでレポートいたします。
◎花伝敢談「物実像傳」
図解お題は千夜千冊エディション『少年の憂鬱』を読み、発見した松岡校長の視点、実感したこと、今にしてさしかかりたいと思ったことなどをA4サイズ1枚に凝縮します。師範代認定を受けた放伝生(受講生)たちが回答図解に対して、花伝所の師範と問答を行いました。
やまぶき道場の放伝生Mの図解から紹介します。左側に「夏ん音」という屋台がありますね。観音様とバーのママを合成した移動型教室であり、屋台とすることで危うさや、どこへでも行ける自由を象徴していることが問答を通じて明らかになりました。後ろ姿の人物は男性でも女性でもなく、少年性を抱いている大人のようです。きっと誰もが持っている「わたし」の1つなのでしょう。
しろがね道場の放伝生Iの図解は、「幼な心=大日如来」を中心に置いた曼荼羅構造でした。胎蔵界曼荼羅としての人々の内側の感情やカマエを描き、さらに編集学校の守講座と破講座の仕組みを金剛界曼荼羅として重ね合わせています。さらに、教室の中での編集稽古で遊ぶイメージをスミレ色、紫色などの金色反応として図解の背景に投影したようですね。
くれない道場の放伝生Uの図解では、手塚治虫のマンガ『火の鳥』を想起する幼い鳥が登場します。自らを焼いて何度も生まれ変わる存在として、過去を振り返るのはつらいが、火の中をくぐって蘇る覚悟を持つメタファーとなりました。『少年の憂鬱』に収められた千夜千冊『銀の匙』的な要素が幼い鳥の純真な表情として反映されたのですね。音符が隣に置かれていますが、これは放伝生Uが最近出席した演奏会が図解の契機になったようです。平時でも有事でも、注意のカーソルが動いてチャンスを掴み取っていますね。
◎オツ千ライブ 千夜千冊エディションレクチャー&レビュー
図解問答の後、編集学校のオツ千ライブを担当している林頭の吉村堅樹と方源の穂積晴明によるレクチャーがありました。エディション『少年の憂鬱』が選ばれた理由が明かされます。方源・穂積の熱意が所長・田中を動かしたのですね。校長の思想に深く関わるテーマの1つとして、少年の憂鬱が取り上げられたことには、編集の本来を再確認したいという意図が込められていたのです。
編集学校で重視される「幼な心」は、既存の意味を自由に読み替える力を持っています。たとえば守講座のお題に登場する「コップは何に使える?」という問いに、子どもの頃は楽器やおもちゃとして見立てることができますね。あらゆるモノには「読み替え可能性」があり、それを発見する感受性とアナロジーの力が少年や少女に宿っているのです。
木のあやつり人形・ピノキオは脆く、制御されないフラジャイルなキャラクターですね。現代社会が排除しがちな「揺らぎ」や「怖さ」を含む存在です。むらさき道場の放伝生Nは、ピノキオの図解を通して、社会における「結界」や「歯止め」といった見えない秩序に着目したようです。図解の中でも鼻の近くに揺らぎの波が描かれていますね。
汚いもの、危ないものを遠ざけるのではなく、それらを包み込んで生きるカマエこそ、少年の持つ寛容さなのですね。
私たちはしばしば、「AかBか」と選択を迫られますが、少年の憂鬱は「AとBの間」に留まるカマエを持っています。この「間」は関係を結ぶ中間的な場所ではありません。実は存在の生みの親なのです。そこから別様の可能性としてA、B、C、D……が派生してゆくのです。くれない道場・放伝生Tの図解に「あわい」という言葉が中央に据えられていましたね。それは「間」を提供する場所だったのです。
私たちは「ほんと」と「つもり」のあいだを行き来すると言われることがありますが、林頭・吉村は
「つもり」と「ほんと」っていうのがあったら、これを分けちゃだめ。全て「つもり」でいいのです。
と語りました。大人になると2つを分けてしまいがちですが、幼な心を取り戻すために2つを混ぜることから始めたいですね。
人は何かを決めるとき、しばしば「お金がない」「自信がない」といった社会的に通用する理由(Why)を用いて自己決定を装います。それは本当の判断ではありません。当てのない方へ向かう決断こそが少年の憂鬱に内在する力なのです。
ライブの後、先達師範による過去期での師範代経験の対談プログラムが始まり、放伝生たちは師範代に「なる」ためのカマエ成分を増やしていました。
畑本ヒロノブ
編集的先達:エドワード・ワディ・サイード。あらゆるイシスのイベントやブックフェアに出張先からも現れる次世代編集ロボ畑本。モンスターになりたい、博覧強記になりたいと公言して、自らの編集機械のメンテナンスに日々余念がない。電機業界から建設業界へ転身した土木系エンジニア。
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